出版状況クロニクル82(2015年2月1日〜2月28日)
15年1月の書籍雑誌推定販売金額は1088億円で、前年比0.6%増。13年5月以来、20ヵ月ぶりに前年を上回っているが、前年が5.5%減と大きかったことに加え、送品増加と返品減少によるものである。
その内訳は書籍同1.3%増、雑誌0.1%減、雑誌のうちの月刊誌は3.5%増、週刊誌は11.6%減。返品率はわずかに前年を下回ったが、書籍37.0%、雑誌44.1%と高いままだ。
これらの送品に基づく書籍雑誌推定販売金額は前年を上回るものになっているけれど、書店実売は前年比7%台のマイナスで、書籍は同7%減、雑誌6%減、コミックス10%減、ムック8%減と、全滅状況にあるといっていい。それに合わせ、来月以降の書籍雑誌推定販売金額も下方修正されていくだろう。
1.複数の確実な情報筋によれば、リブロ池袋本店が 6月で閉店するようだ。
[箝口令がしかれ、まだ報道されるに至っていないこの一件をあえて記すのは、これが現在の出版危機下における象徴的な事件であり、書店という近現代の神話的物語の終焉を告げる出来事だと思われるからだ。
1980年代はリブロ池袋の時代で、まさに出版と書物の聖地だった。多くの若い読者たちがその棚に魅せられ、通ったと伝えられているし、そのような書店というトポスが存在していたゆえに、ニューアカデミズムブームも招来されたのである。それらに関しては「出版人に聞く」シリーズの今泉正光『「今泉棚」とリブロの時代』、中村文孝『リブロが本屋であったころ』などの証言が得られているので、あらためて読んでほしい。
しかし当時のリブロは西武百貨店傘下にあったのだが、現在は日販の連結子会社となっていることも留意すべきで、池袋本店の閉店は松戸店、熊本店に続くものであり、さらなる閉店も考えられる。すなわち日販もリブロを支えられなくなり、リストラへと向かいつつあることを意味している。それはナショナルチェーンも例外ではないことを浮かび上がらせている。その他にも様々な要因が複雑に絡んでいると伝えられている。
ちなみに本クロニクル75 にも示しておいたが、2012年書店売上高ランキングにおいて、リブロ(miomio、よむよむ、パルコも含む)は15位、売上高213億円、店舗数89で、現在は81店である。だがいずれ『リブロという本屋があったころ』という一冊が書かれる時も迫っているのであろうか]
2.『新文化』(2/5)が「相次ぐ閉店……仙台の書店状況」をレポートしているので、要約してみる。
* 仙台駅周辺の書店が相次いで閉店している。ジュンク堂仙台本店、あゆみブックス仙台店、ブックスみやぎ、さらに湘南ブックセンター桜ヶ丘店と続き、これは「異常な状況」で、地元の出版マーケットが危機に瀕している。
* 仙台に限ったことではないが、駅周辺書店事情は一変し、かつての老舗御三家の金港堂、高山書店、宝文堂で営業を続けているのは金港堂だけで、アイエ書店、みやぎ書房も看板を下ろした。
* その一方で、ジュンク堂が駅前に3店、丸善仙台アエル店、TSUTAYA仙台駅前店が出店した。だがジュンク堂は2店を閉店し、現在は仙台TR店1店の営業となっている。
* なくなった老舗を経て、現在も地元書店に勤める書店員の言として、次の言葉が引かれている。
「高山書店、アイエ書店、宝文堂といった地元の書店が2000年頃から一気になくなった。大型書店が地元の商売を破壊して、そして去っていく。今までそこで働いていた人たちは職にあぶれ、雇用環境までぐちゃぐちゃになる」
* また別のある地元の書店の言も引かれているので、それも記しておこう。
「『ある』と思っていた大型書店がなくなってしまうので、『やっぱり地元の書店に行こう』と考える人は確実に増えていると思う。実際自店は売り上げが伸びている。これからはナショナルチェーンの方が安穏としていられないのではないか」
[私が営業していた時代は1990年代で、御三家があり、アイエ書店があり、それに八重洲書房がまだ健在だったし、東北大生協も売れていた頃であった。
このような仙台書店状況レポートを読むと、今世紀に入り、まったく一変してしまった出版マーケットの現実がリアルに迫ってくる。そしてそれが仙台だけでなく、すべての地方に及んでいることも。
だがその多くは仙台よりも深刻で、「やっぱり地元の書店に行こう」と思っても、もはや地元の書店すらもなくなってしまっているのが現実であるからだ]
3.2014年度も含めた雑誌推定販売金額と販売部数の推移を示す。
