インテルが11世代CPU 画像処理2倍速、微細化で遅れ

【シリコンバレー=佐藤浩実】米インテルは2日、パソコン向けCPU(中央演算処理装置)の新製品を発表した。ゲームや写真編集といった画像処理の性能を高めたのが特徴で、今秋から150機種のノートパソコンで採用が始まる。2020年の業績拡大につながる一方で、中長期での競争力維持に苦悩するインテルの姿も映す。
2日に開いたオンライン発表会で、新製品「第11世代コアプロセッサー」を披露した。CPUと画像処理や人工知能(AI)計算用のチップを一つにまとめた製品で、従来品と比べて画像処理の性能を2倍、AI計算の速さを5倍にしたという。グレゴリー・ブライアント上級副社長は「すべての模倣者を上回る、最高の性能だ」と話す。
念頭に置くのは、競合の米アドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD)だ。発表会でも写真編集やレーシングゲームをする様子を見せ、AMDの製品よりも処理が速いことを強調した。ノートパソコン向けCPUの弱点だった画像処理の性能を高めることで、AMDに押され気味のシェアを取り返す狙いがある。
新製品は中国のレノボ・グループや米HP、韓国サムスン電子などが採用を決めており、今秋から売り上げに貢献し始める。インテルは20年の全社の売上高が750億ドルになると予想。新型コロナウイルス下のパソコン特需もあり、19年の719億ドルを上回って5年連続で過去最高を更新する見通しだ。

だが、半導体各社と比べるとインテルの株価はさえない。2日は発表を受けて前日比3%近く上昇したものの、年初よりも14%低い水準にとどまる。7月には時価総額で米半導体首位の座をエヌビディアに譲った。
低空飛行の理由は、7月下旬の決算会見でのやり取りだ。ボブ・スワン最高経営責任者(CEO)は「次世代品」と位置づける回路線幅7ナノ(ナノは10億分の1)メートルのCPUについて、量産時期が予定より半年遅れて22~23年になるとの見通しを明らかにした。それまでは19年に製品化した10ナノ品の改良で食いつながなければならない。
一般的に半導体は、回路線幅が細くなるほど面積あたりの処理能力が高まる。インテルの10ナノ品は台湾積体電路製造(TSMC)やサムスンの7ナノ品と同等の性能で、インテルの7ナノ品は2社の5ナノ品に匹敵する。
受託生産大手のTSMCはすでに5ナノ品の量産を始めており、サムスンも20年中に着手する計画だ。「微細化」という点ではインテルの劣後が鮮明になる。スワン氏が「緊急対策の範囲内で委託生産も検討する」と発言したことで、インテルの製造技術に対する懸念はさらに増した。
もちろん、製品の良しあしや事業としての成否を決めるのは微細化の技術だけではない。例えば、エヌビディアの成長の背景にはAI研究者らの利用を促すソフトウエアへの多大な投資がある。クアルコムは通信規格「5G」に関わるさまざまな特許を抑えることで、スマートフォン分野での競争力を守っている。いずれも半導体そのものの生産は外部委託だ。
インテル自身も、主に微細化によって半導体の性能を高める「ムーアの法則」の限界を何年も前から認めている。チーフアーキテクトのラジャ・コドゥリ氏はパッケージング(後工程)も含めた製造技術やソフトウエア、安全性といった複数の要素を組み合わせて「18カ月ごとにユーザーの体験価値を2倍にする」という方針を掲げる。

ただCPUの設計開発から製造までの垂直統合を強みとしてきたインテルにとって、委託生産を増やせば独自性が薄れるのは否めない。米国を代表する半導体メーカーのインテルが微細化で劣後すれば、国家の安全保障にほころびが生じるとの見方もある。
インテルは2日、CPUの発表に合わせて14年ぶりに会社のロゴを刷新した。アルファベットを覆う円をなくして簡素化したデザインで「過去にとらわれてはいけない。そこから離れて何か素晴らしいことを始めよう」という創業者ロバート・ノイス氏の発言に着想を得たという。競争力を維持するために、従来とは異なる戦略に踏み切りたがっているようにも見える。