ワコムは9月26日、公式YouTubeチャンネルにて「ワコムオンラインセミナー【小説を漫画化!連載作家に色々聞いてみよう!】秋月壱葉先生のマンガの描き方講座【液タブ】」を開催。秋月先生が、マンガの作り方について解説しました。

  • ワコムが公式YouTubeチャンネルで無料の「秋月壱葉先生のマンガの描き方講座」を開催

マンガが出来るまで

ゲスト講師の秋月壱葉先生は、現在、月刊アクションにて『京都寺町三条のホームズ』コミカライズを連載中の人気マンガ家。オリジナル作品には『囚獄のヴァニタス』などがあります。

  • 秋月壱葉先生のプロフィール

普段から機材は「Wacom Cintiq Pro 16」を使い、「CLIP STUDIO PAINT」で描いているとのこと。この日の配信では秋月先生は声のみの出演でしたが、画面右下のワイプには手元の様子が映し出され、どのようなタッチで絵を描いているのか確認できました。

  • 使用機材はWacom Cintiq Pro 16×CLIP STUDIO PAINTの組み合わせ

ここから本題。小説を原作にしたコミカライズ作品の場合、どのような流れで制作されていくものなのでしょうか。秋月先生は、まずはマンガが出来るまでのフローについておさらいします。

「原作となるミステリ小説シリーズ『京都寺町三条のホームズ』は、望月麻衣先生による連続小説です。そこで、まずは原作を読み込んでから『どこのエピソードを拾ってマンガに落とし込むか』編集者と打ち合わせします。ネームを描いたら編集チェックがあり、修正。そのあとで、原作者の先生にチェックしてもらいます。Goが出たら下書きして、ペン入れ、仕上げ作業まで行います」。

  • 原作を読み込み、編集者と打ち合わせしたあとで、ミニネーム28ページを描いたところ

ここで秋月先生は、小説をそのままマンガにしていったらページに収まり切らなくなる、とあらためて説明します。

そこで話を削るわけですが、この作業が非常に難しいそう。ちょっとずつ色んなところを削っていくと、作品の良さを台無しにしかねません。

また小説として『文字で読むから面白いシーン』も、マンガにしたときに面白いとは限らないので、なんとも悩ましいところ。「いかに絵で魅せられるか。映えるようなシーンを選んでいくのも大事」と話します。

もちろん場合によっては、大きくカットする勇気も必要なようです。それでも小説1冊分の分量はコミックスで2巻になる、と説明します。「このあたりは原作者、編集者、出版社によっても変わってくると思います。今回は、望月先生から『好きなようにやってください』と言われているので、『ここを描きたいです』などと伝えながら作業しています」。

  • いかに情報をまとめるか。メインの登場人物2人の関係性が進むシーンを大事にしている、とも話します

秋月先生は、コミカライズについて「小説のなかから要素を拾って、マンガとして再構築する作業」とも表現します。

「人によってやり方も違うと思いますが、私の場合は小説をそのまま起こさないようにしています。原作を手にしたとき”マンガにしたらどうなるか”を頭の中で変換しながら読むのが常です」

小説では、キャラクターが場所をあちこち頻繁に移動しても違和感はありません。でもマンガでは登場人物が「何処」にいるか、その都度、読者に伝える必要があります。そこで「同じ場所で済むエピソードであれば、まとめてしまいます」と秋月先生。場合によっては回想シーンを駆使して話を組み直す、あとから関連した話題が出るのであれば前に出しておく、といったテクニックも使うそう。

また原作にはない、別のエピソードを差し込むこともある、と話します。「マンガは1話が30ページほどで終わります。では、どこで読者の引きをつくるか。どうしても話の途中でヤマ場が欲しくなることもあるんです。そんなときは、過去に取りこぼしていた小話、出せなかった設定を『ここで出せる』と思ったタイミングで入れることも。まさにコミカライズの醍醐味ですが、やはり原作者との打ち合わせ(すり合わせ)が大事ですね」。

たとえば原作では、キャラクターたちが京都を出て天橋立に寄ったあと、城崎温泉でちょっとした事件が起こります。小説からはドライブを楽しんでいる様子がうかがえますが、同じことをマンガでやると場所の紹介で終わってしまう可能性がありました。

