理化学研究所の小保方晴子ユニットリーダーらが発表した新しい万能細胞「STAP細胞」の論文をめぐり、専門家から「図表や文章などに不適切な点がある」と指摘する声があがっている。論文の何が問題なのか。理研は近く、調査結果を公表する。
論文は1月29日、小保方さんらが英科学誌ネイチャーに発表した。専門家からインターネット上などで「論文に不自然な点がある」との指摘が出て、2月中旬から理研や同誌が調査を開始した。
最初に指摘されたのが画像の「使い回し」についてだ。マウスの胎盤をとらえた2枚の画像が、別の状況で撮影されたはずなのに似すぎている、との指摘があった。小保方さんと共同で論文を書いた若山照彦・山梨大教授は「単純ミス」による画像の取り違えだと説明した。
遺伝子を解析した別の画像に、加工した跡にも見える不自然な線が入っているとの指摘もある。
2番目の指摘が、他人の論文によく似た点があるというものだ。
実験手法について説明した計18行にわたる1段落分の記述が2005年に専門誌に掲載された別の論文に書かれたものとほぼ同一だった。参考文献の項目にも元の論文についての記載はないことから専門家から不適切だと指摘されている。
日本分子生物学会は3日、こうした指摘について「憂慮している」とし、理研に対し、迅速な調査結果を公表するよう求めた。
これらは主に研究者としての倫理が問われる問題だ。
一方、理研が5日にSTAP細胞の詳しい作製手順を公開した後、研究成果そのものへの疑問も、一部の専門家から出ている。
「手順書と論文の記述には違う点があり、本当にSTAP細胞ができたと言えるのか裏付けが不十分だ」との指摘だ。
論文では、STAP細胞が人為的につくれたことを示す証拠が見つかったと記載されていた。しかし、手順書には、STAP細胞を改変した細胞には、この証拠が見つからなかったと書かれていた。
理研広報室は、いずれの指摘についても「今の段階ではコメントできない。調査が終われば公表する」としている。
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〈STAP細胞の論文〉 ごく若いマウスから採ったリンパ球を弱い酸性の液体に25分間浸すだけで、どんな組織にでもなれるSTAP細胞に変化する、とする内容。リンパ球からSTAP細胞ができた証拠として、リンパ球でしかみられない遺伝子の特徴がSTAP細胞にも残っていることを確かめた、と書かれていた。
朝日新聞 2014年3月9日11時22分(web)