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モバイル決済、本命候補NFCが大苦戦 簡易方式に人気

世界のモバイル通信事情(3)

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 2013年7月に米スプリント・ネクステル(現スプリント)を買収したソフトバンク。2013年10月にはガンホー・オンライン・エンターテイメントと共同でフィンランドのゲーム会社、さらには携帯電話端末の卸売事業で世界最大規模の米社をそれぞれ傘下に収めると発表した。ソフトバンクに限らず、NTTドコモやKDDIもグローバル展開を強化している。こうした動きの背景にあるのは、国内市場の成熟化だ。各社が海外展開に力を入れるのは自然の流れで、今後はボーダレス化の動きがさらに加速していく。今や、通信業界に携わる人も一般ユーザーも、海外の動向を把握しておくことは不可欠になってきた。連載「世界のモバイル通信事情」では、一般ユーザーになじみが深い「携帯電話端末市場」「公衆無線LAN」「モバイル決済」「モバイルヘルス」という4つの動向について、情報通信総合研究所の研究員が解説する。今回は、モバイル決済に関する最新事情を紹介しよう。(日経コミュニケーション)

日本では「おサイフケータイ」でおなじみのモバイル決済。米ガートナーによると、モバイル決済の世界市場規模は2012年に1631億ドル(約16兆円)となった。2013年は前年比44%増の2354億ドル(約23兆円)、ユーザー数は同22%増の2億4500万人に拡大する見通しだ。それが2017年には7210億ドル(約71兆円)、ユーザー数で4億5000万人規模まで成長が期待されている。

だが、欧米では日本のおサイフケータイのようなICチップ方式ではなく、バーコードや簡易リーダーを活用した方式が主流で、ハードからソフト(アプリ)へのシフトが鮮明となっている。用途も単なる「決済」から、クーポン配信やポイントプログラムなどと連動した「マーケティングプラットフォーム」に変わりつつある。

海外で苦戦が続くNFC方式

米国での成功例を見てみよう。スターバックスのスマートフォン(スマホ)向けアプリがそれだ。同社のプリペイドカード(スターバックスカード)と連動しており、アプリで商品を選択。表示されたバーコードをレジにかざすだけで支払いが完了する(図1)。

その裏ではユーザーのアカウントから商品の代金が引き落とされており、クレジットカードによる自動チャージが可能。ユーザーはアプリを使って残高やポイントを確認したり、店舗を検索したりできる。同アプリを用いた決済は週に300万回を超えるという。

一時はおサイフケータイと同様、NFC(非接触IC技術に用いられる近距離無線通信の国際標準規格)を用いた方式も注目された。代表的な例としては、米携帯大手が主体となって展開する「Isis(アイシス)」、米グーグルの「Google Wallet(グーグルウォレット)」がある。だが、NFC方式の場合、消費者には対応端末、店舗側にも対応リーダーがなければ使えない。米アップルも「iPhone」にNFCの機能を搭載していない。

現状、Google Walletの対応端末は、スマホとタブレット端末の合計で30機種。提供メーカーも5社と少ない。Isisに関しても、米マクドナルドがテキサス州の店舗で実験を進めているが、店員の指導が行き届いておらず、オペレーションに混乱が生じるなど、あまりうまくいっていないとの報道を目にする。

冒頭で紹介したガートナーの調査でも、NFC方式のサービスは普及が遅れていることから、2013年の決済取引金額の見込みを40%下げた。2013年のNFC方式の金額シェアは2%で、2017年でも5%にとどまると予測する。

対応端末不要のサービスが続々登場

NFC方式が足踏みしている間に、新たなモバイル決済サービスが相次ぎ登場した。米ペイパルの「PayPal Here」や、米ツイッターの創業者が起業した米スクエアの「Square」などである(図2)。

スマホやタブレット端末のイヤホンジャックに簡易クレジットカードリーダーを装着し、無料のアプリと組み合わせて決済端末として使える。日本でも楽天の「楽天スマートペイ」、コイニーの「Coiney」、ロイヤルゲートの「PAYGATE」などが登場している。

スターバックスのサービスを含め、これらの方式であれば、ユーザーにはインターネットに接続可能な端末さえあればいい。NFC方式のようにわざわざ対応端末を購入する必要がない。保有するクレジットカードもそのまま使える。

一方、店舗にとっても高価なNFC対応リーダーは不要で、簡易クレジットカードリーダーを付けたスマートデバイスで代用できる。ユーザーと店舗の双方にとってメリットがあり、モバイル決済の今後のトレンドはハードからソフト(アプリ)に移行していくだろう。これまで専用ハードを必要とした多くのサービスがWebとクラウドを利用したサービスに代替されてきた運命は、決済領域においても同じと言える。

単なる決済サービスの枠を超えられるか

モバイル決済を手掛ける事業者は、顧客のロイヤルティー(忠誠)を高めるプログラムも用意している。スターバックスのアプリでコーヒーを購入すれば、ユーザーの利用頻度に応じたポイントが付与される。単なる決済サービスにとどまらず、顧客管理や売上管理システム、マーケティングツールなども提供し、小売店の経営戦略をデザインするところまで考えている。

モバイル決済の付加価値は今後、こうした顧客ロイヤルティーやマーケティングの比重が高まっていく。

一方、通信事業者やクレジットカード会社が提供するモバイル決済サービスは、単なる決済手段の代替にとどまっている。使いやすくてメリットがはっきりと分かるサービスが求められており、「ユーザーファースト」の観点でまだまだ改善の余地がありそうだ。

(情報通信総合研究所 主任研究員 志村一隆)

[ITpro 2013年11月27日付の記事を基に再構成]

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