昨年7月に再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)がスタートしてから1年が経過した。1kWh当たり42円という高い買い取り価格によって、メガソーラー(大規模太陽光発電)事業への参入が急増したが、その一方で電力会社への送電線への接続制限や費用の高騰などの問題も浮上している。全国のメガソーラー事業に携わっているデロイト トーマツ リスクサービスの吉丸成人シニアマネジャーにFITの功罪について聞いた。

(聞き手は田中太郎)

吉丸さんは日本各地でメガソーラー(大規模太陽光発電)事業に携わっていらっしゃいますよね。FITの導入でどんな成果が上がったのか、あるいは逆にどんな問題点が浮き彫りになったのかをうかがいたいと思います。まずは成果から教えてください。

吉丸 成人(よしまる・なると)氏
デロイト トーマツ リスクサービス株式会社シニアマネジャー。国内ゼネコン、IT系企業を経て、2004年から有限責任監査法人トーマツ。2009年より現職。温暖化対策、スマートグリッドや再生可能エネルギーを含むエネルギー全般の事業化の他、BCPやITなど、環境とITに関する助言とコンサルティングを提供。これまで50カ所を超える再生可能エネルギー事業候補についてのデューデリジェンスや事業化支援を実施。(撮影:鈴木愛子)

吉丸:わが社ではFITが始まって新規に発電事業に取り組まれる企業の事業化を支援しています。日本では電力会社以外に発電事業を経験している人は多くいません。私たちはデロイトというグローバルネットワークに属していますので、FIT先進国であるヨーロッパのメンバーファームからの情報を参考にしながらお手伝いしています。

 FITの導入で一番良かったのは、地域に雇用を生んでいることではないでしょうか。特にメガソーラーの場合、発電所を設置したら後は人手がかからず、雇用を生まない、地域にメリットはないという話が多かったのです。

そうですね。

地域の雇用を生んだ

吉丸:しかし、少なからず雇用を生んでいます。象徴的なのは、2メガワット以上のメガソーラーでは電気主任技術者の選任が義務付けられていますが、技術者の取り合いといえるほどの状況になっていることです。

 そういう特別な技術者だけでなく、電気設備の保守作業、除草や掃除といった作業は、事業が継続する20年間必要になるわけです。さらに、日本ではあまりクローズアップされていませんが、海外では盗難が多いんですね。

太陽光パネルが盗まれるんですか。

吉丸:パネルもそうですが、主に電線です。パネルは転売するとすぐにばれてしまうんですけど、銅線はなかなか足がつきにくい。だから盗難に対する警備も必要です。こうした雇用を考えると、正規、非正規を別にして、20メガワットクラスのメガソーラーで、10人前後の雇用が常時生まれているのではないかなと見ています。

 さらに言うと、設備投資があります。20メガワットのメガソーラーの初期投資はだいたい60億~70億円かかります。このうち、物品ではなくて工事費や輸送費などにかかるのはおそらく20億~30億円ぐらいです。1年から1年半の工事期間に相当の金額が地元で使われます。公共事業が減ってしまった中、地域経済に貢献しているのではないでしょうか。

 地域経済への貢献という意味では、これまで使いようがなかった山林や採石場の跡地などの未利用地を利用することも活性化につながっていると思います。当然ですが、山は残さなくてはならない部分がたくさんありますし、とんでもない山の中だと逆に送電線が近くを通っていません。ある程度の山の中で適地を見つけることになります。

廃棄物処分場の跡地を利用している例もありますよね。

吉丸:そうですね。ただ、廃棄物処分場の跡地は掘削に制限があるので、太陽光パネルを設置する際に重い基礎の上にパネルを載せなくてはならず、工法に制約がありますが。

それ以外にも「功」の部分はありますか。

吉丸:新しいビジネスが出てきています。IT(情報技術)産業では電力需給の監視システムなどの需要が出てきていますし、金融では損害保険業が新しい商品を出しています。それから第三者認証サービスもこれから盛んになるはずです。

第三者認証って何ですか。

吉丸:実はヨーロッパでは、発電所はどんな規格にのっとって造られているかといったことを第三者の目で評価するサービスがあるんです。日本の会社でも始めているところがありますが、有名なのはヨーロッパの会社ですね。

7km先で接続してください

格付けのようなサービスが再生可能エネルギーの世界にもあるんですね。さまざまな面でFITによる成果は出ている。それでは逆に、「罪」の部分というか、この1年間で見えてきた課題についてうかがいたいのですが、最大の課題はやはり送電線との接続問題ですか。

吉丸:メガソーラーを稼働するには、国から設備認定を受けるだけではなく、地域の電力会社と系統連系について協議して、どの送電線にどのようにつなげるのかを決めてから正式に売電契約を申し込みます。そして先着順に受け付けていきます。

 今年4月、北海道では正式申し込みがすでに156万キロワット分まであったのにもかかわらず、北海道電力が2メガワット以上の太陽光発電を合計40万キロワットまでしか受け入れられないと公表して話題になりました。受け入れ容量を超えた分は、事業計画を立てて準備を進めていたのに、発電はできなくなってしまいます。

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