このため、天橋立のシーンはカット。後半の“ちょっとした事件”のほうを膨らませた、と明かします。

「小説では出てこない若旦那を登場させて話を盛り上げました(笑)。望月先生には言わずにネームを描き、あとから見てもらったら『あ、良いと思います。こんな風になるとは』と驚いてくださいました」と嬉しそうに振り返ります。視聴者からは「コミカライズって、思ったより自由度が高いんですね」「勉強になります」といった反応がみられました。

  • クリスタでは3D素材も活用

どうやって描いていくの?

配信では、原作者のOKが出たあと以降の原稿についても披露してくれました。ペン入れのときに混乱しないよう、キャラクターは色を分けて描いているとのこと。見れば、すでに相当なクオリティです。

  • ネームの状態(左)と下書き(右)

生活のリズムをしっかりすることを心がけている、と秋月先生。朝9時くらいから机に向かい始めて、夜は19時くらいまで仕事をしているそうです。

「毎日の作業量ですが、下書きなら1日6枚が目安、ペン入れなら1日で10枚くらい。ざっくりとスケジュールを切って、最終的にこの辺で上がるかな、という目安をつけます。1話にほぼ1か月かかりますが、締め切り前には仕上げておきたい。ギリギリになって精神的に追い詰められたくないので、無理なスケジュールは組みません。『たぶん頑張ればいける』はきっと頑張れない。いかに描ける環境を維持していけるか、だと思っています」

  • 「トーンは絵を補強するもので、奇をてらったことはしません。不安になると貼りたくなりますが、貼りすぎない」。下のコマは敢えて背景を白で残すことで、ハッという気付きの表情を強調

作業の様子も公開しました。線に強弱をつけられる「カサG 細」のペンで顎のライン、首筋、手元などを描いていきます。髪の毛は「丸ペン」。集中して描きたい「目」は最後に残しておく、と話します。

また冒頭から1コマずつ描いていくわけではなく、全ページにまたがってパーツごとに描いていくやり方が特徴的。これについては「ペンを持ち換える手間を減らす、という意味もあります。あとは先ほども話しましたが、1日10ページほどペン入れをするので、全ページを少しずつ進めていかないと、最初と最後のページでクオリティに差がついてしまうんですよね」。

このほか、1ページ目から順番にやっていくデメリットについては、疲れたけどあと1ページなんてときにドーンと最後の白紙のページが立ちはだかって辛い思いをする、とも話していました。

  • 目は「丸ペン」で描くことが多いそう。クリスタはブラシがたくさんあるので、色いろ試していると話します

視聴者からは、マンガの描き方はどこで勉強しましたか、という問いかけが。

「初歩的なことは、本で勉強しました。でも、あまりネームについて書いているような本はなかったので、実践練習するしかなかったんです。編集さんに『コマが多すぎる』『読みづらい』などとダメ出しされながら学んでいきました。

あとは、好きな作品を読み込むこと。どんなテンポで話が進んでいくか参考になります。『好きな作品』もそうですが『好きなコマ割りの作品』ってあるんですよね。このコマ割りがすごい、私にはできないなぁ、なんて感心したりして。ストーリーの流れが自分にしっくり合う作品を読み込んでいくと良いと思います」。

登場人物のキャラの付け方については、「今回の原作には、外見について細かい描写はありません。でも外見を固めないとマンガは描けないので、見た目、喋り方、性格など、芸能紙や雑誌などを見て想像をふくらませました。ただ逆にマンガ化することで、ビジュアルを固定化してしまう責任も感じています。小説では見えなかった表情がキャラクターから出てくると嬉しいですね」。

小説の舞台となるのは京都周辺。話の展開で登場する場所には実際に取材で訪れて、写真を撮り、雰囲気をつかんでいると話していました。

視聴者の質問にも適宜回答しながら、セミナーは予定された1時間半をたっぷり使って無事終了。コメント欄は「とても勉強になりました」といった感謝の言葉であふれていました。なおセミナーの様子は現在、アーカイブでも視聴できるようになっています。