「戦力外」エネルギー技術に脚光 日本勢、弱点克服し商機
環境・エネルギーの世界で、いったん次世代構想から外れかかった「戦力外」の技術が再び脚光を浴びている。自動車のバッテリーなどに使う鉛蓄電池や、環境負荷が高いために敬遠されてきた石炭火力発電などだ。主役は日本企業。成熟した技術ならではの安定性と低コストが売りだ。得意とする息の長い技術革新で弱点を克服、社会環境の変化も追い風に存在感を増しつつある。
鉛を電極に使い、繰り返し充電して使う鉛蓄電池は、19世紀半ばにフランスで発明された。今は主に自動車のバッテリー、工場や事務所の補助電源に使われている。富士経済(東京・中央)によると、充電して使う2次電池の世界市場で7割のシェアを占める。
だが蓄電効率が低く、重くてかさばるのがネック。寿命も自動車用のバッテリーで2~3年程度と短かった。こうした事情もあって、電池各社の次世代技術開発の中心は1990年代以降、自動車やスマートフォン(高機能携帯情報端末)などに使われる小型で高効率のリチウムイオン電池などの高性能電池へと移っていった。
この間、高性能電池と並行して、鉛蓄電池の技術開発を進めてきたのが日立化成工業の子会社で、自動車や産業向けの蓄電池を手掛ける新神戸電機だ。ポイントは課題だった長寿命化。鉛の電極の劣化を防ぐよう改良して強度を上げ、2001年に寿命10年の「LL電池」を開発。さらに改善した現行機種では、寿命を17年まで延ばした。
長寿命化の実現をきっかけに、新たな商機が生まれつつある。
今後の期待が高いのは、風力・太陽光発電施設での活用だ。自然エネルギーは天候や風向きで発電量が変化しやすく、出力が安定しないため、大手電力の系統につなぐのが難しかった。これを解消するため、いったん蓄電池に電気をためてから一定の出力で電気を流す方式が登場してきた。
新神戸電機は02年から沖縄県の与那国島の風力発電施設で実証試験を始め、すでに10年が経過した。10年には青森県五所川原市で鉛蓄電池を使った風力発電所が開業、本格運転を始めた。
メガソーラーや大型風力発電が立地するのは海岸や洋上、広い遊休地が多い。場所を取っても気にはならない。
さらに原材料に希少物質を使っていないため、同じ容量のリチウムイオン電池に比べ、価格が5分の1ですむ。保守が簡単で、昨年9月に工場火災を起こしたナトリウム硫黄(NAS)電池やリチウムイオン電池のように発火する危険性もない。日立化成の田中一行社長は「性能とコストのバランスを考えればニーズはある」と自信を見せる。
地球温暖化の元凶の1つとされる石炭火力発電も「復権」しつつある。
天然ガス火力の約2倍とされる二酸化炭素(CO2)の排出量の多さがネックとなり、国内では新増設が難しい状態が続いていたが、東日本大震災と東京電力福島第1原子力発電所の事故で、環境は一変した。
震災で原発が次々に停止し、電力各社は火力発電をフル稼働して対応したが、日本の火力発電は液化天然ガス(LNG)が中心。大量輸入を余儀なくされた。11年度の貿易統計によるとLNGの輸入額は5割増の5.4兆円と過去最高。輸出額から輸入額を引いた貿易収支で4兆円超の赤字を計上する元凶となった。
これに対し、石炭火力の魅力はコストの安さだ。燃料費は1キロワット時あたり4円で石油の4分の1、LNGの半分以下だ。ほかのエネルギー源に比べ安定調達も見込める。
こうした長所を踏まえ政府は9月に策定した中長期的なエネルギー・環境戦略で「石炭火力はベース電源としてより重要な役割を果たす」と、必要性を強調。電力各社は石炭火力発電所を新設する方針を示している。
温暖化問題との兼ね合いはあるが、原発の新設も難しい今、有力な選択肢の1つとなっている。
そんな中、石炭火力発電のクリーン化、高効率化で技術開発のトップを走るのは日本企業だ。
三菱重工業や日立製作所が開発を進める次世代型の「石炭ガス化複合発電(IGCC)」。石炭を燃やしてガスタービンを回した後の排ガスも活用して発電効率を高める仕組みだ。
石炭を無駄なく使うことで、石油火力並みにCO2排出量を削減できるという。実証試験を進め、15~20年ごろの実用化を目指す。
すでに海外では日本メーカーの石炭火力の需要は旺盛だ。今期に入ってからも日立がポーランドや韓国で発電所や関連設備を受注。IHIや東芝などの企業連合も台湾で大型設備を受注した。新興国を中心に需要は拡大する見通しで、日本の重電産業の屋台骨を支える事業に育ちつつある。
一方、技術の"再発見"に乗り遅れた分野もある。かつて「スーパーカー」に搭載され、加速性能の高さで人気を集めたターボチャージャー(過給器)。日本でも1980~90年代前半にかけ技術開発が進み、ターボ車が一世を風靡した。
その後日本ではいったん下火になったが、ここ数年、省エネの観点から再び注目が集まった。ターボを付けることで、少ない排気量でも1サイズ大きなエンジンと同等の加速性を保つ「ダウンサイジングエンジン」。これを搭載したエコカーの投入では、独フォルクスワーゲンなどに先を越された。
事業の「選択と集中」が苦手と言われてきた日本企業だが、掌中の技術を磨き上げる強みはさびていないはず。「残り物に福」がないのか。社内の技術を精査する必要がありそうだ。
(産業部 山腰克也)