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「物心ついたときには“自分は何かを作る人になるんだ!”と思い込んでいました」 アニメーション監督・山田尚子が語るカルチャーの原体験

「きみの色」より


いま、日本のアニメーション映画界でもっとも新作が待望される監督のひとり、山田尚子。「映画 けいおん!」「映画 聲の形」「リズと青い鳥」など、若者たちの日常を繊細でみずみずしいタッチで描いた作品群は、熱狂的なファンも多いことで知られています。
8月30日には新作「きみの色」の全国公開を控える山田監督ですが、その独特の創造力と感性はどのようにして培われたのでしょうか? その秘密を探るべく、雑誌『キネマ旬報』では、山田監督へのロング・インタビューを実施。幼少期のカルチャー体験や学生時代の思い出など、これまであまり知られることのなかったエピソードをたくさん伺うことができました。
ここではその一部をご紹介してみましょう。(編集部)

 

山田尚子(やまだ・なおこ)
アニメーション監督。京都府生まれ。美大を卒業後、京都アニメーションに入社し、アニメーターとしてキャリアをスタート。2009年TVアニメ『けいおん!』で初監督を務め、「映画 けいおん!」(11)で劇場監督デビュー。同スタジオで「たまこラブストーリー」(14)、「映画 聲の形」(16)、「リズと青い鳥」(18)を監督したのち、フリーランスに。22年、サイエンスSARUと組んで配信・TVシリーズ『平家物語』を監督。さらに、初の完全オリジナル劇場長篇となる最新作「きみの色」(8月30日公開)を完成させた。

 

◎根暗だった子ども時代、テレビが一番の友だちでした

 

──山田監督のカルチャー(文化)をめぐる原体験は何ですか?

山田 西洋絵画でしょうか。

──それはどういうきっかけで?

山田 私、子ども時代はとても根暗で(笑)、物心ついたときからテレビが一番の友だちで、ずーっと観てたんですね。NHK教育(現・NHK Eテレ)の『日曜美術館』で絵画に触れて、衛星放送や深夜番組で映画を観て、というところから自分の趣味が育ってきてて。その中で最初に魅了されたのが何だったかというと、西洋絵画になるんだと思います。

──絵は子ども時代からよく描かれていたんですか?

山田 そうですね。小さい頃、おばあちゃんに褒められて調子に乗って(笑)。今にして思うと、おばあちゃんはだいだい何でも褒めてくれるわけですけど、子どもの自分は勘違いして「私は絵がうまいんだ!」と。それで興味を持って、テレビで美術の番組があれば齧りつくように観てましたね。なので、ぼんやりと物心ついたときにはもう「自分は何かを作る人になるんだ!」と何となく思い込んでいました。

──他方、アニメの原体験は何ですか?

山田 記憶をたどると、『元祖天才バカボン』(75~77)な気がします。テレビで流れてたものをたまたま観たというのはもっといろいろあったと思うんですけど、最初にアニメとして意識したのは『元祖天才バカボン』、あと『じゃりン子チエ』(81~83)。ちゃんと一本通して観て、アニメ的な快楽を感じたのは「(風の谷の)ナウシカ」(84)です。

──アニメーション映画の原体験は宮﨑駿監督になるんですね。

山田 そうですね。『(アルプスの少女)ハイジ』(74)とかも観ていて、宮﨑駿さんや高畑勲さんの作品は無意識に刷り込まれてるのかなと思います。

 


◎勘違いがパワーになって美大へ進学

「きみの色」より

──思春期以降のカルチャー体験はいかがですか?

山田 マンガと音楽、あとは映画が大好きでしたね。ただ当時から、世間で流行ってるものが苦手で、自分で楽しむのはどちらかというとマイナーなものが中心、みんなが知っているものはわざわざ知らなくてもいい、という子どもでした(笑)。

──情報収集はどうやっていたんですか? 趣味の合う友だちがいた?

山田 いえ、5つ上の姉からの影響が大きかったですね。もしかすると姉の世代ではメインカルチャーだったのかもしれないですけど(笑)、同世代の子たちと好きなものの交歓はあまりできなくて、みんなが好きなものを教えてもらう反面、いつも孤独に楽しんでいました。
 ただ、音楽に関してはもともと親が好きで、家では常にレコードが回ってて、マンガも書庫にあったのを自然と読んでいただけなので、その意味では自分で前のめりに好きになったのは映画なのかもしれません。

──京都の美大に進もうと思ったのは、どういう流れだったのでしょうか。

山田 幼少期におばあちゃんに褒められた勘違いが思春期までずっと続いていまして……(笑)。でもその勘違いがパワーになって、美術の成績だけはすごくよかったんです。中学校のときも美術の先生に「美術の道に進んだら?」と言われたりして。そうやって周りのみなさんがいろいろな勘違いを生んでくださったおかげで、美大に進学することできました。

──専攻は油画なんですよね。

山田 はい。入るまでは描いたことがなかったんですけど、油画という技術に憧れがあったんです。近代や現代のアートよりかは、古典的な絵画が好きだったというのもありますね。

──大学時代、漠然とでも、将来は何になりたいといった夢はありましたか?

山田 はじめは絵画の修復師みたいな仕事に就けたらいいなと、なんとなくですけど思ってました。でも高校から大学にかけて、(ヤン・)シュヴァンクマイエルとかの衝撃的なアニメーション作品が大好きになって、映像を作りたいなという気持ちがだんだんとフェードインしてくるようになったんです。受験も本命は油画だったんですけど、映像科も受けてて、大学時代を通じてだんだんとそっちの気持ちのほうが強くなっていきました。

──大学時代に映像作品を作ったりもしていたんですか?

山田 遊びで自宅でひとり8ミリビデオカメラを使って、コマ撮りのアニメなんかを作ったりはしてましたね。

──それはドローイングではなくストップモーション作品?

山田 はい。アニメーションという技術に惹かれて、自分でも作ってみたいなと思ったんです。

 

◎たまたま入ったアニメの世界、そして……

 

──アニメ業界で働こうと思ったきっかけはなんですか?

山田 奇跡的な出会いというか、もう就職しなければいけないというときに、何か私でもできる仕事はないかなと大学の就職課に行ったら、たまたま京都アニメーションの募集要項を見つけたんです。

──それまでは、いわゆる「日本のアニメ」とは馴染みが薄かったわけですよね?

山田 そうですね。小学校のときにそういうのが好きな友だちがいたので知ってはいましたけど、まさか自分がそれを仕事にすることになるなんて、夢にも思ってなかったです。

「きみの色」より

 

いかがでしたか? アニメーション業界に入った山田監督に、そこでどのような体験や出会いがあったのか?
『キネマ旬報』8月号では、その後のエピソードやアニメーションづくりにおいて大切にしていること、映画への思いも語ってくれています。
さらに、「山田尚子監督をつくったもの~音楽、マンガ、映画~」として、山田監督が影響を受けた作品も紹介。山田尚子ファンはもとより、全映画ファン必見の内容となっています。

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取材・構成=高瀬康司 制作=キネマ旬報社

 

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「きみの色」
監督:山田尚子 声の出演:鈴川紗由、髙石あかり、木戸大聖、やす子、悠木碧、寿美菜子、戸田恵子、新垣結衣 製作:「きみの色」製作委員会 配給:東宝
2024年8月30日(金)より全国東宝系にて公開

©2024「きみの色」製作委員会

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