ウクライナ侵攻3日目、首都キーウの抵抗続く 西側の対ロ制裁とウクライナ支援拡大
ロシアによるウクライナ侵攻開始から3日目の26日、首都キーウ(キエフ)への攻撃は続いたが、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は政権を維持し、徹底抗戦を国民に呼びかけると共に、国際社会の支援を要請している。この間、西側諸国は国際決済ネットワーク「SWIFT」からロシアの一部銀行を排除し、ロシア中央銀行の外貨準備を規制するなど金融制裁の強化を決定。さらに、ウクライナへの金融支援と武器供与支援も拡大する方針を示した。
ゼレンスキー大統領は、ウクライナ軍は首都キーウのほか、南部オデーサ(オデッサ)と北東部ハルキウでロシア軍と戦闘を続けていると説明。「占領軍はこの国の中枢を封じ込めようとしたが、私たちはその計画をくじいた」と述べた。
一方でロシア軍はキーウ包囲作戦を進めており、市街地への爆撃も続いた。政府と市当局は住民に、夜間外出禁止と灯火管制を指示。さらに、28日朝まで屋内に留まるよう呼びかけている。
キエフ近郊のヴァシルキウでは、ロシアのロケット砲が石油貯蔵所を攻撃したという複数の情報が相次いでいる。
地元メディアによると、ヴァシルキウ市のナタリア・バラシノヴィッチ市長とウクライナ内務省のアントン・ジェラシェンコ顧問が被弾を確認した。
ソーシャルメディアに投稿された映像では、ターミナルから巨大な炎が上がる様子が見える。ただしBBCは映像の真偽を検証していない。
同日未明にはキーウ南西部で高層の集合住宅の一部が破壊された。近くにはジュリャーヌィ国際空港がある。キーウ南西部には同日未明、ミサイル2発が撃ち込まれたという。爆撃された高層集合住宅では、少なくとも5階分が被害を受けている。当局によると、死者は出ていないもよう。
ウクライナのヴィクトル・リヤシコ保健相によると、これまでに民間人と兵士が計198人死亡した。この中には3人の子供も含まれる。国連によると過去48時間で12万人以上が国外に避難した。
一方でロシアは、自国側に死者が出ているとは認めていない。
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総動員令が発動されているウクライナでは、戦える年齢の男性の出国が禁止された。キーウで取材するBBCのニック・ビーク記者によると、ジーンズとスニーカー姿の男性が、市内各地にバリケードを作り、ロシア軍の襲来に備えている。
トラクターや配送トラックが、敵の侵入を阻止するため、計算された角度で道路に駐車されているという。
東部ドニプロでは公園に女性たちが集まり、火炎びんを手作りしていた。他の都市では、鉄鋼作業員が道路に置くための障害物を溶接して作っているという。縫製工場では、土嚢(どのう)作りが急ピッチで進められているという。
ロシアは抵抗に苦慮=英国防省
英国防省はツイッターで、ロシア軍の「作戦は予定通りに進んでいない」という評価を公表した。「兵站(へいたん)の確保に苦しんでいるほか、ウクライナ側の強い抵抗に遭っている」と述べた。
英国防省はさらに、ロシア軍には死傷者が出ており、複数の兵士が捕虜にとられていると指摘した。
キーウのメディア「キーウ・インディペンデント」によると、26日には6つのロシア政府系ウエブサイトが開かなくなった。ウクライナ情報通信当局の情報として同紙は、ロシア大統領府や通信・情報技術・マスコミ監督庁のウエブサイトが含まれると伝えた。
同紙によると、複数のロシア国営テレビ局が「ハッキングされ、ウクライナの曲を流した」という。
国際ハッカー集団「アノニマス」は25日、ロシア政府に対する「サイバー戦争」を通告。ロシア政府系サイトが開けなくなったのは自分たちの攻撃の結果だと主張しているが、これは確認できていない。
西側は制裁強化
欧州連合(EU)とアメリカ、および同盟諸国は26日(日本時間27日朝)、ロシアの複数銀行を国際決済システム「SWIFT」から切り離すことで合意した。共同声明には、欧州委員会、フランス、ドイツ、イタリア、イギリス、カナダ、アメリカの首脳が署名した。制裁には、ロシア中央銀行の外貨準備に関する規制も含まれる。
共同声明は、「第一に特定のロシア銀行をSWIFT通信システムから排除する。これによって対象の銀行は国際金融システムから切り離され、世界的に活動する能力が損なわれる」とした。
SWIFTとは、国際銀行間の送金や決済に利用される安全なネットワーク等を提供する非営利法人「国際銀行間通信協会(SWIFT、本部・ベルギー)」。国境を越えた速やかな決済や送金、資金の支払いなどを可能にする。世界中の1万1000以上の銀行や金融機関の間で、簡便な取引を支援している。
世界中のほとんどの銀行が使う仕組みだけに、SWIFTから切り離されることはロシア経済に強い制裁効果を与えるとみられる。ただし、ロシアと取引する企業にとっても打撃となる。
ロシアの銀行は、経済の要となっている石油・ガスの輸出取引に、SWIFTを活発に利用している。ロシアによる取引は、SWIFTの世界全体の取引の1.5%を占める。
