今、あなたの財布の中にコンビニエンスストア「セブンイレブン」のレシートは入っていないだろうか。もしあれば、確かめてほしい。私が今手元に持っているレシートと同様だとすれば、「領収書」と書かれたその紙に、あなたが間接的に納めるはずの「消費税」の額は記載されていないはずだ。ただ、その代わりのように、一番下の段に「商品価格には消費税等を含みます」との記載があるだろう。

「消費税等」の実額は記載されていないセブンイレブンのレシート

 このことに問題は特にないとされる。違法でも何でもないし、クレームが殺到して問題になっているということも聞いたことがない。何となく「書いてくれてもいいのに」と思わないでもないが、どうしても知りたければ支払額を1.05で割ってさらに0.05を乗じれば、税額は算出できる。

 だが今後、この表示が変わる可能性もあると私は見ている。

 何を細かいことを、と思われるかもしれないが、企業の立場からすれば、それは決して小さなことではない。そして、一国民としても知っておいていいのではないかと思うことでもある。

国内で最もレシートを発行する企業

 セブンイレブンの国内店舗数は10月末現在で1万5884店。世界で見ても最も多く店舗展開しているチェーン店だが、もちろん国内でもナンバーワンだ。

 全店の売上高は2012年度の実績で3兆5084億円に上り、単一チェーンとしてはこれもナンバーワン。数千円に満たない少額決済が大半を占めるコンビニという業態であることを考えれば、日本で最も多くのレシートを発行しているチェーンであることは間違いないだろう。

 ところで、そのレシートに関して、2014年の消費税率の引き上げに合わせる形で、ある興味深い変更があったことはご存じだろうか。

 税務の専門家でもない限り、なかなか知られていないと思うが、本稿に関わる部分だけを簡単に言うと、「領収書(レシート)に税抜価格と消費税等の税額を明示すれば、税率をかけることで生じる1円に満たない端数を決済ごとに切り捨てられる」というものだ。かつて、税抜価格での表示が認められていた時にあった、消費税法の施行規則の「特例」が復活した格好だ。

 例えば、税抜き98円の買い物をしたとする。現在の税率で考えると計算上は「98×1.05=102.9」で消費者は102円90銭支払わなければならない。だが、銭単位の通貨が流通していない以上、実際に消費者は90銭を支払うことはできない。こうした場合、レシートに税抜価格と税額を明示すれば、その90銭を切り捨て処理できるというわけだ。

レシート発行が多いほど節税

 これは小売企業にとって非常に大きい。レシートの発行回数が多ければ多いほど、切り捨て可能な税額が増えることになる。上記の決済が仮に1万回行われた場合、税抜きベースでの売上高は98万円で、消費税等の税額は4万円。だが、税抜き98万円の商品を1回の決済で売れば、売り上げは同じでも税額は4万9000円になる。差は9000円。仮に10億回の決済なら9億円だ。

 1円未満の表記がない税込価格を基準にするなら、こうした問題は生じない。だからこそこの特例は、小売り業者に関して2004年に店頭価格の税込み表示が原則義務化されたことを受けて廃止された。

 だが、来年4月の消費増税に向けた措置として税抜価格での表記が認められたことから、再びこの特例が必要になった。そして、税込表示を基礎としてきた企業が税抜きをベースにすることを検討する余地が生まれたというわけだ。

 この件についてセブンに問い合わせると「そうした事情は承知している。だが店頭での価格表示方法が確定していない段階では、レシート表記をどうするかはまだ分からない」との返答だった。

 フランチャイズチェーンであるセブンイレブンの全店売上高はチェーン本部であるセブン-イレブン・ジャパンの収入とは異なる。税抜きをベースにするためにはシステム投資費用もあるため、仮に切り替えても同社にメリットがあるかは不明だが、仮にそのメリットを得ようとすれば、レシートに税額を記載しなければいけないことは確かだ。

税抜・税込、再び乱立

 店頭での価格表示は、税込みにしますか、税抜きにしますか。それとも併記ですか。併記の場合はどちらを大きくしますか――。

 今秋あった小売企業の決算発表の場では、必ずと言っていいほどこうした質問が記者から経営者に浴びせられた。読者によっては、重箱の隅をつつくような、細かくてどうでもいい質問と思うかもしれない。だがこの質問は、「増税が消費に与える影響をどう見るか」といった事柄と同等あるいはそれ以上によく聞かれた。各社の具体的な価格戦略に関わるだけに、ビジネス上の情報価値が高いからだろうか。

 トップらの回答は、はっきり言ってバラバラだった。「総額がいいと思う」「情報量としては併記がいい」「競争上、税抜きを目立たせる」。「ギリギリまで様子を見たい」という慎重論も少なくなかった。

 だが、聞いていてほぼ確かだな、と印象を持ったのは、「少なくとも4月の税率引き上げ直後までは、様々な表示が乱立するだろう」ということだ。価格競争の激しい小売企業にとって「安さ」は集客面での生命線。小売企業は難しい判断を迫られている。

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