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「泣いちゃうよ…」負けた西山朋佳が美しい気配り、“勝っても何もない”26歳試験官は新手を「ホッとしましたが明後日も…」観戦棋士が感涙のワケ

posted2025/02/01 06:01

 
「泣いちゃうよ…」負けた西山朋佳が美しい気配り、“勝っても何もない”26歳試験官は新手を「ホッとしましたが明後日も…」観戦棋士が感涙のワケ<Number Web> photograph by Keiji Ishikawa

西山朋佳と柵木幹太の棋士編入試験第5局は公式戦ではなかった。しかしその熱量はタイトル戦にも勝るとも劣らないものだった

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勝又清和

勝又清和Kiyokazu Katsumata

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Keiji Ishikawa

西山朋佳女流三冠(29歳)が挑んだ棋士編入試験第5局。柵木(ませぎ)幹太四段ら棋士が繰り広げたドラマを、現場を訪れた「教授」こと勝又清和七段が舞台裏を記す。〈NumberWebノンフィクション/全2回の2回目。棋士の肩書は基本、初出以外は省略〉

玉頭攻めで西山エリアが完成したなあ

 1月22日の棋士編入試験第5局、西山朋佳女流三冠は――この日の立会人を務めた畠山鎮八段いわく「この日のために準備していた」柵木幹太四段相手に、飛車と銀が使えず苦しい状況だった。しかし交換した桂を、自陣に銀取りに打ったのが好手となる。

 銀を追い払い、△8五歩と突いて銀冠の急所を攻める。玉と玉が向かい合う、居飛車対振り飛車の対抗形ならではの玉頭戦だ。そしてタイミングをずらした端歩突き、垂れ歩など、あの手この手で食いついていく。

 福崎が「上手い戦術ですね。人間同士の戦いやからわからんよね」と西山の勝負術に感心する。終盤になり、専務理事の脇謙二九段も棋士室にやってきた。

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「西山さんは中終盤の将棋やから。玉頭攻めで西山エリアが完成したなあ」

 西山の攻めに感心し、そしてやはり昔話を披露してくれる。

「西山さんは中学2年のとき研修会に入会したんだけど、すごく強くてね。棋士との飛車落ちでも負けないんだよ」

「それはすごいですね」

 研修会で指導する棋士は歩合制、勝つと対局料が上乗せされる。これは棋士に真剣勝負をしろということだ。そうなると飛車落ちと言えど、下手で棋士に勝てる研修会員はほとんどいない。

「3カ月ぐらいで研修会を抜けて、奨励会に編入したんだけど、当時からハンマーを振り回していたね(笑)」

 畠山も「そうそう、最初は荒っぽかったけどだんだんと洗練されてきて……」と笑う。

西山さんのハンマーが当たりそうやねえ

 脇は自らの対局でも西山と縁があった。

【次ページ】 気づけば全員、将棋そのものに夢中になっていた

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