酒はひとを結び、まちを元気にする。酒場案内人の塩見なゆさんが、酒をテーマににぎわう各地のまちを訪ねます。今回は「青森県八戸市」。JR八戸線の陸奥湊(むつみなと)駅では、駅舎の一部を「酒場」にするというユニークなチャレンジに挑んでいます。その様子を紹介します(記事内容は2023年3月時点)。

 モータリゼーションの進展や人口減少などにより、地方の鉄道の利用者が減っています。さらにコロナ禍で拍車がかかり、減便や駅の無人化、そして廃線に至るケースも多発しています。鉄道の衰退は歴史あるまちの衰退に直結し得ることから、各地で鉄道の活性化に向けたさまざまな取り組みが行われています。

 東京から東北新幹線で3時間ほどの八戸は、青森県で第2の人口規模を誇ります。古くから港町として栄えてきました。八戸港を中心とした八戸臨海工業地帯とともに、八戸の重要な産業として位置づけられているのは漁業です。かつては日本一の水揚げ量を誇った八戸港ですが、水揚げ量が多かったサバやイワシ、そして長年水揚げ量が日本一だったイカまでも低迷が続き、水揚げ金額としてはピークだった1982年の10分の1程度まで減少しています。

 八戸港で水揚げされる水産物や資材を大量かつ効率的に消費地へ輸送する必要があったことから、1894年、JR東北本線の八戸駅から八戸港(湊駅。現在は廃駅)まで鉄道(現在のJR八戸線の一部)が開通しました。明治期には、鉄道を敷設するほどの大きな港だったという証しです。

 こうして開通した八戸線は、水産物の輸送や、八戸と三陸海岸方面を結ぶ人々の足として1世紀以上活躍してきました。ただ全国のローカル線と同じように、利用者の減少が続いています。

 八戸港の玄関口であるJR八戸線の陸奥湊(むつみなと)駅は、駅長がいる比較的大きな駅でした。「みどりの窓口」や観光案内所、構内売店もありました。しかし前述のように八戸港の漁獲量の減少、過疎化やモータリゼーションによる鉄道利用者減が重なり、さらにコロナ禍が決定打となり、2021年3月に無人駅となってしまいました。JR東日本のホームページに掲載されている1日の乗車人数(降車客は含まず)は126人(2019年)と、有人駅の中では非常に厳しい利用状況だったようです。

陸奥湊駅に着いた八戸線の列車(写真:塩見なゆ)
陸奥湊駅に着いた八戸線の列車(写真:塩見なゆ)
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 八戸駅で新幹線から乗り換えた私は、首都圏でも走っているような真新しい車両を使用したワンマン・2両編成の列車に乗車しました。乗車時間は約15分。陸奥湊駅で降りて改札を抜けると、そこは静まりかえった待合室があるだけ。かつてみどりの窓口があった場所は閉鎖され、お手洗いも取材時は閉鎖中でした。