アメリカ英語とイギリス英語の発音上のもっとも大きなちがいは、イギリス英語では母音の前以外で/r/を発音しないという点である。つまり、"rain"のような語の/r/はどちらの方言でも発音されるが、 "car"、"morning"、"there"のような、語末や子音の前の/r/はイギリス英語では発音されず、それぞれ/kɑ:/、/mɔ:nɪŋ/、/ðe:/のように、伸ばすだけの長母音になる。(※もともと"there"の母音は二重母音[eə]で発音されていたが、現在は長母音[e:]の発音も多く聞かれる。)
同様に、"near"などは、アメリカ英語では/ɪɚ/とRの音色を伴う二重母音である。そのため、2番目の要素[ɚ]を発音するときは、舌を後ろに引いて、舌先をそらせる。一方、イギリス英語では、この二重母音はRの音色を伴わない、/ɪə/である。1番目の要素[ɪ]はしっかり発音するが、2番目の要素[ə]はごく弱く、短めに「ア」と添えるように発音する。
かつてはイギリス英語でも/r/はすべて発音されていたが、18世紀までには南部イングランドで母音の前以外の/r/が消失し、現在は南部イングランドでは上記で説明した通りの発音になっている。
アメリカ英語 | イギリス英語 | |||
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car | 再生 link | 再生 link | ||
morning | 再生 link | 会話 | 再生 link | 会話 |
there | 再生 link | 会話 | 再生 link | 会話 |
near | 再生 link | 再生 link | ||
bird | 再生 link | 再生 link | 会話 |
"late"や"clear"など、音節頭にある/l/は、舌先を歯茎にしっかりとつけて発音される音で、明るい/l/と呼ばれる。一方、"all"や"milk"のように、音節末にある/l/は暗い/l/(再生記号:[ɫ])と呼ばれ、舌先を歯茎につけることに加えて、舌の後ろの方を持ち上げて発音されるため、「ウ」あるいは「オ」のような音色を伴う。
イギリス英語においては、明るい/l/と暗い/l/の使い分けが明確であるが、アメリカ英語では、個人差があるものの、全ての位置で暗い/l/が用いられる傾向がある。会話モジュールの共通スクリプト(「時間についてたずねる」のlate、「予定を述べる」のlockなど)で両方言を比較してみると良いだろう。
アメリカ英語 | イギリス英語 | |||
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late | 再生 link | 会話 | 再生 link | 会話 |
milk | 再生 link | 再生 link | 会話 |
アメリカ英語では、/t/はしばしば有声化し、日本語のラ行音のようになる。/t/の有声化は、例えば"water"などのように、(1)母音間にあり、さらに/t/の後の母音が弱母音である場合、(2) "little"などのように、後に/l/がある場合に起こるが、"take"のように、強母音が続く場合は有声化されない。また、語末の/t/は、次に母音で始まる語がある場合はしばしば有声化される。表1では、/t/が有声化する場合、[ɾ]という記号を用いて表している。
環境 | 有声化 | 例 |
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強母音の前 | しない | take [teɪk] |
母音間 | する | water [wɑ:tɚ / wɑ:ɾɚ] |
/l/の前 | する | little [lɪtɫ / lɪɾɫ] |
語末の/t/で、次の単語が母音から始まる場合 | する | at all [ətɑ:ɫ / əɾɑ:ɫ] |
(注)正確には「有声化」だけでなく「弾音化」(flapping)も起こっている。
一方、イギリス英語では、語末や音節末の/t/はしばしば声門閉鎖音になる。例えば、"what"はイギリス英語では「ワッ」のように発音される。よりカジュアルな場面での発話では、母音間の/t/でも声門閉鎖音化が起こる。そのため、"better"と"water"はアメリカ英語では/t/が有声化してそれぞれ「ベラー」「ワーラー」のようになるのに対し、イギリス英語では声門閉鎖音化して、「ベッア」「ウォッア」のように発音される。
アメリカ英語 | イギリス英語 | |||
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better | 再生link(有声) | 会話 | 再生link(無声) 再生link(声門閉鎖) |
会話 会話 |
little | 再生link(有声) | 会話 | 再生link(無声) | 会話 |
