まるで、4年前の「コンプガチャ問題」を彷彿とさせる事態が、今、ふたたびソーシャルゲーム業界を襲っている。「ガチャ」というくじ引きのような課金システムに数十万円を費やしても目当てのアイテムが出ない、といった報告が相次ぎ、各社や業界団体が対応に追われている。
きっかけとなったのは、スマートフォン向けゲームアプリ「グランブルーファンタジー(グラブル)」。サイバーエージェントのゲーム子会社、Cygames(サイゲームス、東京都渋谷区)が手掛け、ユーザー数は累計で1000万人を超えた。遊んだことはなくとも、「グラブってる?」のテレビCMを見た人は多いだろう。
昨年末から今年の正月にかけて期間限定で開催された「ガチャイベント」で、「アンチラ」と呼ばれる金髪の美少女のレア(希少)キャラクターが供出。通常時よりも「出現率が2倍にアップ」と謳われ、これに多くのユーザーが飛びついた。その1人が、動画サイト「ニコニコ生放送」で課金の様子を中継。1回300円のガチャを延々と回し続け、約6時間後、2276回目、68万2800円を費やし、ようやくアンチラを得た。
その後、80万円以上を費やしてもアンチラを得られなかった記録を公開するユーザーなども現れ、「確率は本当にアップしているのか」といった疑念が噴出。一部ユーザーのあいだでは、消費者庁に立ち入り検査を嘆願する署名運動や、返金を求める騒動へと発展した。
この騒動を受け、サイゲームスは3月10日から、ガチャにおける個別アイテムの出現確率を表示したり、ガチャを300回(9万円分)回せば好きなアイテムを得られる「課金上限」を設けたりするなどの施策を開始。業界団体もこうした統一ルールの整備に乗り出している。
今回、サイバーエージェントでゲーム事業を統括する取締役副社長の日高裕介氏が、一連の騒動について初めて口を開いた。騒動を追い続けてきた著名ブロガーの山本一郎氏が舌鋒鋭く、突っ込む。
「行き過ぎだろうと普通にやっぱり思う」
山本:「グラブルでトラブルって感じですね」と書いて、すみません。
日高:いや(笑)。あの、そういうふうに書いておられて、上手いな、と思ったんですけれど。
山本:今回の騒動について、サイゲームスの親会社であるサイバーエージェントとして、どう考えておられるのでしょうか。あと、グループとしてどういう対策を、という話になると思うんですけれど。
日高:まず、今回のグラブルの問題は、「ある特定のキャラが出にくいんじゃないか」「確率が低いんじゃないか」という疑念がユーザーの方から沸いて、山本さんも記事で発信されて話題になっていたところに、「会社としては確率通りちゃんとやっていて、違法ではない」という説明に終始し過ぎてしまった、と僕は思っていまして。
その後、「違法かどうかではなく、確率が低いのでは、と思わせてしまったことが問題」というご指摘があって、そこは真摯に受け止め、問題となったガチャイベントについては、「ゲーム内通貨」による返金を決めました。
いわゆる「高額課金」という問題は時々、出てきますが、何かしら対応しなければいけないと思いつつ、具体的に取り組めていなかったという反省もありまして、グラブルに関しては3月から、1つのアイテムを得るまで「300回、9万円」を上限とする仕組みを取り入れました。
僕たちはゼロからゲーム事業を立ち上げたのですが、やり始めると、どんどん市場が大きくなって、すごい課金をする人がたくさんいるな、と驚いたんですね。月に100万円も使うというのは、行き過ぎだろうと普通にやっぱり思うわけです。
なので、(グループの)ほかのタイトルでも、高額課金を抑えていく方向の施策をやるべきだと思っているものについては、積極的に4月中旬くらいからどんどん実施していこうと思っています。同時に、ユーザー側に立った、より具体的な施策やガイドラインを、4月中をメドにグループとして出していこうと考えています。
4月にもCESAから新たなガイドライン
山本:なるほど。各社さんが個別で対応しているわけですが、消費者からのお言葉やクレームに対応できる会社があり、できない会社もあり、温度感にばらつきがありますよね。一方で、法規制を検討しましょう、みたいな流れになる可能性がちょっとあるのかなというのが、非常に見ていて恐ろしいというか、大丈夫なんだろうかとも思ってしまいます。