■雑誌推定販売金額(単位:億円) 年 雑誌 前年比 月刊誌 前年比 週刊誌 前年比 1997 15,644 0.1% 11,699 0.1 3,945 0.1% 1998 15,315 ▲2.1% 11,415 ▲2.4% 3,900 ▲1.1% 1999 14,672 ▲4.2% 10,965 ▲3.9% 3,707 ▲5.0% 2000 14,261 ▲2.8% 10,736 ▲2.1% 3,524 ▲4.9% 2001 13,794 ▲3.3% 10,375 ▲3.4% 3,419 ▲3.0% 2002 13,616 ▲1.3% 10,194 ▲1.7% 3,422 0.1% 2003 13,222 ▲2.9% 9,984 ▲2.1% 3,239 ▲5.3% 2004 12,998 ▲1.7% 9,919 ▲0.6% 3,079 ▲4.9% 2005 12,767 ▲1.8% 9,905 ▲0.1% 2,862 ▲7.1% 2006 12,200 ▲4.4% 9,523 ▲3.9% 2,677 ▲6.5% 2007 11,827 ▲3.1% 9,130 ▲4.1% 2,698 0.8% 2008 11,299 ▲4.5% 8,722 ▲4.5% 2,577 ▲4.5% 2009 10,864 ▲3.9% 8,455 ▲3.2% 2,419 ▲6.1% 2010 10,536 ▲3.0% 8,242 ▲2.4% 2,293 ▲5.2% 2011 9,844 ▲6.6% 7,729 ▲6.2% 2,115 ▲7.8% 2012 9,385 ▲4.7% 7,374 ▲4.6% 2,012 ▲4.9% 2013 8,972 ▲4.4% 7,124 ▲3.4% 1,848 ▲8.1% 2014 8,520 ▲5.0% 6,836 ▲4.0% 1,684 ▲8.9%
■雑誌推定販売部数(単位:万冊) 年 雑誌 前年比 月刊誌 前年比 週刊誌 前年比 1997 381,370 ▲1.3% 229,798 ▲0.4% 151,572 ▲2.5% 1998 372,311 ▲2.4% 226,256 ▲1.5% 146,055 ▲3.6% 1999 353,700 ▲5.0% 215,889 ▲4.6% 137,811 ▲5.6% 2000 340,542 ▲3.7% 210,401 ▲2.5% 130,141 ▲5.6% 2001 328,615 ▲3.5% 203,928 ▲3.1% 124,687 ▲4.2% 2002 321,695 ▲2.1% 200,077 ▲1.9% 121,618 ▲2.5% 2003 307,612 ▲4.4% 194,898 ▲2.6% 112,714 ▲7.3% 2004 297,154 ▲3.4% 192,295 ▲1.3% 104,859 ▲7.0% 2005 287,325 ▲3.3% 189,343 ▲1.5% 97,982 ▲6.6% 2006 269,904 ▲6.1% 179,535 ▲5.2% 90,369 ▲7.8% 2007 261,269 ▲3.2% 172,339 ▲4.0% 88,930 ▲1.6% 2008 243,872 ▲6.7% 161,141 ▲6.5% 82,731 ▲7.0% 2009 226,974 ▲6.9% 151,632 ▲5.9% 75,342 ▲8.9% 2010 217,222 ▲4.3% 146,094 ▲3.7% 71,128 ▲5.6% 2011 198,970 ▲8.4% 133,962 ▲8.3% 65,008 ▲8.6% 2012 187,339 ▲5.8% 127,044 ▲5.2% 60,295 ▲7.2% 2013 176,368 ▲5.9% 121,396 ▲4.4% 54,972 ▲8.8% 2014 165,088 ▲6.4% 115,010 ▲5.3% 50,078 ▲8.9% [いうまでもないけれど、1990年代に比べ、販売部数、金額ともに半減し、週刊誌販売部数は3分の1になってしまった。雑誌の時代も終わろうとしているし、ある調査によれば、女子高生のスマホ利用時間は7時間に及び、10代女子の平均が3時間とされているので、雑誌の凋落はまだこれから本格化すると見ていいだろう。
それを反映してか、女性誌は11.9%と最大の落ちこみで、付録添付誌部数も減り始めている。それに加えて、男性誌も含んで、20代向けで伸びている雑誌はなく、ムックも同様である。
