2024年もご愛読いただきありがとうございました。
世界の60カ国以上で重要な選挙が行われた「選挙イヤー」が終わります。その総括をひとことで言えば、「現職首脳・政権与党の敗北の年」ということになるでしょうか。新型コロナ禍対策で各国が行った財政出動はインフレ圧力となって世界を覆い、物価高と格差の拡大が政府への不満につながっていく。こうした構図のもとにアメリカ、イギリスでは政権交代が実現し、他の多くの国でも与党が大きく議席を減らしました。
与党のプレゼンス低下はしばしば立法府と行政府の対立を生み、法案の停滞や予算の承認遅延といった政治の機能不全に繋がります。2025年の世界は、こうした選挙イヤーの清算が各国で大きなテーマになるでしょう。その予兆はすでに顕著に見て取れます。総選挙後、2カ月半をかけてようやく成立した内閣が、早くも不信任案で崩壊したフランス。首相の信任投票が否決され、来る2月に解散総選挙が実施されるドイツ。そして大統領が国会の統制を狙って非常戒厳を宣言し、その大統領に対する弾劾訴追と拘束令状発行という極めて異例の事態に発展している韓国など、国際情勢にはいくつもの政治的火種がくすぶっています。
選挙の結果はいかなるものでも、民主主義の最も重要な前提です。しかし一方、キャスティングボートを握った少数勢力と与党が連携するなら、政治は少数勢力がその支持層に向けてアピールしたテーマを優先課題に据えるでしょう。たとえば日本で国民民主党が掲げる「年収103万円の壁」の見直し問題。手取り増は疑いなく大事なテーマですが、それが日本唯一のテーマかと言えば、外交・安全保障を筆頭に他にも喫緊の課題は多くあります。
政治が思惑先行でシングル・イシュー化して行けば、それはポピュリズムと紙一重。本日公開の国末憲人氏(本誌特別編集委員)のフランス政治情勢レポートは、「政治家は、自らの『物語』をしっかり打ち出せない限り、支持を広げられません。中道やリベラルな政治家に、それができるかどうか」という現地識者の言葉を紹介しています。おそらくこれは、フランスに限られた問題ではありません。米大統領選で敗北した民主党や、もちろん日本の自民党をはじめとして、選挙イヤーの“敗者”の再生にも焦点を当てるべき2025年だと考えます。
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以下は本年配信した全767本の記事の中から、フォーサイト有料会員のアクセス数が多かった記事10本のリストです。
アクセス数だけが「よく読まれた」ことを示す指標ではありません(たとえば当該記事に読者がどれだけ「滞在」したかも重要ですが、ここには反映していません)。11位以下に複数の記事が入っているなど、執筆者ごとの「トータル閲覧数」を出せばまた違った順番にもなってきます。そして当然ながら、年後半に公開された記事には不利ですが、よき新年を迎える助けとして、お役立ていただければ幸いです。
フォーサイト編集長・西村博一
※各記事の紹介文は掲載時点のものです。
1位.中国の「空気」が変わってきた(宮本雄二/2月26日)
〈ゼロ・コロナ政策と「戦狼外交」を使って国民の求心力を高めた習近平政権だが、この2つの道具が使えなくなった2022年11月頃が転機となった。経験と実績に裏打ちされない「習近平思想」の学習だけでは現場は具体的な答えを見出せず、特に経済の現場での混乱は大きい。「空気」は、この政権の下で中国は上手くやっていけるのか、というものに変わってきている。3月初めの全人代が注目される。〉
2位.ヒト・モノ・カネで見るロシアの「軍事大国化」(小泉悠/1月9日)
〈ウクライナ侵略前は90万人台前半とみられたロシア軍は、昨年12月の大統領令で示した定員132万人を既に満たしていると考えられる。戦時増産が続く「モノ」についても、ウクライナとの相対戦力差をいずれ逆転しかねない。膨らむ国防費を賄うのは石油・天然ガス関連収入だ。価格高止まりが前提だが、当面、ロシアの戦費は尽きないだろう。だが、それは1979年のアフガン侵攻から91年のソ連崩壊へと続く歴史の再現かもしれない。〉
3位.そもそも笑止千万だった「ほぼトラ論」:「分断+僅差」の大統領選、かつてない大接戦で終盤へ(前嶋和弘/8月30日)
