今の政治に「三木武吉」がいない 読売新聞グループ本社会長・主筆 渡辺恒雄(上)

アーカイブ「話の肖像画」 リーダーに贈る

本紙政治部の単独インタビューに応じる、読売新聞グループ本社会長・主筆の渡辺恒雄氏=2012年4月、東京・銀座の読売仮社屋
本紙政治部の単独インタビューに応じる、読売新聞グループ本社会長・主筆の渡辺恒雄氏=2012年4月、東京・銀座の読売仮社屋
2012年4月10日付の産経新聞に掲載した連載「話の肖像画」のアーカイブ記事です。肩書、年齢、名称などは掲載当時のまま。

米著名コラムニストに「ルーピー」と命名された鳩山由紀夫元首相と、その鳩山氏に「ペテン師」呼ばわりされた菅直人前首相は、われわれ国民に国家のリーダーとはどういう存在かを考えさせる反面教師でもあった。時代が求めるリーダーとはどういう人物なのか。どんな資質が必要なのか。60年余も政界を見つめ、ときに大きな影響力も発揮してきた渡辺恒雄氏(85)に聞いた。

――今、政財界を見渡して日本のリーダーにふさわしい人材はいますか

渡辺 日本のリーダーにふさわしい人って、いるんですかね。「いない」と言ったら具合が悪いか。

――今後の努力や将来性を含めたらどうですか

渡辺 まあ、民主党ではやはり野田佳彦首相ぐらいでしょう。あとは分からないね。自民党で言えば、安倍晋三元首相や福田康夫元首相はもういっぺん首相をやってもいいんじゃないかと思う。将来なんとか磨いて鍛えればという人では、やっぱり石破茂前政調会長、石原伸晃幹事長、茂木敏充政調会長、林芳正政調会長代理、こんな人じゃないか。

ただ、政治家同士の嫉妬があり、相手の足、ライバルの足を引っ張る傾向がある。自分は陰に隠れて誰かを持ち上げようというモデルがなくなったんだな。

――というと

渡辺 例えばかつては三木武吉(日本民主党総務会長)という人がいた。三木は、大臣にも議長にも常任委員長にもならず、何にも顕職に就いたことがない。それでいて犬猿の仲だった大野伴睦(自由党総務会長)と保守合同(自民党結党)を成し遂げ、鳩山一郎を首相にした。

今、野田さんと自民党の谷垣禎一総裁が会った会わないとかいわれているが、話ができる前にすぐにばれちゃう。昔はばれなかった。なぜかというと新聞記者が仲介していた。毎日新聞の西山柳造、西谷市次という僕らの大先輩が2人をこっそり会わせたのだ。そういう表に出ないで裏で支える者、参謀が当時はいた。今そういう芸当ができる人がいるだろうか。

――リーダーだけでなく、参謀役もいないと

渡辺 参謀役不在。フランクリン・ルーズベルト米大統領が非常に好んだ参謀役の心得を示した言葉に、「匿名への情熱」がある。参謀は最後まで表に出ようとしないことが大事なんだね。だからルーズベルトはちょっと名前が売れた自分の子分はすぐ切った。

日本の政治家でも、池田勇人元首相は側近だった大平正芳元首相を後に非常に嫌った。大平さんが1962年に、韓国の金鍾泌中央情報部長と合意した対日請求権をめぐる「大平・金メモ」がある。これは僕がスクープしたんだけど、大平外相は池田首相が外遊中に勝手に金氏とサインした。これに池田さんが怒って「許せない」となった。

後に聞くと、大平さんは「トップになると、ナンバー2に対する嫉妬を持つものだ。池田さんは私を非常に嫌い、財界人を集めた席で私を『バカ野郎』呼ばわりした」と話した。恐ろしい人間性の裏、地獄の底を見るようなことを聞いた。ナンバー2でも、トップが「こいつは俺に代わってのさばるんじゃないか」と思うと嫌われる。三木武吉にはそれがなかった。

――ただ、民主党政権の閣僚には「俺が俺が」タイプが多いように見える

渡辺 全員そうですよ。そうじゃない人はいるだろうかね。誰か裏でまとめる人がいるとしたら、そういう役割を自民党では大島理森副総裁、民主党では仙谷由人政調会長代行に期待するけどね。

そうしたら政局もなんとか収拾できると思うけど、みんな野心家すぎて足の引っ張り合いをする。野田さんも谷垣さんも気の毒だ。(阿比留瑠比)


わたなべ・つねお 大正15年、東京都生まれ。85歳。東大文学部哲学科卒。昭和25年読売新聞社入社。ワシントン支局長、解説部長、政治部長、論説委員長などを経て平成16年から現職。9年から15年まで日本新聞協会会長。13年から15年まで横綱審議委員会委員長。20年旭日大綬章受章。

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