脳が心停止に弱いわけ ② | ある脳外科医のぼやき

ある脳外科医のぼやき

脳や脳外科にまつわる話や、内側から見た日本の医療の現状をぼやきます。独断と偏見に満ちているかもしれませんが、病院に通っている人、これから医療の世界に入る人、ここに書いてある知識が多少なりと参考になればと思います。
*旧題「ある脳外科医のダークなぼやき」

前回に引き続いて心臓が止まったときの話をつづけます。




前回は、カーラーの生存曲線によると、




心停止から5分経過してしまうと、


救命は絶望的という事を書きました。




3分経過で50%程度です。




1分ごとに刻一刻と救命率は下がっていくのです。




そして、


こんなにも厳しい時間制限がある原因は、脳であると書きました。




今日はその続きから書きたいと思います。




心停止で血流がとまってしまうと、


脳はすぐにやられてしまうのです。




そういう意味で、


体の中でも脳はもっともヤワなんですね。




その理由はどこにあるのでしょうか?




それは、


脳が酸素や栄養の供給ストップに極端に弱いからなんです。




たとえば、


酸素の備蓄はないので、


血流が途絶えると20秒前後で脳の神経細胞は酸欠になります。




そして、糖やATPと呼ばれるエネルギーに関しても、


備蓄は少なく、5分と持ちません。




脳がエネルギー源として頼りにしているのは、


血中を流れているブドウ糖だけなんです。




なので、心停止が起きて供給がストップすると、


すぐに神経細胞死が起きてしまいます。




もちろん、


体の臓器はどれでも血流がなくなると死んでしまいますが、


これほどの短時間で死んでしまうことはないんです。




酸欠状態となっても酸素を使わない方法である程度エネルギーを作れたり、


血液からのブドウ糖以外にも脂肪を分解してエネルギーとしたり、




他のエネルギー産出方法を持っているんです。




脳みたいに血流に乗ってくるブドウ糖だけを頼っているのではありません。




なので、臓器や温度によって時間は異なりますが、


血流が停止してからもある程度は耐えることができます。




筋肉などは5,6時間耐えうるようですから、


脳とは全然違いますよね。




結局、




脳が弱い理由はエネルギーの根源の全てを、


血流中の酸素とブドウ糖に依存しきっていることなんです。




なので、


血流がなくなるとたちどころに死んでしまいます。




血流が途絶えて5分というのは、


脳にとって致命的な時間なんですね。




そして、


脳の神経細胞の場合、死んでしまうと全く換えがききません。




だから経過した時間で救命率が決まってしまうんです。




ちなみに、


たとえば呼吸が止まっているけれど、心臓は動いている、という場合は、


制限時間は多少長くなります




この場合、


15分経過すると絶望的となるのですが、


心臓停止より10分も長いですよね。




呼吸停止10分の時点で救命率は50%のようです。




なぜ、呼吸停止のみだと制限時間が長いのでしょうか?




呼吸停止の場合は酸素の供給が止まるだけで、血液の循環は保たれています。




なので、血液中の酸素はじょじょに減っていきますが、


心臓停止のようにいきなり脳への供給がゼロになるわけではないですし、


ブドウ糖などの栄養に関しては供給は残ります。




だから心臓停止より長く耐えられるんですね。




とはいっても10分で救命率50%なのですから、


やはりこれも切迫した事態です。






これまでのところをまとめると、




心臓停止の場合は5分、


呼吸停止の場合は15分で絶望的となります。




しかし、どんなに頑張ってすぐに救急車を呼んだとしても、


まず5分では到着しません。




7分とか、10分弱くらいは平均的にかかるようです。




そうすると、救急車が来る頃には、


心臓停止の場合はもうダメになってしまうのです。




だから、


心停止した人を放置してはいけません。




ただちに、


人工呼吸や心臓マッサージを施してください。




一次救命措置(BLS)と呼ばれていますね。




BLSは basic lif suportの略です。




心停止などが起きたときに傍にいる人のことをバイスタンダーと言いますが、




バイスタンダーがただちにこれを施さなければいけません。


たとえ全く知らない人だとしても通り過ぎようとしてはいけません。




皆さん、学校や教習所などいろんなところでこのBLSについては習っているはずです。




まずは助けを呼んで、周囲を確認、AEDを持ってきてもらって、自分は心臓マッサージ開始!




というやつです。




これを行って時間稼ぎをしつつ、


心拍の再開を待たなければいけません。




この辺りに関してはもろに救命救急領域の話となるので、


実はそれほど詳しいわけではないのですが、




長くなってきましたし、


せっかくですので次回に続きます。


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