京都大学で12日、社会情報学に関わる多様なイベントを集めた「社会情報学フェア2005」が開催された。イベント内のワークショップ「Webが生み出す関係構造と社会ネットワーク分析」では、SNS「mixi」の実データに基づいた研究発表が行なわれた。
■ mixiの公式データ提供を受けた3チームが研究成果を披露
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イベントが行なわれた京都大学 百周年記念ホール
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森祐治氏
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社会学では、個人や企業を対象とした社会ネットワーク分析を従来から行なっていたが、近年広まっているブログやSNSといったWeb上の技術は、大規模なネットワークデータを比較的容易に提供できるという点から、社会学の対象データとして大きな意義を持つという。本ワークショップでは、mixiを運営するイー・マーキュリーから3つのチームにデータが提供され、各グループがSNSのネットワーク構造を分析した研究成果を発表した。
提供されたデータは、2005年2月15日時点のもので、当時のユーザー数は363,819人。なお、イー・マーキュリーの公式データは、同社との秘密保持契約を交わした上で、個人が特定できないように加工されたものが提供されている。mixiの公式データ提供は「我々の知る限りこの3チームだけ(産業技術総合研究所の松尾豊氏)」であり、日本でも初の試みだという。
株式会社シンクの代表を務める早稲田大学の森祐治氏は、提供データからユーザーの特性を大まかに3つに分類。ユーザー間のリンク数(マイミク数)が平均9.9のユーザーは全体の9割以上を占める359,485人る一方、平均マイミク数が692.7人というユーザーも16人存在。このグループをつなぐ中間的なユーザーが1,269人だという。
一方で、mixi内にはネットワークが構築された時系列的情報は残されておらず、mixiユーザーが現実の世界で持っているネットワークの有無も確認できないことから、今後の研究を進めていく上で「現実社会とSNSとの差分の調査も必要」と指摘。「SNSの中で現実の世界が反映されているもの、もしくは現実ではわかっていたけどリンクできていなかったものがどれくらいあるのかを調査することも重要だろう」と語った。
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提供データは2月15日のもの
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ユーザー特性は大きく3つに分類
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■ 約43%のユーザーはマイミク数が4人以下の小規模ネットワーク
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安田雪氏
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松尾豊氏
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第2部では、「SNSにおける関係形成原理」と題し、東京大学大学院経済学研究科の安田雪氏が前半の発表を、産業技術総合研究所の松尾豊氏が後半を担当した。
安田氏はmixiの特徴として、23.6%のユーザーが招待者とだけつながっており、さらにはマイミク数が4人以下のユーザーは43.4%と半分近いというデータを紹介。「mixiは大規模なネットワークだが、ユーザーの大多数はそれほど大きなネットワークをmixi内に形成しているわけではない」と指摘した上で、「全体の規模が拡大すればリンク数も増えるのか、もしくは規模だけが大きくなってリンク数は変わらないのか。これは注目すべき点」と語った。
松尾氏は、ユーザー数の上位200コミュニティの中から、「共通して入っている人が多いコミュニティほど関係が強い」という前提に基づき、2つのコミュニティで共通するユーザーを基にしてコミュニティの関連性をグラフ化。こうして得られたコミュニティのデータには「性格系」「ネタ画像系」などの関連性が見られるという。
また、コミュニティのつながりにも、「ネタ系」「性格系」という2つの領域ををまたぐ「仲介型」、「Macユーザー」「Mac OS X」「Power Book&iBook」というように1つのコミュニティのつながりが伸びていく「詳細化型」といった傾向が見られると指摘。「システムやコミュニティを促す機能によって、mixiはまだまだ発展するのではないか」との考えを示した。
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招待者のみマイミクのユーザーは23.6%
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コミュニティの関連性をグラフ化
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■ 6人目のリンクでmixiユーザーの96%は辿れる
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湯田聴夫氏
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ワークショップの第3部では、ATR・京都大学大学院の湯田聴夫氏が、「SNSにおける人のネットワーク構造―その地平線の超え方―」と題したプレゼンテーションを行なった。
湯田氏は、「イー・マーキュリーから提供を受けたデータはユーザーIDが変えられているために関係性しかわからない」と前置いた上で、自分のマイミクシィからユーザーをたどる実験を実施。当時マイミク数は26人だったが、そのマイミクを辿っていくと、6人目の距離で全ユーザー数の96%まで到達できたとした。
コミュニティ機能もmixiの特徴という。mixiのネットワーク内部でリンク密度の高い集団をひとかたまりとして抽出した場合、小規模な固まりと中規模な固まりの間で急激にサイズが大きくなる現象が発生しており、湯田氏は「コミュニティのオフ会などでお互いがリンクし合うという行動により、ネットワークが小規模から中規模へ一気に拡大する」と指摘。この現象はリンク数が多いユーザーを除去、マイミク数が10人程度のユーザーだけのデータで行なった場合でも発生しており、湯田氏は「mixiの普遍的な構造かもしれない」とした。
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リンク人数の距離6で96%のユーザーに到達
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コミュニティのオフ会が大きな特性
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■ SNSはコミュニケーションポータルへ
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パネルディスカッションから参加したATRの藤原義久氏と国立情報学研究所の大向一輝氏
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ワークショップの最後には、研究を行なったメンバーと、ワークショップのオーガナイザーを務めた国立情報学研究所の大向一輝氏によるパネルディスカッションが行なわれた。
安田氏は、「データを使っていて非常にmixiらしいと思ったのが、他人のネットワークや関係性が見えてしまうところ」とコメント。「見えるから見ていいのか、関係性をたぐれるからたぐっていいのか。そういった関係性を開示することに抵抗する人は、リンク数が2、3人程度で止まるのではないか」とした上で、「関係の開示性が持っている怖さを感じた」との感想を述べた。
森氏は「mixiが今後どのように収益を得ていくのか」との課題を指摘。「PVで言えばYahoo! JAPANにはかなわない。PVではない人とのつながりを活かした価値は作り出せるのか」と語った。
大向氏は「SNSとブログが同じジャンルで語られることがあるが、ブログのコメントやトラックバックは一方向のコミュニケーションでであり、SNSのような対等なコミュニケーションは、ブログとは別の研究対象として面白い」との違いを指摘。「今のWebは辞書からコミュニケーションへ変化していて、その中でSNSはコミュニケーションポータルとして存在している」との考えを披露した。
■ URL
Webが生み出す関係構造と社会ネットワーク分析 ワークショップ
http://www.carc.aist.go.jp/~y.matsuo/si2005/
社会情報学フェア2005
http://www.lab7.kuis.kyoto-u.ac.jp/sifair2005/index_j.html
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2005/09/12 20:50
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