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余った株主優待の行方 チケット店に買取サイト

ずっと持てる優待株(7)

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1500社以上が導入する株主優待。受け取った株主が消費しきれない「余った優待品」も少なからず発生する。しかし、その末路は廃棄とは限らず、実は人知れず世の中で活用されている。そんな「優待品2次流通」の全貌を知るべく、各所を回った。

【Scene1】繁華街のチケットショップ

個人株主が余らせた優待品と社会をつなぐ最初の結節点が、街中のチケットショップだ。余剰優待品を買い取り、他者に販売する2次流通への入り口となる。国内唯一の業界団体、日本チケット商協同組合によると、同組合の加盟店は全国で317店。だが、非加盟店の方がはるかに多く、「実際の店舗数は2000とも3000ともいわれている」(同組合)。

チケットショップは繁華街への出店が目立つ。実際に東京・池袋駅の地下街にある、業界大手の一角、J(ジェイ)・マーケットの店舗に足を運んだ。平日昼間の時間帯だったが、ひっきりなしに客が訪れていた。ショーケースに収まった優待券を物色する購入客だけではなく、優待券の買い取りを希望する客もいる。

優待券を売る若年層が増加

「以前は年配の顧客が多かったが、最近は新NISA(少額投資非課税制度)の影響か、若い世代の買い取り希望客も増えている」と、店舗の母体であるコスミック流通産業のエリアマネージャー、齋藤竜介氏は話す。優待券は商品券などに比べて利益率が高く、実はチケットショップの稼ぎ頭。「もはや優待券なしには業界は成り立たない」という。

さらに、齋藤氏は内情を吐露する。「購入客には同業者も少なくない。当店で百枚単位で大量に買って、他店で売って利ザヤを得る、ブローカーとおぼしき人もいる」

ブローカーが成り立つのは、優待券が一物一価でなく、立地や店舗により価格が千差万別だからだ。例えば、事前に他店での買い取り価格を調べ、利ザヤが取れそうなら優待券があれば即座に仕入れる。

また、J・マーケットの店舗間でも優待券を移動させる。同チェーンは東京近郊の他、大阪、福岡など合計20店舗。東京近郊の店舗ではニーズのないJR西日本の優待券は大阪、JR九州の優待券は福岡に送れば、より高く売れる。この池袋の店舗では地元の東武鉄道の優待券がよく売れる。優待券も様々な思惑に乗り、日本を縦断するのだ。

東京・新橋に店を構える業界大手の甲南チケットにも行ってみた。新橋駅前のニュー新橋ビル1階にあり、同じフロアに16店舗の同業者がひしめくチケットショップ激戦区だ。中でも甲南チケットは交通系から飲食店系、買い物系、旅行・レジャー系まで、取り扱う優待券が豊富で在庫も多い。元々は関西が地盤で、東京と合わせて26店舗。東京に6店舗を持つマルトクチケットとも同じグループだ。

JR優待人気上昇の理由

そんな甲南チケットで人気が上昇中なのが、JR3社の割引優待券だ。理由は各区間を走る新幹線の回数券が、2022年3月〜24年末にかけて全て廃止になったからだ。代わりに、新幹線料金が4割引きのJR東日本の優待券、半額になる西日本の優待券、最大2割引きのJR東海の優待券の魅力が増している。一部では買い取り価格も上昇しているという。

「新幹線の回数券の完全廃止はチケットショップに痛手だが、一方で優待券の需要は今後さらに増していくだろう」と、甲南チケット取締役の芳村隆夫氏は見ている。

一方、JR九州の優待券の需要も一時高まった。この背景にあるのは、JRグループの1日乗り放題券「青春18きっぷ」(24年度冬季)の仕様変更だ。従来は期間中に累計5日分まで自由に乗れたのが、5日連続での乗車が条件になり使い勝手が悪化。その代わりに1日乗り放題のJR九州の優待券をチケットショップで買う人が増えたのだ。甲南チケットの店頭での買い取り価格も上昇したという。

鉄道系優待券は、JR各社の制度変更をカバーする受け皿としての役割も担っているのだ。

【Scene2】優待品オンライン売買サイト

昔ながらのリアル店舗のチケットショップに対し、優待券のもう一つの主要な買い取りの場となっているのが、オンラインの売買サイトだ。前出のJ・マーケットや甲南チケットでも、買い取りサイトを運営している。

売却の手順は簡単だ。一覧から売りたい優待品と数量を選択し、「買い物かご」に入れ、住所や振込先などを記入。サイトでの登録後、初回のみ身分証明書とともに優待券を表示の住所に郵送すると、買い取り代金が後日振り込まれる。

いちいち店舗に行く必要がなく、買い取り価格も明示され、安心して取引できる。街中の店舗を足で回って交渉すれば、もっと高値を付ける店が見つかるかもしれないが、手間を考えればオンラインで済ませるのも一つの手だ。

そうした優待券オンラインサイトの草分けが、優待マーケットが運営するチケットオンラインだ。チケットショップと異なり優待品専業。売却の流れはJ・マーケットや甲南チケットとほぼ同じだが、優待券が同社に到着後、中身をすぐに確認し即日入金するスピード感が売りだ。また、創業者が証券業界出身であることから、機関投資家25社を取引先とし、大量の優待券を仕入れるルートがあることも強みだ。「法人からの買い取りの方が個人の5倍多い」と、同社社長の森明彦氏は話す。

売る側の個人にとってのメリットは、居住地に関係なく、手持ちの優待券を一定の価格で売れることだ。地元のチケットショップに売る場合、周辺にその券を使える店がなければ、買い取り拒否か買い叩かれるのが落ちだ。実際、同社のサイトには全国津々浦々から買い取り依頼が舞い込み、2次流通のさらなる促進に一役買っている。利便性が評価されて、利用者数は累計4万人弱に上り、リピーターはその5〜6割だという。

航空優待に激震走る

一見順調に発展しているように見える優待券市場だが、最近激震が走った。流通量が多く売れ筋だった日本航空ANAホールディングスの割引優待券の価格が暴落したのだ。優待マーケットによると、JALの場合、22年2月に2961円だった月の平均買い取り価格が24年10月は895円。ANAは23年7月3536円が、24年10月は646円に急落。共に「過去最低」だ。

原因の見方は様々だ。「コロナ禍を経て企業の出張が減ったことが要因」(コスミック流通産業の齋藤氏)という意見。「旅行需要が戻る中、航空会社が通常枠の席を増やし、優待枠の席を減らしている。優待券で席を確保しづらくなり、売れ行きが悪くなったため、在庫過多になり相場が崩れた」(甲南チケットの芳村氏)という分析もある。いずれにせよ、チケットショップ、優待券を売る個人の双方に大打撃を与えている。

優待券を二次流通市場に供給する主体は他にもある。後編ではまず、最大級の優待券の供給元である、とある銀行を訪ねる。また、チケットショップでは扱えない、食品などの現物優待品の行方も追う。

(ライター 高橋学)

[日経マネー2025年3月号の記事を再構成]

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