日高:おっしゃる通りで、もちろん各社さん、いろいろと事情が違うところもありますが、今の議論では、そこはいったん置いておいて、まず何だったら業界として実現が可能なのかを考え、足並みを揃えるということに、一生懸命取り組んでいるところです。
具体的には、「一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会(CESA)」が中心となり、消費者庁とも連絡を取ってやっています。1社でも多くの会社が賛同できるようなものを目指していくというのが、今の1つの目印になっていると認識しています。
2012年、コンプガチャが社会問題化した当時、JOGAは「ガチャの上限を5万円以内とし、超える場合はページ内に推定金額や倍率を表示する」「アイテムごとの出現率を表示する」といった自主規制のガイドラインをまとめた。だが、高額課金を抑制する実質的な効果は薄く、今回、問題となったサイゲームスやサイバーエージェントも加盟していない。
一方、グリーやディー・エヌ・エー(DeNA)が中心となって設立した「ソーシャルゲーム協会(JASGA)」もガイドラインを策定したが、スマホの普及とともに業界の盟主が入れ替わり、活動は雲散霧消した。
そうした中、98の正会員を擁する国内最大のゲーム業界団体、CESAの動きが注目されている(CESAは2015年4月に上記のJASGAを吸収)。現在、ガチャの課金に関する新たなガイドラインの策定を急いでおり、4月中にも公表すると見られている。
山本:これまでのガイドラインが事実上、形骸化してきた中で、今度は本当に足並みが揃うのでしょうか?
日高:そうですね。まず、課金額というのはゲームアプリごとに違いますし、「うちはトラブルがないから、あまり関係ないです」という会社さんもいる。全員が満足して、かつ効果のあるもの、というとかなりの時間がかかると思っています。ただし、今、世間やメディアで言われているような問題を抱えている会社は、少なくとも巻き込めるような形にしなければならないと思っています。
弱い者ほど泣き寝入る「返金問題」
山本:ガチャをたくさん回していただいて、そこで大きく収益を上げてきた構造自体にメスを入れるとなると、これは業界が死んじゃいますよね。そうならないように、かつ、ユーザーさんから文句が出ないようなガイドラインってどういうものなんだ、というのが、あまり見えてこないと思うんですけれども。
加えて、ガイドラインを順守しない会員社が出ましたとなった時、制約をかけられますかと。歯止めのかけ方であるとか、「会員各社はいつまでに守りなさい」みたいな文言って、決まっているのでしょうか?
日高:そこを今、まさに詰めているところです。内容について、個社では答えられないルールになっているのですが、この4月には何かしらを出そうというふうにはなっています。それとは別に、サイバーエージェントグループとしてのガイドラインでは、安全性や高額課金について、業界の中でも高いレベルのものにしたいと考えています。
山本:何か問題があった時の返金について、これまで、あまり細やかに議論されてきた節がないように見えているのですが。
日高:業界の中に統一した返金のルールがないというのは、おっしゃる通りです。基本的には、商取引が成立したものにおける返金は、相当の事象や事由があった時に検討する。というふうに、各社さんも考えていると思います。
もちろん、「絶対に返金はしません」というわけではありません。ただ、「何でも返金できます」というわけにもいかない。そこは各社、個別にルールを作っていく必要がある。当社としても、ゲームをちゃんと健全に、長く安心して遊べるという方向の中での返金ルールのあり方を、まさに今、検討しているところです。
山本:おっしゃったように、契約上成立している。だから、「あなた、合意してガチャにお金を突っ込んだじゃないですか」「満額は無理ですよね」「費やしたお金の2割くらいでどうですか」みたいな、そういう交渉になると思うんですけど、それができるのは、そういう法的アクションを取れた人だけの話、というのも問題です。
アクションを取れない、例えば、中学生だ、高校生だというのは、出てこられないんですよ。そうすると、同じ思いをしたユーザーの中でも、補償をされる、されないで、グラデーションが出ちゃいますよね。弱い者ほど泣き寝入る傾向が強くなるのであれば、それは業界として、というより、社会正義上、問題なんじゃないでしょうか?