at all | 再生link(有声) | 再生link(無声) |
歯(茎)音/ t, d, s, z, θ, n, l/の後の/j/はアメリカ英語で発音されないことが多い。/j/が発音されない場合、"new"/nju:/や"tune"/tju:n/は[nu:]「ヌー」、[tu:n]「トゥーン」のような発音になる。/j/の脱落は、イギリス英語においても起こるが、/s, z, l, θ/の前のみに限られており、/n, t, d/の後の/j/は発音される。また、イギリス英語では、tuneなどの語の/tj/が破擦音化して[tʃ]と発音されることがあり、その場合、聞こえは「チューン」に近い。
アメリカ英語 | イギリス英語 | |||
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new | 再生link | 会話 | 再生link | 会話 |
tune | 再生link | 再生link |
"ask"に代表されるように、アメリカ英語で前舌の/æ/の母音を持つ一部の語は、イギリス英語においては後舌の長母音/ɑ:/で発音される。このような語を総じて"ask-words"と呼ぶ。これは、無声摩擦音および鼻音/m, n/の前の/æ/が、18世紀以降、イングランドで/ɑ:/に変化したためで、"ask"の他に、"can’t"、 "bath"、"after"、"last"、"chance"、"example"などが例として挙げられる。ただし、"gas"や"mass"は例外で、イギリス英語でも/æ/である。
日本語の母音と英語の/æ/、/ɑ:/を発音する際の舌の位置を比較すると、下の図1のようになる。図1に示されているように、英語の/æ/は、日本語の「ア」より舌の前の部分を下げて発音する母音で、「エ」と「ア」の中間のような響きを持つ。一方、/ɑ:/は舌の後ろの部分を下げて発音する音である。
図1. 日本語の母音と英語の/æ/、/ɑ:/を発音する際の舌の位置
アメリカ英語 | イギリス英語 | |||
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ask | 再生link | 会話 | 再生link | 会話 |
can’t | 再生link | 会話 | 再生link | 会話 |
last | 再生link | 会話 | 再生link | 会話 |
"lot"などの語の母音は、アメリカ英語においては、長母音/ɑ:/で、イギリス英語では短母音/ɒ/である。このふたつの母音を発音する際の舌の構えはほとんど同じであるが、前者は唇を丸めないで発音するため、聞こえは「アー」に近いのに対し、後者は唇を丸めて発音するため、聞こえは「オ」に近い。
アメリカ英語 | イギリス英語 | |||
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lot | 再生link | 会話 | 再生link | 会話 |
“caught”や“talk”などの語の母音は、アメリカ英語においては、長母音/ɑ:/で、イギリス英語では円唇化して/ɔ:/となる。聞こえはアメリカ英語では「アー」に近いのに対し、イギリス英語では「オー」に近い。
アメリカ英語 | イギリス英語 | |||
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caught | 再生link | 再生link | ||
talk | 再生link | 会話 | 再生link | 会話 |
"home"などの語の母音は、アメリカ英語においては/oʊ/で、「オゥ」のように発音されるが、イギリス英語では[ə]から始まり、「エゥ」にちかい発音である。
図2. アメリカ英語/oʊ/とイギリス英語/əʊ/の舌の位置
アメリカ英語 | イギリス英語 | |||
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go | 再生link | 会話 | 再生link | 会話 |
home | 再生link | 会話 | 再生link | 会話 |
"sure"の発音は、アメリカ英語では/ʃʊɚ/と/ʃɚ:/がある。口語では、後者の/ʃɚ:/、つまり「シャー」のように発音されることが多い。イギリス英語においては、音節末の/r/は発音されないため、/ʃʊə/(「シュァ」)と発音されていた。しかし、近年、イングランドでは、/ʊə/の母音が/ɔ:/にとって代わられており、/ʃɔ:/(「ショー」)と発音されることが多い。現在でも、/ʃʊə/と発音されることもあるが、このような発音をするのは年配の人に多い。
アメリカ英語 | イギリス英語 | |||
