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14:王都、乱戦

 シエラが放ったのはファイアーボール。迫った火球を切り払ってシエラに近づこうとすると、既にシエラが無数に放っていたファイアーボールが追加で迫ってきていた。

 それでも前に進むことは止めない。次々と火球を切り捨てながらシエラとの距離を詰めようとする。


 けれど、シエラも後ろに下がる。そしてそのまま屋上の縁に足をかけて、そのまま飛び降りた。

 風の魔法で補助しながら街の方へと降りていくシエラを追いかけて私も勢い良く飛び降りる。


 ――〝刀技:鎌鼬〟

 ――〝エアカッター〟


 空中で大きく一回転するように刀を振るって風の刃を飛ばす。それをシエラも同じように風の刃を放って相殺する。

 シエラが先に着地すると小さなざわめきが聞こえていた。夜であっても目が覚めていた人たちが気配に気付いて外を見たのだろう。


 するとシエラは両手を大地に叩き付けるようにつけた。すると、土から滲み出るような闇が広がっていく。

 夜の闇よりも淀んだような黒い闇から蠢くようにして何かが這い上がってくる。それはゴースト、人の恨みや憎しみといった残留思念を核に生み出されるという魔物だった。


「シエラァッ!」


 思わず私はシエラの名を叫ぶ。次々と這い出てくるゴーストは私へと一斉に向かってくる。空中で身を捻るようにしてゴーストを切り払う。

 着地して、すぐさまシエラへと向かおうとするも無数のゴーストが私の足を止めようとするように迫ってくる。


「きゃーっ!?」

「う、うわぁーッ! 魔物だ、魔物が出たぞーッ!」

「逃げろぉーッ!」


 無数に湧き出たゴーストを見て、王都の住人の悲鳴が響き渡った。錯乱した悲鳴は眠っていた者たちにも伝わり、次々と恐怖と混乱が伝播していく。

 シエラはそんな声に気にせずに次々とゴーストを呼び出している。その中には大きな巨体や、鳥や狼といった獣の姿のものまで混ざり始めている。

 魔物をこうして使役出来るなんて、本当に魔族になってしまったんだと実感してしまう。それでも私のやる事は変わらないけれど。


「はぁ――ッ!」


 迫ってきたゴーストを一太刀で両断し、彼等を構成している魔力を剥ぎ取って己の力へと変えていく。魔力によって形成された彼等はある種、魔法に近しい存在とも言えるのかもしれない。