本当に表示通りの確率で出ているのか
日高:そうですね。ただ今回は、「表示」の問題にかかわるところがすごく大きいと思っておりまして、返金のクレームでも「アイテムが出ないから返金してくれ」というお問い合わせは本当に少ないんですね。「確率が上がると思っていた」とか、「アイテムの効果が思っていたものと違った」とか、いわゆる「誤認」に関するものが多い。
誤認の形というのは、それこそ本当に個別で違うので、まずは企業としては1つひとつ丁寧に、メールだけではなく、電話対応も含めてちゃんとお問い合わせを受けきることがすごく大事だと思っています。その上で、もっと丁寧に細かく表示していく必要があると思っています。
例えば、ガチャの出現確率は、レア度の種類別ではなく、個別アイテムごとに表示していく。グラブルでは「確率をアップしていないんじゃないか」という疑念を持たれてしまいましたが、そうならないように、確率アップに関しても、「Aというアイテムは、通常0.02%の出現確率がイベント期間中は0.04%にアップ」というように、具体的に表示するといったことです。
山本:そもそも、「0.0何パーセント」なんて言われても、ほぼゼロじゃないかと。ほぼゼロなものを「確率が上がりました」と言って、ほぼゼロのままで提供したら、これは欺まん的取引ですよね、というような議論にもなりかねません。
ましてや、本当に表示通りの確率で出ているのかどうか、ユーザーには分からない。運営会社の信頼、業界自体のリライアビリティーの話ですが、そこに対してどうやって信頼に応えていくのでしょうか。
日高:そうですね、既にそういった議論も業界団体では出ています。まずは各社で、例えば定期的にクロールしてチェックするソフトを運用してみるなどして、何かしら信頼に足るデータを出していく、というのが最初にできることなのかなと思います。
山本:私はコンプガチャ問題の頃からずっと見ていて、パズドラの返金騒動とかいろいろありましたが、何だかんだ上手いことやっているじゃないかという認識だったんですよ。ただ、グラブルの年末年始の件を見ると、さすがにこれはやり過ぎじゃないかと。これはゲーム業界全体にとって損でしょうと、思ったわけです。僕もゲーマーなので。
そこは問題提起しておかないとまずい、という話をしていたら、(消費者庁と連携する内閣府の)消費者委員会やら、全地婦連(全国地域婦人団体連絡協議会)やら、日弁連(日本弁護士連合会)やらが出てきて、「よくぞ言ってくれた」みたいな話になって。何て言うんでしょう、火だるまになる前に業界として、やっていかなきゃと思うんです。
「社会的に安心して遊べる」ゲームへ
日高:そうですね。消費者庁の方からも、社会的に安心して遊べるような状況を求められていると思っていますので、まずは、先ほどお話した、より分かりやすい表示に努めていくということと、やはり高額課金に対する企業としての姿勢。この2つに関する具体的な施策を打ち出し、人気のゲームから解決していくことが大事だと思います。
特に我々は、社会性を重要視する上場企業として、ソーシャルゲームがグレーだと言われないよう、率先して施策を打ち出していく必要があると認識しています。繰り返しになりますが、「会社としては違法でない」ということを言い過ぎるのではなく、広く社会に受け入れられるようにしていかなければならないと思っています。
山本:ぜひ、よろしくお願い致します。
(4月5日公開予定の「後編」では、ゲームの「射幸性」について、さらに突っ込んだ議論を展開します)
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