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sure | 再生link/ʃʊɚ/ 再生link/ʃɚ:/ |
会話 | 再生link/ʃɔ:/ | 会話 |
"hurry"、"current"、"courage"、"worry"などの語のように、綴り字がur、our、wの後のorで、そのあとに弱母音が続くとき、アメリカ英語では/ɚ:/ となるのに対し、イギリス英語では/ʌ/となる。
アメリカ英語 | イギリス英語 | |||
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hurry | 再生link | 会話 | 再生link | |
current | 再生link | 会話 | 再生link | 会話 |
外来語のなかに含まれるaの発音に関しては、2.1の"ask-words"とは逆のような現象が起きており、例えば、"pasta"、"plaza"、"Milan"などの語は、アメリカ英語では後舌の長母音/ɑ:/で、イギリス英語では前舌の/æ/で発音される。
アメリカ英語 | イギリス英語 | |||
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pasta | 再生link | 会話 | 再生link | 会話 |
アメリカ英語とイギリス英語では、発音が異なる語がある。会話モジュールで出てきた例として、 “vase”は、アメリカ英語では/veɪs/ 「ヴェイス」、イギリス英語では/vɑ:z/「ヴァーズ」のように発音される。“tomato”はアメリカ英語では/təmeɪtoʊ/「トゥメイトウ」、あるいは、自然な発話では、2番目の/t/が有声化して「トゥメイロウ」(1.3. /t/の有声化)のように発音されることが多い。これに対し、イギリス英語では/təmɑːtəʊ/ で、「トゥマートウ」のように発音される。
また、“herbal”は、アメリカ英語では/h/は発音されない場合が多く、/ɚːbl/となるのに対し、イギリス英語では/h/は発音され、/həːbl/となる。“schedule”は、アメリカ英語では/skedʒuːl/「スケジュール」となるのに対し、イギリス英語では /ʃedʒuːl/「シェジュール」となる場合が多いが、近年、アメリカ英語のように発音されることもある。
アメリカ英語 | イギリス英語 | |||
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vase | 再生link「ヴェイス」 | 会話 | 再生link「ヴァーズ」 | 会話 |
tomato | 再生link「トゥメイロウ」 | 会話 | 再生link「トゥマートウ」 | 会話 |
herbal | 再生link(hを発音しない) | 会話 | 再生link(hを発音する) | 会話 |
schedule | 再生link「スケジュール」 | 会話 | 再生link「シェジュール」 再生link「スケジュール」 |
会話 |
一部の語について、アメリカ英語とイギリス英語では、単語のアクセントの位置が異なるものがある。例えば、"weekend"は、アメリカ英語では "week-"の部分にアクセントがあるが、イギリス英語では "-end"にアクセントがある。また、"frustrate"は、アメリカ英語では "frus-"にアクセントがあるが、イギリス英語では "-trate"にアクセントがある。
アメリカ英語 | イギリス英語 | |||
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weekend | 再生link | 会話 | 再生link | 会話 |
frustrate | 再生link | 会話 | 再生link | 会話 |
"dictionary"、"secretary"、"stationery"、"territory"、"laboratory"、"ceremony"など、-ary、-ery、-ory、-monyで終わる語は、アメリカ英語では第一アクセントの後の第二アクセントが保たれるが、イギリス英語では消失することが多い。
アメリカ英語 | イギリス英語 | |||
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secretary | 再生link | 再生link | 会話 | |
laboratory | 再生link | 再生link |
Trudgill, Peter & Jean Hannah (2008) International English: A guide to Varieties of Standard English (5th edition), London: Hodder Education.
