老後資金1億円へ、年金受給額の決まり方知れば損しない
1億円達成の黄金律(3)
多くの人にとって、老後生活を支える柱は公的年金だ。ただ、年金制度には様々な疑問がつきまとう。「人口減少と高齢化が進んでも若者は将来に年金を受け取れるのか?」「インフレが進むと年金受給額はどうなるのか?」――これからも年金に頼れるのだろうか。
疑問を解くスタートラインは、制度を正しく理解することだ。1億円達成計画の第一歩として、自分の年金を把握しよう。
毎年、1月ごろに新年度の公的年金額が決まる。公的年金は国民年金と厚生年金の2つ。2024年度の国民年金は月6万8000円で、23年度より2.7%増えた。賃金と物価が上昇すれば、基本的に公的年金は増える。インフレにある程度は対応する仕組みだ。
「雇われているか」で違う
では、自分はどの公的年金を受け取るのか。見分けるポイントは「雇われて働いているかどうか」だ。
まず、誰にも雇われていない人は、20歳から60歳未満まで国民年金に加入し、原則、65歳から「基礎年金」を受け取る。加入中は国民年金保険料を納めるのが義務。24年度は月1万6980円だ。
国民年金保険料を納めなくていい人もいる。代表は、会社員や公務員の配偶者の専業主婦・主夫だ。「第3号被保険者」と呼ばれ、年金保険料を払わなくても基礎年金をもらえる。大半が女性だ。自営業の配偶者は、専業主婦・主夫でも国民年金保険料を納めるため「不公平だ」との声がかねてある。共働き世帯が増え、3号の人数は徐々に減っている。
一方、雇われて働く会社員や公務員は、基礎年金に加え厚生年金がある。厚生年金は10代から70歳未満まで加入できる。パートやアルバイトも、勤務先の規模や収入、勤務時間など条件を満たせば入る。
給料から天引きされる厚生年金保険料は基礎年金部分も含み、自己負担は半額。残りは雇い主が払う。厚生年金保険料の額は給料・賞与に比例する。老後にもらう厚生年金は、払った年金保険料が高いほど増える。つまり、働いて多く稼げば、老後の厚生年金も増える。ただし、年金保険料の計算に使う月収が65万円で上限に達する。
ここまでの公的年金は加入が義務で、誰もが受け取れる。これに、選択して上乗せする国制度の年金がある。やはり、雇われているかどうかで、仕組みが分かれる。
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自営業など雇われていない人は、国民年金基金をプラスできる。1口から加入し、受け取る時期や年金の種類を選べる。国民年金保険料を納めていることが条件だ。第3号被保険者は加入できない。
一方、正社員は、企業年金がある場合が少なくない。企業が選択する国制度の上乗せ年金で、退職金の一部であることが多い。加入期間は厚生年金がベースで、企業のルールもある。まとめて一時金をもらうか、年金形式で少しずつ受け取るか、選べることが多い。一般に大企業ほど充実している。
以前は、企業が年金資産の運用リスクを負う確定給付年金(DB)が多かった。最近は、社員が自分で運用先を選ぶ確定拠出年金(DC)が増えている。運用成績次第で、老後の年金が増減する。
非課税の運用手段として熱い視線が注がれるiDeCoは、個人型の確定拠出年金。雇われても雇われなくても利用できる。国民年金保険料を納めていない3号の専業主婦・主夫も加入可能だ。
年金の受給額はいろいろな条件で変わる。国民年金(基礎年金)は40年が満期で、保険料を払った期間が40年に近づくほど増える。その他は保険料や掛け金が収入や自分の意思で変わり、多いほど増える。DCとiDeCoは掛け金の額が確定している確定拠出年金で、運用先は自分で選択する。加入者が自己責任で年金資産を運用する制度なので、結果が振るわない場合もあることは要注意だ。
公的年金は、インフレに対応する終身年金で、現役世代も病気やけがで動けない時の障害年金や、死亡時の遺族年金という備えがある。公的年金並みの保険料でこの保障内容を実現するのは、民間の年金保険などの商品では無理だ。
学生納付特例で年金減る?
ただ、その利点を余さず享受するには、避けたい落とし穴がある。まず、3号以外で年金保険料を納めない期間があると、原則、基礎年金を満額もらえない。学生時代に「学生納付特例」で国民年金保険料を払わなかった人は要注意だ。追納などで満額に近づけよう。
また、公的年金は万能ではない。保険料を納める現役世代が減っても年金財政を維持できるよう、物価や賃金の伸びに比べて年金受給額の増え方を当面抑える「マクロ経済スライド」という仕組みがある。このため、現役世代と年金生活者の生活水準はだんだん差が開いていく。現役世代と同じように生活を豊かにしたければ、資産運用で老後資金を増やす努力は必要。1億円の達成には、一定の自助努力が欠かせないということだ。
(大賀智子)
[日経マネー2025年1月号の記事を再構成]
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