2014年1月7日から行われた、国際家電見本市「コンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)」。基調講演で登壇した米インテルのブライアン・クルザニッチCEOは新たなセキュリティブランドを発表した。その名も「インテルセキュリティ」。2011年3月に買収し、同社傘下にあるセキュリティベンダーマカフィーのブランドを廃止し、それらをすべてインテルブランドに置き換えるという。
ハードとソフトを一緒に提供する強み
新しい敵が現れた――。モバイル向けセキュリティソフトを提供するあるベンダーはこう漏らす。恐れるのはインテルというブランドの大きさだけではない。インテルは、今回のブランド変更に加え、モバイル端末向けに提供するセキュリティソフトの機能の一部を無償で提供する予定だと発表したのだ。
モバイル向けセキュリティソフトは、無料ソフトが多い一方で、有料ソフトも少なくない。パソコン時代から大きなシェアを握るシマンテックやトレンドマイクロ、キングソフトなどが代表例だ。例えば、トレンドマイクロの「ウイルスバスターモバイル for Android」は1年契約で2980円。伸び率も堅調で、キングソフトの「KINGSOFT Mobile Security」(1年間1980円)は、ユーザー数が前年比378.5%、こと法人向けライセンス販売に限れば成長率は1047%と飛躍的に伸びている。
インテルがどのような機能を無償で提供するかは未定だが、少なくとも、有料ソフトを提供していたベンダーの成長率に影響することは必至と言えそうだ。
インテルの発表に、セキュリティベンダーはどこもノーコメントを決め込むが、「今後数カ月以内に詳細を発表する」(インテル)タイミングを前に価格戦略の変更を迫られる可能性もある。
インテルが、自社のハードウエアと一緒にセキュリティソフトをバンドルする形で売り出せば、他社のソフトウエアよりも優位になる。その一部を無料で提供するとなればなおさらだ。
BtoBの業界では圧倒的知名度を誇るインテルも、コンシューマーにはその知名度が生かし切れていない。コンシューマー向けのセキュリティソフトをインテルブランドで提供すれば、今後大きくなるコンシューマー向けのネット接続機器市場で優位に立てるという算段もあるのかもしれない。
しかし、話はそれほど簡単ではない。PC時代のWindowsを見れば、その答えはおぼろげながら見えてくる。
いつか見た光景
マイクロソフトは、自社のOS製品に独自開発のセキュリティソフトを事実上のバンドル製品として組み込んできた。現在も「Microsoft Security Essentials」としてセキュリティソフトを提供している。
一方、独占禁止法を免れるために、極端な方法を採れない事情もあり、「結局はサードパーティのセキュリティソフトが幅をきかせている」(セキュリティベンダー関係者)というのが実情だ。PC時代の過去の経験から、今回のインテルの戦略についても「マイクロソフトの二の舞になるのでは」という声もささやかれる。
ハードウエアだけでなく、ソフトウエアにも触手を伸ばすインテルの戦略は、モバイル端末での存在感を示せていない同社の現状を浮き彫りにしているとも言える。
【初割・2カ月無料】お申し込みで…
- 専門記者によるオリジナルコンテンツが読み放題
- 著名経営者や有識者による動画、ウェビナーが見放題
- 日経ビジネス最新号12年分のバックナンバーが読み放題