 だから、ただ斬り伏せるだけで彼等の原動力たる魔力を奪うことが出来る。それは私の力になるけれど、しかし数が多くて一向に先に進めやしない。


 すると空気に違和感を覚えた。夜の冷たさに凍えてしまいそうだった筈が、いつの間にかひりつくような熱を感じ取っている。

 遅れて、眩い光が天に輝いた。地面から天へ、立ち上がりながら手を伸ばしたシエラの頭上に小さな太陽とも言わんばかりの炎の球が渦巻いていた。


「私はもう躊躇えないんですよ。それでも救うって言えるんですか、貴方は――ッ!」


 ――〝メテオフレア〟


 炎、土、風の三乗。まるで隕石のようだ。あの魔法が着弾すれば破壊の渦が巻き起こされるだろう。この王都の中心で。

 シエラを止めようにもゴーストで阻まれていて間に合いそうにない。そのための魔物の召喚だった。ただ、私を足止めして王都を焼き払うために。


 なら魔法そのものをどうにかするしかない。その為には私に群がろうとしているゴーストの群れが邪魔だ。

 短く息を吐き出す。手から刀へ、伝播させるように魔力を通していく。


「燃えて、落ちて、爆ぜてぇ――ッ!」


 シエラの絶叫と共に炎の隕石が地に向かって迫っていく。

 私の行く手を阻もうと無数のゴーストたちが手を、牙を、爪を振るう。



「――〝祓い給い、清め給え、神ながら守り給い、幸え給え〟」



 だけど、何一つ私に届くことはない。

 独楽のように勢い良く一回転しながら振り払った一閃で亡者を祓い、退ける。

 そのまま地に落ちようとした炎の隕石へと上段に構えた刀を振り下ろした。



 ――〝神技:万物流転〟



 全てを鎮め、祓い斬る。王都に災禍をもたらそうとした炎の塊は散っていくように消え去った。

 白い陽光にも似た光。それを纏った天照の一撃で魔法は霧散させることが出来た。ただ、力任せに消し飛ばしたから吸収が叶わなかった。


 悔しいのはそれだけじゃない。魔法を祓ったからこそわかることがあった。

 シエラは本気でこの王都を破壊しようとしていた。そこに躊躇いなんてものはない。彼女は彼女自身の意志でこの街を、ラトナラジュ王国を滅ぼすつもりだ。


「それぐらいやってのけるって、予想してましたよ」


 そしてシエラは止まらない。以前はシエラは天照の光に怯えていた。今は忌まわしげに睨み付けながらも闘争心は失っていないようだった。

 そんなシエラの背後には無数のゴーストが控えていた。先程よりも数を増している。……あぁ、本当に嫌になるね。


「そのゴースト、もしかして無限に湧いてくるの?」

「怨念か、魔力が尽きない限りは?」

「……後者はともかく、前者は聞きたくなかったなぁ」


 その怨念ってどこが出所なんだろうな、って思うだけで気が滅入りそうになる。


「この子たちも言ってますよ。許せないって、殺しても殺しても足りないって」

「気持ちはわかるよ。私だって頭に来てるしね」

「それでも邪魔するんですか?」

「シエラにこれ以上、どうでもいい命を背負って欲しくないからね」

「……どうでもいいって、そう言えたらどれだけ楽だったんでしょうね……」

「遅くないよ。今からだって言えば良い。そんなの下らないって」

「遅いですよ。もう始めてしまったんだから、終わらせないと……!」

「それには同意だ。その終わりが、どっちの望む終わりなのかってだけでね……!」


 シエラは私の言葉に苦痛に堪えるように顔を歪めた。それから一度、首を左右に振って何かを振り払ってから私を睨む。


「貴方を話してると揺らぎそうになる……だから私だってもっと堕ちないと。貴方の手が届かない所まで……!」


 シエラがそう宣言すると、彼女の背後にいたゴーストたちが四方八方に散り始めた。そのゴーストたちが向かった先には逃げ惑う王都の人たちがいる。


「ッ! シエラァッ!!」

「どうしますか? 見捨てますか? 助けますか? どっちでも良いんですよ……!」


 なんていやらしい真似を……! このまま王都の人を見捨てたら後で尾を引く問題になる。かといってシエラをどうにかしないことには亡霊の群れの出現は止められないだろう。

 私の願いを叶えようとするとなら一番取られたくない手段、シエラがもっと罪を重ねようとするを躊躇いなく実行してくるのに舌打ちをしてしまう。


「――あぁ、もうっ!」


 私は地を蹴った。向かった先はシエラ――ではなく、シエラが亡霊を差し向けた先だ。足が竦んで倒れ込んでしまった人に手を伸ばす亡霊を切り払う。


「ひぃ――ッ!」

「バラバラに逃げないで! 纏まって、じゃないと守れない!」

「逃げるなって……アンタ一人で何が出来るって言うんだ!」


 恐怖に引き攣った顔を浮かべているのは身なりの良い男性だ。だが、どこか薄着で肌が少し開けていた。

 あと僅かに女物の香水の香りがして、その意味を悟ってしまって思わず憂鬱な気分にさせられる。彼にとってはついさっきまで日常だったのだから仕方ないのだろうけど!


「あぁ、こっちに来る! 魔物が来る!」

「なんで王都に魔物が出るんだ!」

「警備は何をやってるんだよぉっ!」

「助けて、助けてぇ――!」

「何やってるんだ、そんな奴を助けてないで俺を助けろ!」


 一気に状況が混迷していき、身勝手な人の叫びが聞こえて来る。泣き叫ぶ者、怒声を撒き散らす者、逃げ惑う者。その誰に対しても亡霊たちは無差別に害意を向ける。

 そんな人々をシエラは冷徹な目で見つめていた。所詮はこんなものだと、何も期待していなかったと言いたげに。


(ダメだ、間に合わない……! こんなにバラバラに散られたら守り切れない。せめて指示に従って纏まってくれれば方法もあったのに……!)


 犠牲を出ることを覚悟しなきゃいけないのかと、そう思った時だった。

 一陣の風が私の横を過ぎ去っていった。そのまま突き進む風は、王都の民に迫っていた亡霊を薙ぎ倒していく。

 その旋風を巻き起こした何者が足を止めたことで、それが誰なのか私は把握出来た。



「――静まれ! 勝手に動けば死ぬぞ! 指示に従わん者は守れん、命惜しければ俺の声を聞けッ!」

「ベリアス殿下!」



 その手にザンバーを構えて、ベリアス殿下は民と亡霊の間に立ち塞がった。

 

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