
2014年、ジョーダン・グルメット(Jordan Grumet)氏はプライマリーケア医として仕事で燃え尽きそうになり、そこから抜け出す方法を探していた。
そして幸運にも、グルメット氏はFIRE運動に出会った。FIREとは「経済的自立と早期リタイア(Financial Independence, Retire Early)」の頭文字を取ったものだ。FIREコミュニティーのメンバーを自称する人々は、貯蓄を増やすためにさまざまな戦略を用いており、そして通常は早期リタイアまたは経済的な自立を最終的な目標としている。
グルメット氏の当時の経済状況はすでに良好だったが、仕事を辞めてリタイアするには十分ではなかったという。しかしFIREについて知ってから、それこそがゴールラインに到達するために必要なものだと気づいたのだという。
グルメット氏はBusiness Insiderへのメールの中で、「FIREを知ったことで私の習慣は大きく変わりました」と語っている。
人生で初めて、支出の追跡と予算管理を始めました。そして自分にとって価値のないことにお金を使うのをやめたのです。
グルメット氏の努力は実を結んだ。4年後の2018年、45歳になった時、医師をリタイアするのに十分な貯蓄が貯まったのだ。しかし、グルメット氏は経済状況を向上させる努力を止めることはなかった。
Business Insiderが確認した書類によると、過去6年間でグルメット氏の主要投資口座の貯蓄は
約200万ドル(約2億9000万円、1ドル=145円換算)から約600万ドル(約8億7000万円)以上にまで増えている。現在51歳でイリノイ州在住のグルメット氏は、忙しくしながら収入も得られる、「目的と喜びに満ちた」副業に時間を割いていると話している。
「リタイアしたというのは、今やっていることはお金のためにやっているのわけではないということです」とグルメット氏。
今やっている活動は、たとえお金を貰えなくても続けると思います。
多くのアメリカ人がリタイアに向けた貯蓄に苦労しているが、FIRE運動は一部の人たちに経済的安定のための青写真を提供している。FIRE支持者の方法や目標はさまざまだが、収入の大半を貯蓄に回したり、副業を始めたり、子どもを持つことなどのお金のかかるライフイベントを遅らせたりする人もいる。FIREは万人向けではないが、専門家によると、FIREの一般原則のいくつか(分散投資ファンドへの一貫した資金配分など)は幅広い層に適用可能だという。
グルメット氏は、ここ数年でどのように貯蓄を増やしてきたかについて、またリタイア生活の主な目標について語ってくれた。
副業とリタイア後の投資で貯蓄を増やすことができる
過去10年間、グルメット氏はさまざまな収入源を通して貯蓄を増やしてきた。医師をリタイアする前の平均年収は約50万ドル(約7250万円)だったという。
リタイア後、グルメット氏はホスピスの副医療ディレクターとして働いてきた。これは副業だと考えていたが、年収は20万ドル(約2900万円)もあったという。その後、ホスピスでの仕事は週に約10時間にまで減らしたが、それでも年間で約7万5000ドル(約1090万円)の収入になる。
さらにホスピスでの仕事に加え、グルメット氏は医療専門家としての仕事、介護施設の医療ディレクター、医療ブログ、各種コンサルティングなどの副業にも挑戦した。
さらに3冊の本を出版し、4冊目も出版予定だという。最初の2冊は自費出版で「儲からなかった」が、3冊目は従来型の出版で、過去2年間で約2万ドル(約290万円)の印税を得られたという。そして最新刊には、経済状況を向上させ有意義な人生を送るためのアドバイスが書かれている。
過去1年間に、グルメット氏はポッドキャストを含むさまざまな副業で約11万ドル(約1595万円)を稼いだという。
副収入は貯蓄を増やすのに役立ったが、その収入の多くを株式市場に投資して大きな投資リターンを得たことで、経済状況を向上させることができたとグルメット氏は語る。また、約100万ドル(約1億4500万円)相当の不動産を売却して追加の投資資金を得たという。
グルメット氏のリタイアの目標は年間支出総額の少なくとも25倍を貯蓄することだったが、彼はすでにそれを達成している。目標を設定した当時の年間平均支出は約17万5000ドル(約2537万円)だったということから、目標貯蓄額はおよそ440万ドル(約6億3800万円)ということになる。
確かに、グルメット氏の貯蓄額は多くの人にとって手の届かないものだろう。Business Insiderは、もっと控えめな目標を持つFIREコミュニティーの他のメンバーにもインタビューした。中には150万ドルから250万ドル(約2億1750万円から約3億6250万円)の貯蓄を目指しているという人もいた。
すべての問題がお金で解決するわけではない
FIREに取り組み始めて以来、積極的に貯蓄することと、人生を楽しむためにある程度のお金を使うこととのバランスを取るのに苦労することもあったとグルメット氏は語る。しかし、ここ数年はそれが容易になってきたという。
「以前よりも、自由にお金を使い始めました」とグルメット氏は語る。
株式市場のことはあまり気にせず、自分の生きたい人生を生きるためのツールとして、お金を使うことに集中するようになりました。
ここ数年で、グルメット氏の年間平均支出額は17万5000ドルからおよそ25万ドル(約3625万円)に増えたという。
グルメット氏は今後も副業を続けていくつもりだ。リタイア生活の主な目標は、「目的と喜びに満ちた」人生を送ることと、経済状況のことをあまり考えないようにすることの2つだという。そうすることで、私生活の満足度や家族との関係を向上させることができるとグルメット氏は考えている。
また、経済的安定がもたらしてくれる自由な時間を使って、人生の他の分野に取り組み続けたいとも思っているそうだ。
「お金の問題はお金で解決できます」とグルメット氏は語る。
しかし、経済的に自立したからといって、人間として生きる上での他の無数の問題が解決するわけではありません。ただ、それらに取り組むための自由な時間が増えただけなのです。