「高速道路の無料化」は注目の政策

今回の選挙政策の中で、ちきりんが一番“おもしろいっ!”と思っているのが、民主党の言っている「高速道路の無料化」です。

これ、ちきりんは「やればいーじゃん」と思ってる。で、何が起るか試してみればいーじゃないかと。「できない」「ダメだ」「無理だ」とか言ってると議論だけで終わっちゃうし、現状から何も変化しないでしょ。


加えて“反対派”の人が言う理屈はぜんぜん説得力がない。

たとえば、「通行料金を無料にしたら、道路のメンテナンス費用が捻出できなくなる。道路が穴ぼこだらけになるぞ」という反対論者の主張のひとつ。ほんまかいな。そんなことにはならないよ。


なぜなら、
(a) 高いのは、新たな道路の新規建設費であって、メンテナンス費用じゃない
(b) 現在のメンテナンス費用は高いかもしれないが、不要なメンテ=無駄も多い
(c) 道路の通行料金以外で収入を確保する方法はいくらでもある、と思うから。


(a)現在無料化に反対している人の本音は、「そんなことしたら、新たに田舎に高速道路を建設する費用が捻出できなくなるからヤバイ!」なんだよね。それを「メンテ」の話にすり替えてる。

(b)そもそも無料化したら、今、全国津々浦々で“24時間稼働”してる料金徴収所のコストは人件費含め全部いらなくなる。

あと、日本の道路は“標識多すぎ”だし、“電灯も明るすぎるし多すぎ”るし、“工事も多すぎ”です。

高速道路上にある緑色の標識板があるでしょ、行き先などが書いてあるやつ。ああいうのも米国や欧州に比べてやたらと多いし、ものすごく綺麗(=無駄に数年ごとに取り替え、道路族ファミリーの会社にお金が落ちる)。

あの標識を作って売ってる企業に、国交省の天下りの役人がいないと思います? あの看板、すんごい高いんじゃない?


(c)サービスエリアでフライドポテトとか焼きそばを売ってる店があるでしょ。ああいう店は、あの“出店権利”をどうやって得ているの? それ、入札で売ってほしいんだけど。そしたらかなりの収入になるんじゃないの? 有名ラーメン店とかに出店してもらって歩合で家賃もらったらどうよ。

その他、サービスエリアで商品プロモーションしたい企業とかもありそうだし、田舎の土地の安いところで、サービスエリア併設のアウトレットモールがあってもいい。通行料金以外でも収入増のネタはいくらでもある。


ってか、先進国で高速道路が無料の国はたくさんあるんだから、日本だけ「無料化したら道路が穴だらけになる」とは思えないな。シムシティじゃあるまいし。


あと反対理由としてよくいわれるのが、「高速道路をタダにすれば、一般納税者の収めた税金が高速道路のために使われることになる」という議論。「ドライバーだけがメリットを得るのは不公平だ」、という意見です。

これもイマイチ納得できない。

(a,b,c)上記で書いたように「メンテ費」だけなら税金を投入しなくても済むのでは?と思うし、
(d) 高速道路を無料にしたら、一般道路の交通量が減り、そのメンテ費用が減って、一般納税者の税負担も減るではず(下記の d の部分参照)


加えて
(e) 高速道路の無料化がドライバーにしかメリットがないと思うのは視野が狭すぎ、です


(d)ですが、田舎じゃ誰もバカ高い高速道路になんて乗らないから、高速道路はガラガラでしょ。一般道路も十分立派で、そっちで十分だし。

でも、もしも無料だったら一般道路を使わずに高速を使う人はたくさんいるはず。タダならそっちのほうがいいじゃん。信号もないし子供も狸も飛び出してこないし。そしたら一般道路の負担は相当減ると思うんだけど。

今、一般道路は通行料は無料だから、そのメンテ費用は他の自動車関連税と一般の税金から捻出されてます。

たとえば“県道”なら県の税金も使われてるわけです。でも、それらの一般道路の交通量が減ったら、そっちを掘り返したりメンテする費用は減るわけで、一般の人の税負担も減りそうじゃん。


加えて(e)につながるのですが、高速道路が無料化されて、今は一般道路を走っている車がもっと高速道路を走るようになったら、

(e-1) 一般道路の交通事故も、市街地の排気ガスも減るよね。自転車も歩行者も楽になるはず。バスも渋滞に巻き込まれなくなるからバス利用者にも得。ドライバーだけじゃなく、すべての人にメリットがあると思う。

