執筆者 |
川上 淳之 (帝京大学) 淺羽 茂 (早稲田大学) |
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研究プロジェクト | 日本における無形資産の研究:国際比較及び公的部門の計測を中心として |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
産業・企業生産性向上プログラム (第三期:2011~2015年度)
「日本における無形資産の研究:国際比較及び公的部門の計測を中心として」プロジェクト
本研究は、無形資産の1つとして定義される組織資本が企業価値に与える影響を、「無形資産に関するインタビュー調査」のうちの、平成23・24年に実施されたインタビューで構成される第2回調査を用いて明らかにした。Kawakami and Asaba (2013)は同インタビュー調査を用いて、人的資源管理と組織資本で構成される無形資産が企業価値に与える影響を分析したものであるが、その結果は、人的資源管理については企業価値を向上させる効果を持っているものの、組織資本については影響がみられないか、もしくは負の効果がみられるという、設定されていた仮説と異なるものであった。
このような結果が得られた背景には、Kawakami and Asaba (2013)が、人的資源管理と組織資本の無形資産としての価値を、Bloom and Van Reenen (2007)と同じインタビュー調査内容、同じ方法でスコア化したことによる可能性が含まれる。スコア化する上で、高いスコアにおいたインタビュー調査の回答が、必ずしも日本の企業を用いた分析では、高い企業価値をもたらすものではないと考えられるのである。
以上の点を踏まえて、本稿は、インタビュー調査の回答をスコア化せずに、企業組織の形態について、どのような回答をしている企業で企業価値が高まっているかを、ダミー変数を用いることで質的に明らかにすることを目的とした。
その分析結果から、企業価値と組織資本との関係について、3つの特徴が得られた。(1)部門内において目標の共有や調整を行うことは企業価値を向上させているが、これが部門をまたがって共有・調整がされる場合には、企業価値を低下させる影響を持ってしまう。(2)意思決定の速さが企業価値に与える影響は、その文脈によって異なる。(3)具体的には、新しいビジネスに参入する際に、若い企業の場合にはその意思決定の速さが企業価値を高めているものの、企業年齢の高い企業については、意思決定の速さが逆に企業価値を低下させていた。部門間で情報共有される企業において、組織資本のスコアは高くなるように設定されていたこともあり、Kawakami and Asaba (2013)において組織資本が企業価値に与える影響が仮説通りに観察されなかった要因の1つとして考えられる。
また、このような結果が得られた背景として、部門間のコーディネーション・コストの存在が挙げられる。Bloom and Van Reenen (2007)の分析結果との相違も、Aoki (1988)で示されている日本型企業とアメリカ型企業の組織形態の違いが部門間の調整についてあらわれているものと解釈できる。
これらの結果は、組織資本を定性的にとらえる場合には、企業のおかれている環境や組織の形態、また、その企業の立地している国においてその企業価値に与える影響が異なることに注意する必要があることを示唆している。政策的に無形資産への投資を助成する上でも、組織改革に関する投資においては、その企業のおかれている環境によって投資内容が異なるものであるという前提に立つ必要がある。
目標の設定 | 新規事業立ち上げ時に必要な時間のうち、 部門間調整にかける時間 |
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係数/t値 | 係数/t値 | 係数/t値 | |||
スコア | インタビューの回答 | インタビューの回答 | |||
2点 | 目標の設定が現場の部署で決められる | -0.074 | 40-59% | 0.044 | -0.298 |
(1点) | (目標の設定が現場の部署で決められない) | -0.7 | (60%以上) | 0.49 | -0.17 |
3点 | 目標の達成難易度を部門内で調整 | 0.16 * 1.67 |
20-39% | -0.082 -0.85 |
1.709 1.25 |
4点 | 目標の達成難易度を部門間で調整 | -0.075 -1.24 |
19%以下 | 0.043 0.54 |
-2.089 *** -3.2 |
40-59%×企業年齢対数値 | 0.08 0.19 |
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20-39%×企業年齢対数値 | -0.453 -1.36 |
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19%以下×企業年齢対数値 | 0.524 *** 3.51 |
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サンプルサイズ | 277 | 271 | 269 | ||
決定係数 | 0.451 | 0.45 | 0.488 | ||
調整済み決定係数 | 0.417 | 0.415 | 0.447 | ||
F値 | 30.855 | 22.974 | 24.563 | ||
注)目標の設定については本文のTable6、新規事業立ち上げに必要な時間のうち、部門間調整にかける時間についてはTable12の結果を掲載したものである。ただし、表に掲載されている係数は組織資本に関連する変数のみである。また、アスタリスク*はその変数が有意水準10%で、***は有意水準1%で帰無仮説を棄却するものであることを示す。 |
参考文献
- Aoki, M. 1988. Information, Incentives, and Bargaining in the Japanese Economy. New York and Cambridge, Cambridge University Press.
- Bloom, N., and Van Reenen, J. 2007. Measuring and Explaining Management Practices across Firms and Countries. Quarterly Journal of Economics, 122: 1341-1408.
- Kawakami, A and Asaba, S. 2013 How Does the Market Value Management Practices? Decomposition of intangible assets. RIETI Discussion Paper 13-E-044.