■日本の教育水準と問題点
そもそも日本の教育水準は世界的にみて高いのか? 低いのか?
「国際比較調査において、日本の学生の学力は総じて高水準にあります」(半村さん)
日本は諸外国と比べ、幅広い経験ができる教育体制が整っているという。
「全国の小中学校に楽器や運動器具、プールがそろい、多くの学校で部活動が行われていることは世界的にまれなことです。くわえて、母国語である日本語での教育体制が整い、大学で扱うような内容の日本語書籍までそろっていることも世界では珍しいです」(半村さん)
しかし、「今後の情勢を考えると少し心配な点もある」と半村さん。
「日本の義務教育はさまざまな経験を積めるよう配慮されているため、教員の負担が重く、それが教員不足の大きな原因になっています。さらに、高等教育の中でも最先端の部分には多額の経費がかかりますが、その予算がなかなか配分されない傾向が強まっているのです」(半村さん)
人材や資金の確保など、根本的な問題が目立つようになってきたのだ。教育水準の維持に影響しそうだ。
■オンライン授業のメリット
教育水準が高い日本でも、さまざまな要因により学校へ通えない子どもが増えている。そのような場合、オンライン授業は有効なのか。
「オンライン授業には多くのメリットがあります。わかりやすい例では、『通学時間が削減できる』、『海外を含め、対面では会えない地域の人達と交流できる』などが挙げられますが、その他にも多くの利点があります」(半村さん)
個々の子どもが抱える問題や個性に寄り添えることも魅力のひとつだ。
「たとえば、聴覚が過敏で大きな音が苦手な人には、音量が調節できるというメリットがあります。心身の状況が優れない人にとっては体力の消耗を抑えることができ、他人の目に敏感な人にとっては緊張を和らげることができます」(半村さん)
オンライン授業の恩恵は、若年層だけではなく幅広い世代が受けられる。
「入院中の人や外出が難しい高齢者にとっても、病院や家にいながら学ぶ機会を得られることは大きな助けになります。誰でも安心して教育を受けられる環境を作るという点で、オンライン授業には非常に大きな意義があります」(半村さん)
今後は、自動翻訳技術や音声認識技術の発展に伴い、国をまたいだオンライン教育もどんどん発展していく見込みとか。より一層、幅広い学びや経験が得られることが期待できる。
■「学校に行かない」選択肢はアリ?
では、「学校に行かない」という選択肢はアリなのか。
「『学習する』、『行事を体験する』、『異年齢の人達と交流する』、『スポーツや音楽に触れる』といったことが、学校が持つ主な機能です。学校以外の場でそのような経験を積めれば、『学校に行かない』という選択肢も現実的でしょう」(半村さん)
実際、近年は学校以外でさまざまな経験を積める場が増え、「学校に行かない」という選択肢が受容されやすくなってきたそう。「だからといって……」と半村さんは続ける。
「1日も学校に行かないというのは極端な形であり、多くの人がリスクを感じるかもしれません。これからは、『ある時期は学校に通うが、通学が難しいと感じたらオンライン教育を受ける』、『学校が合わなければ他の学校に移る』というように、状況に応じて環境を使い分ける形が普及していくと思います」(半村さん)
「毎日学校に行くこと」よりも、「必要な学びを得て、多様な経験を得られるようにする」ということに重きをおく考え方が広がっていくと、子ども達は “従来の常識”から少し解放されるのかもしれない。広がった教育の選択肢をうまく活用し、子ども達の可能性を最大限に伸ばせる世の中になるとよいだろう。
●プロフィール:半村 進(キズキ共育塾)
東京大学文学部在学中にひきこもりを経験し10年かけて卒業。30歳で、不登校やひきこもり、発達障害等の方に完全個別指導を行う「キズキ共育塾」にて初アルバイト。その後正社員として講師や運営スタッフを経て、現在は問い合わせ担当。年間約1万件の相談に応じる。キズキビジネスカレッジやキズキ家学も好評。
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