共同声明はさらに、「第二に、我々の制裁の影響力を損なう形で、ロシア中央銀行が外貨準備を活用できないように、制限的措置を実施する」とした。
共同声明は続けて、「ウクライナでの戦争とロシア政府の加害行動に便宜を図る人々に対抗して行動する」として、「いわゆる『ゴールデンパスポート』と呼ばれる、市民権販売の規模を縮小するための措置をとる。このゴールデンパスポートは、ロシア政府とつながるロシアの富裕層が、我々の国の国民となり、我々の国の金融システムを活用する手段となっている」とした。
「ゴールデンパスポート」あるいは「ゴールデンビザ」は、イギリスなどで、高額の投資と引き換えに外国の富裕層に滞在ビザ(査証)やパスポートをスピード発行する仕組み。
共同声明は、「第四に、我々の管轄内に存在する制裁対象の個人・企業を特定し、その資産を凍結することで、我々の金融制裁の効果的な実施を確実にするため、大西洋をまたぐタスクフォースを来週にも始動する」として、「制裁対象にするロシア政府当局者やロシアの実力者とその家族、および支援者たちへの制裁や強制措置を実施し、我々の管轄内に存在する資産を凍結する」と表明した。各国は、こうした人物が世界各地に隠匿(いんとく)する不法所得の移動を特定・阻止するため、他国政府とも連携していくとした。
フランス海軍は25日夜から26日未明にかけて、欧州連合(EU)による新しい対ロ制裁にもとづき、ロシア・サンクトペテルブルクへ向かって英仏海峡を航行していたロシア船籍の貨物船「バルティック・リーダー」を拿捕(だほ)した。積荷は乗用車の新車だった。EUの対ロ制裁対象になっている企業が所有する貨物船だったことが拿捕の理由。北フランスのブローニュ・シュル・メールまで誘導したという。
米財務省によると、「バルティック・リーダー」の所有企業は、西側の金融制裁対象になっているプロムスビャジバンク(PSB)の子会社。
西側は武器供与を拡大
26日には米国務省が、3億5000万ドル(約400憶円)相当の武器をウクライナに送ると発表した。この中には、対戦車ミサイル「ジャベリン」、防空システム、防護服などが含まれる。
第2次世界大戦の記憶への配慮からこれまで長く武器供与を控えていたドイツも、ウクライナに対戦車グレネードランチャー(てき弾発射機)1000機、地対空ミサイル「スティンガー」500基などを、非常事態のため提供すると発表した。
オランダ政府は、携帯式対戦車てき弾発射機「パンツァーファウスト3」を50機とロケット砲400発の提供を発表した。
ドイツとオランダ両政府は、スロヴァキアで展開中の北大西洋条約機構(NATO)戦闘団に、パトリオット防空システムを合同で派遣しようと検討中だという。
フランス政府も、防衛用の武器や燃料をウクライナに提供する方針という。
NATOはすでに、「あらゆる事態に即応するため」東欧への部隊増派を開始した。
アゼルバイジャンは石油提供
旧ソヴィエト連邦の一部だったアゼルバイジャンの国営石油会社(SOCAR)はBBCに対して、紛争が続く間、ウクライナの消防隊や救急隊に、ガソリンを無料で提供する方針を明らかにした。
ゼレンスキー大統領とアゼルバイジャンのイルハム・アリエフ大統領の間の電話会談を経て、決まったという。
アリエフ大統領はさらに、医薬品や医療器具をウクライナに提供すると約束したという。
アリエフ大統領はロシアの動きを警戒しており、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がウクライナ東部の自称「共和国」の独立を承認した当日、ロシア政府と同盟の合意書に署名している。一方で、同国はロシアを非難するEUやトルコとも近い関係にあり、大統領は難しい立場に立たされている。国内では、プーチン氏との合意や表立ってウクライナ支持を表明しないことが批判されている。
飛行制限
エストニア、ラトヴィア、スロヴェニア、ルーマニア各国は26日、ロシア機の領空通過を禁止すると発表した。
エストニアのカヤ・カラス首相はツイッターで、「侵略国の飛行機が民主国家の空を飛ぶなど認められない」として、他のEU諸国に同様の対応を呼びかけた。
スロヴェニアのヤネス・ヤンシャ首相は、カラス首相のこのツイートを引用し、「スロヴェニアも同じようにする」と書いた。
ラトヴィアのタリス・リンカイツ運輸相もツイッターで、「ラトヴィアはロシア登録の民間機に対して領空を閉鎖する」と書いた。
ロシア登録機はイギリス、ブルガリア、ポーランド、チェコ共和国の領空に入ることもすでに禁止されている。
東欧の大部分を飛行できなくなったロシア機は、大幅な迂回(うかい)を余儀なくされている。
民間機の航路追跡サイト「フライトレーダー24」によると、26日にはモスクワ発ブダペスト行きのアエロフロート機がポーランド上空を避けるルートを飛び、所要時間は通常より75分長くかかった。
一方でロシアは、イギリスの旅客機の領空通過を禁止しているほか、ブルガリア、ポーランド、チェコ共和国に対して、領空通過を禁止した。