マイクロフィルム
2022年1月更新
マイクロフィルムは適切な素材と保存環境であれば長期保存が可能な媒体で、期待寿命500年と言われています。しかし、保存環境や利用時の取り扱い、作製時の処理が適切に行われていない場合に劣化が起こります。
マイクロフィルムの特徴
被写体を縮小して記録・保存することが可能です。映写装置のマイクロ・リーダーを用いれば、原資料と同程度に拡大して閲覧することができます。ロール状に巻かれたロールフィルム(左写真)、シート状のマイクロフィッシュ等の種類があり、紙の資料に比べてコンパクトに収納できます。
マイクロフィルムの種類
一般的な白黒フィルムの場合、フィルムの支持体として主に2種類あります。
1.TAC(セルロースエステル)ベース
2.PET(ポリエステル)ベース
TACベースのフィルムは主に1950年代から使用されましたが、一般的な温湿度環境下では30年程度でビネガーシンドロームという劣化が発生することが明らかになったため、1990年代前半に化学的により安定したPETベースに切り替わりました。TACベースとPETベースのフィルムは、光に透過させることで見分けることができます。
マイクロフィルムの主な劣化と要因
TACベースのフィルムでは、加水分解により酢酸が生じることで、ビネガーシンドロームという劣化が発生します。ビネガーシンドロームが生じると、フィルムから酸っぱい臭いがし、べたつきや変形(左写真)などが起こります。また、不適切な温湿度の環境下での保管は、フィルムの貼りつき・ひび割れ・カビ発生の原因となります。利用時の不適切な取扱いもフィルムを傷つける一因です。
長期保存をするために
保存環境の整備と継続的なメンテナンスが必要です。保管場所の温湿度を適切に管理し、フィルムに劣化が生じていないかを定期的に確認します。適切な温湿度条件はJISZ 6009:1994「銀-ゼラチンマイクロフィルムの処理及び保存方法」に基準(表1)が示されています。
表1)フィルムの保存に適した相対湿度及び温度の条件
保存条件 | 相対湿度 | 温度 | |
TACベース | PETベース | 最高 | |
中期保存条件 |
15〜60% |
30〜60% |
25℃(※) |
永久保存条件 | 15〜40% | 30〜40% | 21℃ |
※理想的には温度は長期間にわたって25℃を超えてはならず、20℃より低い温度が望ましい。短期的なピーク温度は32℃を超えてはならない。
備考1.この湿度及び温度の条件は、1日24時間維持しなければならない。
備考2.TACベース(セルロースエステル)及びPETベース(ポリエステル)のフィルムを同一の場所で保存する場合、永久保存での推奨される相対湿度は30%である。
都立図書館での対策
都立図書館では、新聞や雑誌などのマイクロフィルムを数多く所蔵しており、以下のような劣化対策を行っています。
・保管庫の適切な温湿度管理
・保管庫に設置した乾燥剤・酢酸吸着シートの入替
・保管庫の水拭き、悪性ガス吸着紙設置
・風通し・点検を目的としたリールの巻戻し作業の実施
・TACベースからPETベースへの更新
参考
・『図書館資料としてのマイクロフィルム入門』小島浩之編 日本図書館協会 2015年
・『資料保存の調査と計画』日本図書館協会資料保存委員会編集企画,安江明夫監修 日本図書館協会 2009年
・国立国会図書館「マイクロフィルム保存のための基礎知識」