また考慮すべきは、月刊誌にコミックが含まれていることで、14年のコミックス売上は2256億円、コミックス誌売上は1313億円で、これらを合わせると3569億円である。コミックスとコミックス誌を除いた14年雑誌販売金額は4951億円となる。
14年出版物販売金額は1兆6065億円だから、書籍が7544億円、それに雑誌4951億円、コミックスとコミックス誌3569億円の3分野にわたる売上で形成されているということになる。
しかもコミックス誌が前年比8.7%減に対し、コミックスは同1.1%増だが、これは『ワンピース』と『進撃の巨人』の数千万部に及ぶ貢献度が高いことからすれば、15年はそれらに類するヒットがなかった場合、コミックス、コミックス誌も大きなマイナスが避けられないかもしれない。
しかも問題なのは、大手出版社を始めとするコミックスやコミックス誌のデジタル化で、電子コミックの売上が伸びれば伸びるほど、出版物販売金額の大きな一角を占めるコミックス、コミックス誌を直撃することになり、それは書店売上を奪い、さらに書店を疲弊させていくことにつながっていく。日本の出版業界における電子書籍化は欧米と異なり、このようなメカニズムを伴っていることをはっきり認識すべきだろう]
4.2014年のアマゾンの日本売上高は79億1200万ドルで、前年比3.6%増、日本円にして8400億円、同14%増、前年の伸びが20%だったことに比べ、鈍化しつつあるにしても、モール型出店企業も含めると1兆円を超える売上である。
その一方で、アマゾンは今年を「ポイント価格訴求元年」と位置づけ、ポイント還元や時限再販を活用した割引販売を積極的に進める方針で、出版社に時限再販品の出荷の増加、直取引などを呼びかけている。
またこれは米アマゾンだが、売上高899億ドル(10兆5000億円)、前年比19.5%増だった。ところが新発売のスマートフォン「ファイア」がまったく売れず、2億4100万ドル(284億円)の赤字に転落している。
[米アマゾンの「ファイア」の失敗はともかく、日本売上の1兆円はネット通販の成長のスピードを知らしめるものだ。そしてその1兆円は出版業界が失った売上高に等しいのである。アマゾンの出版物シェアは不明だけれども、リアル書店を引き離し、実質的にトップになっていることは間違いないだろう。
その事実は日本の書店が1や2 の状況に追いやられていても、書店で買うことを習慣とする読者は困っても、アマゾンがある限り、消費者は不便を感じないシステムが構築されてしまったことを意味している。しかしそれは目に見えないが、長きにわたって培われた近代出版流通システムに基づく作者・出版社・取次・書店・読者という日本特有の、本や雑誌をめぐる共同体を解体せしめてしまったともいえる。
かくしてアマゾンは、敗戦下にある出版業界の占領軍のように存在していることになろう]
5.このような出版状況下にあって、トーハンの藤井武彦社長が「トーハンはどう変わったのか」(『文化通信』2/2)と題するインタビューに応じているので、これも要約してみる。
* 当社は1949年設立で、今年は66年を迎えるが、経営環境の変化のテンポは予想以上に速く、今は事業環境、経営環境の大変な転換点であり、時代に合わなくなった点は大胆に改革している。具体的には組織や機構の整理、ポジションごとのミッションと責任の明確化である。
* 業績動向は前期4925億円並みの売上、利益をめざしているが、市場全体の売上は下降トレンドにあるので、固定費削減を先行的に進め、物流設備保守料や機械設備のリース見直しなどで、10億円の経費削減を実現した。
* その一環が物流部門のアウトソーシングで、新会社トーハンロジテックスを立ち上げ、物流部門の効率化と出版物以外の物流を受託する3PL事業への進出をめざす。この分野がマーケットも大きく、セブン&アイグループの「オムニチャンネル」の物流もトーハンを軸にして話が進んでいる。出版物以外の商材、文具、雑貨とも一体となるので、成長の可能性は大きい。
* それでもベースは既存書店であり、本ですから、この売上を最大化しなければならず、「TONETS V」と「適在適書」のオースシステムの導入により、商品供給を進化させるに至っている。
* ただ出版物市場は縮小しているので、本を補うものが必要になる。そのために2013年複合事業本部を立ち上げ、仕入、マーチャンダイジング、セールスプロモーションなどのすべてを自社で展開できるようにした。大型文具、雑貨売場、「nota nova」はトーハンのノウハウとリスクで展開している。
