自然災害による保険損害額が、この20年で急増している。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告によれば、人為的な温暖化ガス(GHG)の排出により、過去2000年間に前例のない速度で地球温暖化が進んでいる。中心的な要因が、事業活動で排出されるGHGだ。
その削減を企業に求める動きが、世界中で加速している。RE100(再生可能エネルギー100%)、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)、IFRS(国際財務報告基準)、SBT(科学的根拠に基づく目標)、CDP(カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)などの国際イニチアチブが、多くの企業を巻き込んで脱炭素社会の実現をリードしている。
アスエネ
Co-Founder
取締役COO
岩田 圭弘氏
企業は自身のサステナビリティ情報を収集し、データで開示することが求められている。「非常に強制力が高まっている」とアスエネCo-Founder取締役COOの岩田圭弘氏は話す。従来は任意だったが、最近は開示しないと罰則があるような形に変わってきている。例えば欧州では、「非財務及び多様性情報の開示に関する改正指令(NFRD)」から「企業サステナビリティ報告指令(CSRD)」になり、自主的な開示から法定開示に強化された。米国でも米証券取引委員会(SEC)が上場企業に対して開示を義務化するなど、法的拘束力を持つ基準への移行が進んでいる。
「CSRDにどこまで対応するか、悩む企業が増えています」(岩田氏)。欧州にある企業(日本企業の現地法人を含む)は2024会計年度から段階的に、日本を含むEU域外の企業には2028会計年度から対応が必要になる。違反すれば、調査、罰則、罰金の対象になる。情報開示項目は82項目と多く、第三者保証も求められる。環境だけでなく、ソーシャル、労働力、バリューチェーン、コミュニティ、消費者、ガバナンスなど、環境以外のESGの開示も必要だ。期限が迫る中、多くの企業が対応を急いでいる。
また、ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)の動向には注目する必要がある。2023年6月にサステナビリティ開示基準の概要の最終版が発表された。Scope3排出量、1次/2次データの使用状況、社内炭素価格、気候関連役員報酬などの開示が求められる可能性がある。
CBAM(炭素国境調整メカニズム)も、2026年から本格実施になる。「CBAMの問い合わせも増えています」(岩田氏)。算定範囲はScope1~Scope3となるが、全てのカテゴリが対象ではない。まずはScope1とScope2のデータを集める必要がある。複雑な製品の場合は、Scope3も必要になる。適用対象はセメント、電力、肥料、鉄鋼、アルミ、化学品の6つだ。欧州と取引がある企業は、製造時のGHG排出量を収集できる仕組みを整備しなければならない。
米国のSECはScope3の開示義務化を取り下げ、Scope1、2の排出量の義務付けが進んでいる。カリフォルニア州では、Scope1とScope2が2028年以降、Scope3は2029年以降に開示が必要になる見込みだ。
「国内でも、有価証券報告書のサステナビリティ情報開示が義務付けられました。プライム上場企業だけでなく、有価証券報告書の開示企業においても、サステナビリティの情報開示が求められています」(岩田氏)。基本的はTCFDやISSBのフレームワークに基づく開示になる。
SBT(温暖化ガス排出削減目標)の認定企業は、日本でも徐々に増えている。「最近は、中小企業の認定数も増えています。『中小企業向けSBT』の認定を取得するかどうかも、1つの経営アジェンダになっています」と岩田氏は述べた。
アスエネは、企業のESG情報開示の取り組みを支援する4つのビジネスモデルを展開している。
アスエネが提供している4つのビジネスモデル
中心的な事業は、「アスエネ」だ。CO2排出量の見える化、削減、報告を実現するクラウドサービスで、国内1万社以上がすでに導入している。業種は製造業、建設業、運輸、小売、金融、保険、情報通信など幅広い。
CO2排出量を、表計算ソフトで管理している企業がある。これは非現実的だ。年々、データベースのアップデートが大変になる。CO2排出量は基本的に「活動量×排出原単位」で計算するが、排出原単位が毎年変わるため、アップデートが必要になる。Scope1とScope2だけでも大変なのに、Scope3も関わってくると、膨大な1次データを収集しなければならない。管理が属人的になってしまう課題もある。
「アスエネは、3つの理由で選ばれています」と、岩田氏は話す。
アスエネが選ばれている3つの主な理由
1つ目の特徴は「環境データの一元管理による工数削減」だ。Scope1からScope3、製品CO2、カーボンフットプリント、水廃棄物、指定物質、エネルギーの使用状況などのデータ収集と管理を一元化できる。 2つ目の特徴は「気候変動コンサルタントによる支援」だ。システムだけを提供するベンダーも多いが、アスエネでは世界中の法規制をよく理解したコンサルタントが取り組みをサポートする。3つ目の特徴は「サプライチェーンの脱炭素化の支援」だ。
アスエネは100以上のパートナー企業との協業により、ESGに関するあらゆる課題解決を支援している。「省エネソリューション、太陽光リサイクル、再エネファイナンスなど、お客様によって必要なソリューションが異なります。パートナーとの連携により、ワンストップでサービスを提供しています」(岩田氏)。
業界特有の要求事項がある製造業、自動車業界、建設業、金融業などについては、業界特化型のソリューションを提供している。例えば、製造業ではCFPの算定とBOMを連携させる機能、多数のサプライチェーンから容易に1次データを収集する機能などだ。自動車業界向けには、欧州電池規則に対応するための機能、建設業では建設現場のCO2排出量の算定、金融業ではいわゆる「ファイナンスドエミッション」の計算機能などを提供している。
続いて、アスエネを導入した企業事例について解説した。
ニデックは多数のM&Aを実施しており、組織階層が複雑で常に変化している。40カ国200拠点のCO2と、廃棄物や水などの環境データを一元管理するためにアスエネを活用している。ワークフローに従い、400人以上のユーザーがScope1~Scope3や水と廃棄物のデータを収集、一元管理している。
ロームは、CDPの回答支援を中心にアスエネを利用している。回答にかかる労力、時間、コストを削減するだけでなく、自己採点とスコアリング結果のギャップを解析し、解消する支援をしている。CDPの点数配分や最適基準を理解し、スコアリングを安定させた。アスエネのコンサルティング機能をうまく活用した事例だ。
エムスリーには、脱炭素の活動に多くの担当者を割けないという事情があった。連結子会社が100社以上もあるうえ、欧州のCSRDにも対応したいが、そのノウハウがない。グローバルに広がる拠点で効果的に活用できるかどうか検討したうえで、アスエネを選んだ。
「脱炭素やESGのオペレーション負荷を下げるために、当社のようなシステムやコンサルティングへのニーズが高まっています。すべてを一気通貫で提供できるアスエネをご検討いただければ幸いです」と述べ、岩田氏は講演を終えた。