〈トランプのバイデンに対するアドバンテージ「支持率最大3ポイント+α」は、前回・前々回の大統領選と比較しても「僅差」のシグナルに他ならない。銃撃事件でも状況は変わらず、「ほぼトラ」「確トラ」論は合理的な理由に欠けている。社会が深く分断されると同時に、共和/民主支持が極めて拮抗する中では、接戦はもはや動かし難い構造だ。それは、目下は上げ潮のハリスにとっても、「伸びしろ」への期待だけでは戦い続けられないことを意味している。〉
4位.2024年、日本の地経学環境の新たな変化:経済は「力に基づく国際秩序」に覆われるか(鈴木一人/1月1日)
〈世界的に大きな選挙が続く2024年、各国・地域が内向き志向を強めるのは確実だ。台湾総統選に干渉する中国、大統領選を控え政権批判が広がるアメリカなど、大国もなりふり構わぬ自国ファーストに動けば世界の秩序が揺らぐだろう。ウクライナやガザ情勢の背景にある「力」で秩序を変えようとする動き。これが経済の領域にも広がることに、歯止めをかける必要がある。〉
5位.逆視点シミュレーション「台湾有事」――中国軍から見た着上陸作戦の困難さについて(滋野井公季/9月11日)
〈日米台など守る側の視点から台湾有事にアプローチする優れたシミュレーションは多いものの、中国側の視点――特に「上陸してから制圧するまで」に注目する分析は比較的手薄だ。地理的条件や戦力リソースなどの前提条件を踏まえると、軍事的には中国にとって非常に困難な作戦となることが浮かび上がる。最終的にはいかに困難な任務でも国家主席の決心次第だが、より蓋然性の高い主戦場として「封鎖作戦」「認知戦」のドメインを想定する必要性が示唆されている。〉
6位.「10月7日」以後の中東(4)パレスチナ問題の「イスラエル問題」への転換(池内恵/6月14日)
〈「10月7日」から8カ月が経った中東をめぐる国際政治において、それ以前と異なるのは、かつて「パレスチナ問題」とされていたものが影を潜め、代わりに「イスラエル問題」として、国際政治の課題の一つとして急浮上してしまっているということである。[本文より]〉
7位.“永遠の総裁候補”石破茂の課題――「人望がない」以上に深刻な「政策がない」(永田象山/7月19日)
〈9月の総裁選に向け、自民党内では岸田首相以外の選択肢を探る動きが活発化している。過去に4度総裁選へ出馬した石破茂元幹事長も注目を集める一人だが、長らく“党内野党”として政策立案の現場から離れており、政策通と目された側近たちも離れた今では、総裁候補として掲げる独自の政策が見当たらない。〉
8位.展望トランプ2.0―乗り越えるべき四つのハードル―(冨田浩司/3月21日)
〈米共和党の大統領候補指名が確実になったトランプ前大統領は、しばしば「取引型(Transactional)の人間」と評される。利害損得次第で豹変も辞さないスタイルは、目先の言動から導く「再選後の振る舞い」の推測をほとんど無意味なものにするだろう。ただし党内の「岩盤拒否層」やバイデン陣営に見劣りする資金力など、再選のために克服すべき課題は動かし難い。こうした課題への取組みは、その延長線上に誕生し得る「トランプ2.0」政権にどのような含意を持つだろうか。挙党態勢、女性対策、訴訟対応、政権構想という四つの視点から分析する。〉
9位.中国不動産バブルは“いつから”崩壊していたのか?――12兆円粉飾決算が語る意外な真実(高口康太/4月23日)
〈中国経済を根底から揺さぶる住宅・不動産問題、その象徴とも言うべき恒大集団は2020年夏の不動産規制で経営危機に転落したというのが「通説」だ。だが、先ごろ明らかになった恒大の巨額粉飾決算の実態を分析すれば、正味の危機はもっと早く訪れていたと見るべきだろう。2014年に公布された習近平総書記の肝いり政策「新型都市化 」で沸騰した中国不動産バブルだが、その“崩壊”は一般に考えられてきたより早く、2010年代後半には始まっていた。〉
10位.選挙結果がもたらした日米同盟の不透明な将来(細谷雄一/11月8日)
〈アメリカ大統領選の混乱は回避されたが、偽情報の拡散は「前例のない量」だったとの指摘がある。民主主義がファクトチェックなどで強靭性を増す一方、これへの攻撃も苛烈化してきた。不安の中で生まれた第二次トランプ政権が、「米国第一主義」を前面に押し出し、日本に防衛費の負担増や、日本製鉄のUSスティール買収を取り下げるよう要求することもあり得るだろう。その時、アメリカと「対等な国」となることを求める石破首相の対応は、いっそう難しいものとなる。日米同盟は、普天間米軍移設問題が紛糾したとき以来、最大の危機と困難に直面するかもしれない。〉