* ネット書店に対抗するリアル書店への支援として、外商に強い書店への企画や商材提供、ブックライナー「本の特急便」による注文の迅速化と80万点の品揃え、出味1%下げを実施している。
[まだ続いているが、ここら辺で止めておこう。
このインタビューのコアは出版物市場の縮小は必至であるので、出版物以外の物流を受託する3PL事業をめざしている。それはセブン&アイグループの「オムニチャンネル」の物流を軸にするものだということになり、実質的にトーハンは出版業とセブン&アイグループとの共存を意図し、これからの事業展開を考えていると判断してかまわないだろう。
ちなみに藤井は書店による「本の特急便」の利用が進んでいないことにふれているが、290円の配送料はアマゾンの無料に対して、負担が大きいからだ]
6.トーハンが取次の協和出版販売を子会社化。協和は1930年創業で、社員は25人、売上高は非公開。
7・太洋社は新刊書籍の物流委託に関し、日販と基本合意を交わし、出版共同流通に雑誌、書籍(新刊)の送、返品を託すことになる。
[トーハンはすでに協和から雑誌返品、送品業務、書籍返品業務も受託し、協業化をすすめていたことが、今回の子会社化へと結びついている。
太洋社もすでに書籍、雑誌返品業務、雑誌送品業務を出版共同流通へと委託していた。とすれば、日販による太洋社の子会社化という流れも考えられるだろう。
8.学研ホールディングスは出版事業の不採算部門を縮小し、経営資源を学参や児童書などへの教育分野へシフトしていく方針により、子会社における出版事業の一部廃止と連結子会社の統合、希望退職者の募集を発表。
それにより、学研M文庫や歴史、女性実用のムックの事業を廃止し、版元の学研パブリッシング、及び学研マーケティング、学研教育出版の出版事業子会社3社を統合する。なおこれらの出版事業は42億円の売上高に対し、9億円以上の営業赤字になっていた。
ただその一方で、中間持株会社の学研出版ホールディングスは、教科書準拠版や学参などを出版する文理を買収し、子会社化する。買収額は16億円。文理は1950年創業で、2014年売上高は37億円である。学研ホールディングスの経営資源を学参などにシフトしていく方針にそったM&Aと見なせよう。
[学研HDの出版事業のリストラについては本クロニクル79 で既述しているので、ここではM文庫にふれておこう。学研M文庫は2000年創刊で、1500点ほどが刊行されている。これらは今回の廃刊決定により、書店市場からの返品を受けて断裁処分とされるであろう。おそらくサンリオSF文庫や旺文社文庫がたどった経緯が繰り返されることになる。
それも問題だが、それ以上に重要なのは、M文庫の廃刊は、大手出版社の文庫事業が利益を上げておらず、1500点に及んでも赤字だったという事実を明らかにしてしまったことに尽きる。それは新書も同様であろう。大手出版社の場合、とりわけ後発の文庫や新書は横並び的に創刊されているが、それぞれが単独で利益を上げているとは考えられず、多くが赤字だと見ていいだろう。
しかもこれらの文庫や新書は、月刊雑誌システムによって刊行されている。だがその再販委託制による大量生産、大量流通、大量消費のシステムの限界を迎えている現在にあって、学研M文庫を始まりとして、これからも文庫や新書の廃刊が続いていくはずだ]
9.公共図書館をめぐってのシンポジウムが開かれ、それらが『図書新聞』(2/21)などでレポートされている。取次からの批判的発言もなされ、あるいは新しい試みが公開されたりしているので、それらをリストアップしてみる。
* 日本文芸家協会によるシンポジウム「公共図書館はほんとうに本の敵?」における複本問題論議など。
* 取協の藤井武彦会長は公共図書館の複本問題について、「住民サービスの本質をはき違えている」し、それは「迎合的な図書館ポピュリズム」と批判。
* TRCの谷一会長は講演「図書館は出版業界の救世主になりえるのか?」において、公共図書館は1998年をピークにして、図書購入費は右肩下がりで、図書購入予算が2000万円未満の図書館が75%を占め、複本を購入できない現状を伝えている。
またTRCは神奈川県秦野市の本町公民館図書室に図書無人貸出サービス「スマートライブラリー」を設置し、その実証実験を開始。
* 香川県まんのう町の町立図書館は民間会社のリブネットが運営を受託し、借りた本を記録印字できる「読書通帳」や3万タイトルに及ぶ電子書籍も導入。
10.9 にリストアップした図書館をめぐる事柄とパラレルに、『選択』(2月号)が「武雄市『TSUTAYA』委託が最悪例」とする「すさんでいく『公共図書館』」をレポートしている。
