森友・加計問題で安倍首相の責任追及の声が高まっている(写真:ロイター/アフロ)
森友・加計問題で安倍首相の責任追及の声が高まっている(写真:ロイター/アフロ)

 安倍晋三首相が責任を取るべき時が迫っている。

 その理由は例えば、4月4日にNHKで報じられた森友学園への国有地売却についての「口裏合わせ」だ。国有地がおよそ8億円の値引きされた根拠である「ごみの撤去」だが、財務省理財局が学園側に虚偽の説明を求めたという。

 2017年2月20日に理財局の職員が同学園に「トラック何千台も使ってごみを撤去したと説明して欲しい」と要求した。つまり、ごみの存在は嘘であり、「8億円の値下げ」が前提となっていたといえる。

 では、なぜ8億円を値下げしなければならなかったのか。理財局にとっては、値下げに対するメリットは何もない。となると、理財局より上の立場、特に政治家からの圧力があったと考えざるを得ない。

 誰がどのような圧力をかけたのか。今、それが大きな謎になっている。

 この重大な謎を解明する責任は、安倍首相にある。しかし、安倍首相はその責任を取ろうとは全く考えていないようだ。

 加計学園の獣医学部新設をめぐる問題では、柳瀬唯夫・首相秘書官(当時)が愛媛県の職員らと面会した際に「首相案件」と語ったと文書に残されていた問題がクローズアップされた。

 この文書には、2015年4月2日に愛媛県の職員が首相官邸で柳瀬氏に面会したと書かれているという。しかし、柳瀬氏はこの問題が報じられた4月10日に「記憶の限り会っていない」と説明している。

 愛媛県の中村時広知事は、柳瀬氏と愛媛県の職員との面会の事実を認め、柳瀬氏に対して「丁寧に正直に言ってほしい」と述べている。4月13日には、この面会時の文書は農林水産省内にあったと発表された。

 一連の流れを見ると、世の中の人々は「柳瀬氏は嘘つきだ」と思わざるを得ない。

 なぜ、柳瀬氏が嘘をついたかと言えば、面会の事実を認めるということは、安倍首相が関わっていると認めることになるからだろう。

 安倍首相は2017年2月に国会で、「もし、森友学園の土地売買で自分や妻が関わっていれば、総理大臣も国会議員も辞める」と発言した。これは森友学園についての発言だったが、加計学園であっても同じである。安倍首相は、同様に責任を取らざるを得ないだろう。

 柳瀬氏のみならず、佐川宣寿・前国税庁長官も嘘ばかり言っている。こちらも、安倍首相を守るためと思われる。誰が見ても、安倍首相が責任を取るべき問題へと発展しているのである。

自民党の参議院議員約70人を前に話したが……

 先週、僕は「北朝鮮、米国、中国の関係について話をして欲しい」と頼まれ、自民党の参議院議員約70人の前で話をする機会があった。そのとき僕が話した内容は米朝中関係ではなく、前半は佐川氏、後半は安倍首相の批判だった。

 森友・加計問題の根本的な原因は、「自民党の劣化」だ。僕は何度も強く主張した。

 今、国民の自民党に対する不信感が強まっている。あなたがたは自民党員だ。自民党を愛していると思う。自民党を愛しているならば、国民の信頼を取り戻すために、堂々と安倍批判をやるべきではないか。

 若い頃僕は、野党など全く関心がなかった。本コラム「“茶坊主”ばかりの自民党が崩壊するシナリオ」でも述べたが、かつての自民党には 主流派、反主流派、非主流派が存在することで多様性があった。

 主流派、反主流派、非主流派の間で、いつも白熱した議論が起こっていた。下手なことを言えば他の派閥から批判されてしまうから、誰もが発言に責任感を持たなければならなかった。例えば、自民党の首相が交替する時は、野党からの批判ではなく、主流派が、反主流派や非主流派との議論に負けた時だけである。当時の自民党には、常に緊張感があった。

 ところが、選挙制度が中選挙区制から小選挙区制に変わったことで、自民党には反主流派も非主流派もなくなった。一つの選挙区から1人だけが当選するという小選挙区制では、執行部の推薦がなければ立候補ができないから、主流派の議員だけが当選するようになった。こうして、自民党内のほとんどが安倍首相のイエスマンになってしまった。

 これこそが、自民党の劣化である。

 僕は、第二次安倍内閣で最初に幹事長を務めた石破茂氏に、「みんな安倍首相のイエスマンになってしまった。自民党の劣化だ。昔のように言論闘争を起こすために、選挙制度を中選挙区制に戻すべきだ」と話したことがある。

 すると、石破氏は「その通りだ。しかし、中選挙区制には戻したくない。なぜならば、中選挙区制だと1度の選挙につき1億円超のコストがかかるからだ」と言った。

 昔は、政治家のスキャンダルと言えば、金権の問題だった。今は、そんな話は全く出てこない代わりに、不倫やセクハラの話ばかりである。これも、選挙制度が変わったことによって見られる変化である。

岸田氏か、それとも石破氏か

 これだけ問題が立て続けに明るみになっているうえ、支持率も大幅に下がりつつあるにもかかわらず、自民党内では「安倍降ろし」の動きが見られない。今月15、16日に実施されたNNN(日本テレビ)世論調査では、内閣支持率は26.7%となった。安倍政権発足以来、最低の数字である。ところが、今、安倍首相の批判をしているのは、小泉進次郞氏だけだ。

 しかし、僕は安倍内閣がそう長く持たないと思う。その後、どのようなシナリオになるか。それは安倍首相の「辞め方」次第だろう。

 例えば、森友学園の国有地売却問題で、野党は迫田英典・元理財局長と安倍昭恵夫人の証人喚問を要求している。世論が強くなり、昭恵夫人の証人喚問が実現するようになれば、安倍首相はその前に辞任するだろう。

 来週には柳瀬氏の国会招致がある。そこでどのような発言をするのか。もう「記憶がない」では通用しない。

 安倍政権が退陣した後、「ポスト安倍」は岸田文雄氏、石破氏が有力だ。どちらが優位か見極めるポイントは、安倍首相がいつ辞任するかにある。安倍首相が早い段階で辞めれば、岸田氏が有利だ。遅くなればなるほど、石破氏が有利になる。辞任のタイミングが早いほど、安倍首相の力が自民党内に通用するからである。

 今、国内外では米朝首脳会談に注目が集まっていて、安倍政権は数々の問題が明るみに出たにもかかわらず息を吹き返すのではないかとの見方もある。しかし、そんなに甘くはない。森友・加計問題は、安倍政権の致命傷となるだろう。

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