カスタマーレビュー

  • 2008年2月17日に日本でレビュー済み
     社会の様々な場面で、大量データに基づく統計解析である「絶対計算」が専門家に勝利しているという内容です。近年の著しい計算機性能の向上、デジタルの社会経済データの入手が容易になったことを背景として、まだ収穫していないブドウから作るワインの品質の予測、防犯装置は社会全体の盗難車を減らすのか、といった多様な問題で、絶対計算の結果は専門家の予測よりも高い的中率を示しているそうです。

     紹介されている絶対計算の手法はシンプルな回帰分析と無作為抽出テストです。単純なモデルでも大量のデータを使用することで、実際に役立つ情報を引き出せるという点には感動しました。金融や法律、医療などアメリカ社会の幅広い場面で実用化された絶対計算が紹介されています。日本ではアメリカほど実証研究の結果が施策やビジネスの意思決定に頻繁に反映されているとは思えません。しかし、日本でも金融工学を用いて金融商品の開発と運用を行うという話は聞くので、将来的には日本でも多くの分野で絶対計算が実用化されていくかもしれません。

     「5.4 人間の出番は残されているのか?(P.169)」は興味深い議論です。専門家と絶対計算の成績を比べると、ほぼ例外なく絶対計算が勝ちます。人間は感情や先入観に左右され、大量の条件に適切な重み付けができないためです。この結果は既存の専門家の地位を著しく低下させますが、モデルの形や取り入れる変数の選択、前提条件の変化の有無を診断することなどは逆に人間にしかできません。統計モデルは前提条件が変わらなければ素晴らしい精度を示しますが、条件の変化、稀な事象は上手く扱うことができません。そういった絶対計算の弱点についても割と誠実に書いてあります。実用化に最も成功した絶対計算の一つである気象予測に触れていない点には不満ですが、社会科学の分野でも予測が可能という本書の内容は興味深いものです。
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