[9 と10 の中に、現在の公共図書館の問題と新たな動向が集約されていることになろう。
それは公共図書館の蔵書とは何なのかという根源的な意味を問うことなく、膨張、肥大化してしまった図書館全体が孕んでいる問題であり、そこに電子書籍や新たな貸出サービスが出現していることになる。
専門的な司書が不在のままで、TRCの『週刊新刊全点案内』に基づく細心な選書というよりも、「新刊急行ベル」を利用する仕入れは「地域の特色のない金太郎飴のような図書館が全国に増殖し続けている」ことにつながっていく。
しかしそうしたかたわらで、人口減少と自治体の財政難に伴い、公共図書館も維持が困難となっていくかもしれない。すでにその兆候は表われ始め、1993年に開始した習志野市立藤崎図書館は19年に閉鎖され、複合施設へ集約されることが決まったという。それはこの一館だけの問題ではないと思われる]
11.ブックオフが中古家電の買い取り販売に参入するために、中古家電のハードオフとのフランチャイズ加盟契約を解消。
これはブックオフの子会社で「ハードオフ」のFC店舗を運営するB&Hが結んでいるFC加盟契約を解除するもので、ブックオフの違約金は3億円。
[ブックオフの従来の書籍、CD、DVDなどの「ブック事業」の既存店売上高は前年割れする月が多く、衣料品、宝飾品、スマホなどの幅広い「リユース事業」へとシフトしているし、それに中古家電も加わることになったのである。
それに合わせて、ブックオフの特色であったFCの相互契約問題はどのような動きを示すのだろうか。例えばハードオフのブックオフ事業はどうなるのか。あるいはまたブックオフの新刊書店事業もどのような行方をたどるのであろうか]
12.『FACTA』(2月号)が「『黒船』ネットフリックスが札束攻勢」という記事を掲載している。
これはネット配信で、映画やドラマを楽しむビデオ・オン・デマンドストリーミング企業の雄であるアメリカのネットフリックスの日本への本格上陸決定を伝えたものである。
ネットフリックスは1997年創業で、DVDの宅配レンタルが始まりだったが、スタンフォード大学でコンピュータ学を学んだ創業者のリイド・ヘイスティングはVODストリーミング事業へと進出し、わずか4年でCATVで4400万人の会員数を獲得するに至った。
それに加え、スマホなどのテレビ以外のスクリーンが爆発的に増えたのも急成長の原因で、オリジナルコンテンツも制作も加速している。
そのアジア戦略の拠点が日本で、ストリーミングが古い体質の日本に「風穴を開ける日も近い」と結ばれていた。
[アマゾンのように、ネットフリックスが日本に上陸し、成功するならば、TSUTAYAに代表される複合店も大きな影響を受けることは必至だと思われた。
そしてネットフリックスの動きは早く、今秋から日本での配信を始めると発表した。アメリカ映画、ドラマ、アニメの他に、日本のコンテンツも配信し、オリジナル制作をめざし、日本の民放や映画会社、通信大手とも交渉しているという。
ネットフリックスは50ヵ国、地域で5700万人の会員を抱え、日本でもアメリカと同様に見たい番組を、見たい時に、見たい場所で視聴できるようにする。また「House of Cards」 に示されているように、自社コンテンツの制作にも力をいれ、放送とネットの壁を越えた映像配信、消費の新しい流れを担っているという。
果たしてネットフリックスは日本で成功するであろうか]
13.またしても『FACTA』(3月号)だが、「百田『殉愛』戦争と見城幻冬舎社長暗躍」も掲載されている。
[本クロニクル81でも『選択』の「作家『百田尚樹』とはなんぼのものか」を紹介しておいたが、こちらは百田よりも見城に焦点を当てている。
それによれば、今日の見城はかつての幻冬舎を創業した頃の見城ではなく、安倍首相のブレーンで、芸能界にも通じ、「財も名も地位も得た」とされている。そうした見城の「無原則の功利主義」が『殉愛』騒動の背後にあると分析されている。
以前に元平凡社の故二宮隆洋が、出版における編集者と興行師を峻別していたが、見城も編集者というよりも興行師の方にシフトしていったのだろう。だが考えてみれば、その根源には角川春樹とメディアミックス戦略に基づく角川商法が位置しているはずだし、それは幻冬舎だけでなく、KADOKAWAも同様で、時代を画した出版戦略や出版物は後になって大きな影響を及ぼすことを教えてくれる]
14.「出版人に聞く」シリーズ〈17〉の植田康夫『「週刊読書人」と戦後知識人』は3月中旬発売。
《既刊の「出版人に聞く」シリーズ》