(e-2) 野菜も電気製品もすべての物流費が削減されるんだから、モノが安くなるはず。

この点に関していえば、特に都会の人に集中的にメリットがある。だって大都市は「何も生産せずに、大規模消費をしてる場所」なんだから、すべての消費物を毎日(一日も欠かさず)外部から“運び込んでる”。そのコストが下がったら、すごく得です。「高速道路の無料化で得するのは車を使う田舎の人だけ」という主張自体が意味不明。


(e-3) 長距離の宅配便料金も下がるから、田舎でネットビジネスをやって都会の人に通販しているような会社の売上にも貢献するんじゃないの?お取り寄せも安くなるでしょ。


(e-4) 高速の出入り口周りの街が活性化する。今、トラックなどは高速を一度降りると新たに料金がかかるから、いったん高速にのると最終目的地まで絶対に降りない。なので休憩も食事もサービスエリアでしかとれない。高いし不味いし飽きちゃうし、そもそも決まったビジネスしかない。

でも、無料だったら休憩のたびに高速道路を降りればいい。田舎などでインターチェンジの周りなんて田んぼとラブホテル以外なんもない、みたいな土地の安いところで、長距離ドライバー向けの商売を新たに始めるのも可能になる。なにかしら、「中途下車ができるようになったことによる価値」がでてくると思うのよね。


そして、当然ですがより大きなメリットとして、
(f) 相当大量&多額の「道路族」「道路ファミリービジネス」「国土交通省」の不要な仕事や不要な頭数、無駄なお金、が減らせると思う。しかもこのメリットはドライバーだけでなく全国民が享受できる。

「無料化したら“多額の借金”は誰が返すんだ?」と言う人もいるけど、今まで有料(かつ、あんなに高額な通行料金)の下で、それだけの借金を作ってきたわけでしょ。ということはそもそも通行料金でそんな借金を返すのは無理なのであり、通行料が有料のままであっても、どうせ税金で返すことになるわけです。

だったらいっそ無料化して(f)のような税金の無駄をやめてその分を借金返済に充当する、というのはひとつの考え方だし、そのほうが一般の納税者の負担も軽くなる。


というわけで、「この政策は、車に乗らない人にはメリットがない」などというのは、おかしな意見だと思うです。


なお、今やってる「土日だけ」「一般乗用車だけ(トラック等除外)」「ETC車だけ」「千円」みたいな中途半端な方法は「高速道路無料化」とは全く違う話です。

あれは「土日とお盆に高速道路を渋滞させて、産業物流の邪魔をし、JRや飛行機会社の売上を低減させると共に、CO2の排出量を最大限に増やして、ETCの販売促進をする」のが目的です。

だいたい「キャパシティ産業」ってのは、“使用率の平準化”を目指すのが当たり前なのに、週末や夏休みなど、最も混む時期に割引するってどういう神経してんだか。

それに、“多額の資金を注ぎ込んで作ったのにガラガラの地方の高速道路を有効活用して経済効果を生み出す”というのが重要な点なのだから「1000円」なんて中途半端なことしても意味ないんです。

タダなら毎日一般道ではなく高速に、という人はいるだろうけど、一日千円(月3万円)かかる高速に毎日乗る人はいないでしょうが。

★★★

というわけで、ちきりんは「高速道路無料化反対!」の人の意見のうち、納得できるものが全然ない。
なので、「無料化すれば?」と思ってます。


まあ、上記以外にも高速道路を無料化したらすごくいろんなことが起ると思う。ポジティブ、ネガティブの両方含めてね。

当然、他の交通機関への影響があるだろうし、トンネルが開通して青函連絡船がなくなるみたいに、新しいビジネスのために淘汰される会社もでるかもしれない。

物流(人モノ含め)が大きく変わると、生活やビジネスの様式やパターン自体が、何かしら大きく変わる可能性がある。突然どこかのド田舎みたいなところが大発展(or没落)しちゃったり、通勤の流れが変わったり。

とにかく、上記に書いたこと以外に多くの「おおっ!高速道路を無料にするとこういうことが起るわけか!」というようなこと、今はまだ想像もできてないことがたくさん起ると思う。大失敗とか大混乱も含めて。


だから、ちきりんは「やってみてよ!」と思うわけ。まずは実験的にやってみてほしい。で、何が起るか見てみようよ。

というわけで、「高速道路無料化」はちきりんにとって、最も楽しみな政策案です。


そんじゃね〜