竹林滋、斎藤弘子(1998) 『英語音声学入門』大修館書店
竹林滋、清水あつ子、斎藤弘子(2013) 『改訂新版 初級音声学』大修館書店
監修:斎藤弘子(東京外国語大学)、関屋康(神田外語大学)、研究協力者:新城真里奈
このページは、神田外語大学グローバル・コミュニケーション研究所研究プロジェクト助成金によるものです。
・アメリカ英語とイギリス英語を聞き比べよう
会話モジュールの後半の20会話(「21. 感謝する」から「40.助言する」)(注)は、すべての英語モジュールで基本的には同じスクリプトを採用しているため、各英語の発音の違いがよくわかる。まず「21.感謝する」のアメリカ英語版とイギリス英語版を聞き比べてみよう。
アメリカ英語とイギリス英語は音色が違うことがわかるだろう。
世界中で話されている多様な英語は、大きく分けて二つに分類される。一つは、carやcartといった語で、母音のあとの/r/を発音するR音性的な(rhoticあるいはr-full)英語である。これに対し、上記の語で/r/を発音しない非R音性的な(non-rhoticあるいはr-less)英語である。アメリカ英語をはじめとして、カナダ英語、スコットランド英語は前者、イギリス英語をはじめとしてオーストラリア英語、ニュージーランド英語は後者に入る。
この発音モジュールでは世界の二大英語とされるアメリカ英語とイギリス英語の発音の違いを解説するが、それぞれの「標準形(standard)」だとみなされている英語変種を対象とする。
・「一般米語」:アメリカ英語の標準発音
アメリカ合衆国は広大であるにもかかわらず、東部方言の発音やいわゆる「南部なまり」を除き、発音の地域差が少ない。ここで取り上げるアメリカ英語は、「一般米語(General American)」と呼ばれ、アメリカ英語の標準発音だとみなされる変種である。歴史的には、一般米語は17世紀にアメリカ東海岸地域に入植したイギリス人達の英語が東部と南部を除くアメリカ全土へと広がっていったことに起源を発する。また、第二次世界大戦以降の全米向けのテレビ放送の普及によって、日常的に一般米語がアメリカ全国で聞かれるようになったため、「放送網英語(Network English)」とも呼ばれることがある。現在、東部と南部を除くアメリカの広範囲にわたって話され、その話者の数は全米人口の3分の2以上に上ると言われている。日本の英語教育の現場では、この「一般米語」が事実上の規範となっている。
・「エスチュアリー英語」:イギリス英語の標準発音
他方、「イギリス英語」は地域差が極めて多く、従来、その標準的な発音とされてきたものは「容認発音(Received Pronunciation (RP) 」と呼ばれてきた。これは、英国放送協会(British Broadcasting Corporation (BBC))のアナウンサーたちの多くが話す英語として認識されてきたため、RPは「BBC英語」とも呼ばれる。しかし、英語モジュールでは、「エスチュアリー英語(Estuary English)」と呼ばれる英語をイギリス英語の標準発音として提示する。なぜなら、RPは上流階級の発音が元となっている社会階層的な英語変種で、その話者の数はイギリスの総人口の数パーセントにも満たないため、イギリス英語の標準発音としては現実味がないからである。これに対し、「エスチュアリー英語」はロンドン以東のテムズ河の河口域から広まり、現在ではロンドンを中心とする広域で話され、RPに近い発音から、社会階層が低い人々が話すコックニーに近い発音までを含む英語として、近年、イギリス英語の代表的な変種としてみなされるようになってきた。
続くページで、「一般米語」と「エスチュアリー英語」の違いを楽しもう。再生をクリックして一つ一つの単語の発音の違いを聞いてみよう。また、会話をクリックして、会話モジュールのアメリカ英語版およびイギリス英語版の会話のなかで実際にどのように聞こえるか、確かめよう。 (再生をクリックしても音声が再生されない場合、linkをクリックしてください。)
(注)東京外国語大学版では、アメリカ英語版の動画は他の英語と異なる並びになっていることに留意されたい。