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聖人君子

「これを村と呼んで良いのか」


「陛下、大変申し訳ありませんが、この村は王都の防衛力を既に超えているやも……いえ、何でもありません」


「馬鹿者。こんなところで何を口走るつもりだ。だが、一度我が国の設計士をこの村に派遣し、学ばせなければならんな……わずか、八歳の子供を師と仰ぎ、だが」


 そんな会話を終えて、見学者たちは静かに見学を再開した。


 一方、全てを見せると約束したヴァン君は、貴族にあるまじき働きぶりで城壁造りを始める。


「はーい、紐引っぱってー! 真っ直ぐ? 角度は?」


「少しだけ右に」


「右ー! 右だよー! はーい、ばっちりー!」


 男爵というよりも現場監督として作業を指揮し、城壁を作る準備を整える。


「線は引けた? よし、皆離れてー! はい、エスパーダ」


「承知しました」


 僕の合図に、エスパーダは魔術を発動し、土の壁を作り上げた。高さ十メートル、幅五メートルほどだろうか。エスパーダも何かコツを掴んだのだろう。以前より城壁にしやすい形となっている。


 僕はその土の壁に手を触れ、性質を変化させる。出来たら岩や鉱石を足してほしいが、今は即席のもので良いだろう。後から補強すれば問題ない。


「さて、あまり待たせても悪いですからね。城壁はまた今度にして、次は何をお見せしましょうか」


 僕はそう言って、背後を振り返った。


 すると、またも硬直する見学者達の姿があった。驚きを通り越して呆れたような顔をするディーノ王が、目元を指で摘むようにし、頭を左右に振る。


「……流石にもう驚き疲れたな。少し休ませてもらおう。何処か、休息する場所はないか」


「では、そこの東屋でどうですか。水辺は気持ち良いですよ」


「頼む」


 ディーノ王達が東屋に移動し、村人達が椅子を用意した。その様子を見て、アプカルル達が顔を見合わせてからこちらに来る。


「他の地の族長か?」


 そう聞かれて、僕は苦笑しつつ訂正する。


「うーん……色んな族長をまとめる大族長みたいな感じだね。百人とか、二百人の族長の上にいる凄い族長みたいな感じ」


 そう答えると、ラダヴェスタの顔が強張った。


「なんと……それは、最大限の敬意を表さねばならない。我らは一族を率いる者に敬意を払う」


 ラダヴェスタはそう言って水辺を進み、ディーノ王の近くに移動した。果実を絞って濾した飲み物を口にしている王を見て、口を開く。


「大族長よ。私はラダ族の族長、ラダヴェスタ」


「む。我はこの王国の王、ディーノ・エン・ツォーラ・ベルリネートである……私にとって、今日は記念すべき日となろう。ラダヴェスタ殿と初めて言葉を交わした日として。出来ることならば、初めて友好を深めた日としたいが、どうか?」


「異議はない。宜しく頼む」


 ラダヴェスタは国王の驚くほど相手を尊重した挨拶に対して、鷹揚に頷いて答えた。これではどちらが立場が上か分からない。


 いや、アプカルルと人間だからどちらが上なんて無いのか。


「ラダヴェスタさん。何かお土産になりそうな面白い物無いかな?」


 横からそう口を出すと、ラダヴェスタは顎に手を当てて俯き、すぐに顔を上げる。


「ならば、我らにとっても稀少な石を渡そう」


 ラダヴェスタはそう言って何処からか拳大ほどもある大きな塊を二つ取り出した。そして、湖の縁に無造作に並べる。


 塊は鈍い金色。いや、金に赤みがかったような不思議な光沢を放つ鉱石だった。


 面白いなどと思いながら鉱石の一つを手にして眺めていると、物凄く驚いた感じの国王達が声を上げた。


「こ、これは……!」


「オリハルコン!?」


 その言葉に、僕も驚いて改めて鉱石を見直す。


 オリハルコン。神の金属とも称される幻の金属だ。魔力の伝導率はミスリルの方が上だが、純粋な硬度や弾性、引張強さといった金属としての性能は遥かに上らしい。


 そして、魔力の伝導度が低いためか、魔術による攻撃に対する耐性も高い。オリハルコンの盾を持った戦士は、全ての魔術による攻撃を防ぎ、たった一人で一軍を斬り裂いた、などという逸話まである。


 その伝説の金属の材料たる鉱石が、この手の中にある。


「オリハルコン……これは凄い」


 僕が小さくそう呟いていると、ディーノ王達は鉱石を手に会議に入った。


「オリハルコン……まさか、こんな稀少な物に出会うとはな」


「しかし、オリハルコンの加工を行えるのはドワーフの国のみ。我が国はあまり交流がありませんな」


「フォルクス連合国に使者を送るか。さすれば依頼くらいはできるだろう。ドワーフは天性の鍛冶屋だ。オリハルコンの鉱石があると知れば、確実に依頼を受けるに違いない」


「とはいえ、このオリハルコンを刀身に使って剣を作れば、白金貨百枚では足りない費用が掛かりますぞ」


「その程度の支出を気にしてどうする。間違いなく国宝となるのだ。むしろ、金に糸目はつけぬ」


 白熱する議論を耳にしながら、僕は魔力をオリハルコンに込めてみた。


 魔力を通さない性質のせいか、かなり力を使う。念じても念じてもジワジワとしか変化しない。


 木や石、鉄、ミスリルなどもそうだが、比較的思い通りに加工することが出来たのに、オリハルコンはかなり難しい。


 む。一度引き延ばすようにして薄くしてしまえば少し楽な気がする。


 オリハルコンの鉱石を広げて伸ばし、不純物を取り除く。すると、鉱石だったオリハルコンが輝くような美しい金属になった。


 綺麗で良いのだが、不純物が無くなったせいか加工が更に難しくなった気がする。


「むむむむ」


 僕は更に多量の魔力を加えて、オリハルコンを加工した。


 量が足りないため、作るならナイフだろうか。いや、刀身を作って槍も面白いか。まぁ、一先ず作ってみて考えよう。


 そんなことを考えながら、長さ六十センチ、幅十センチ程度の刀身を作り上げる。ちょっとグラマラスに真ん中にくびれを作ってみた。さらに、根元から刀身の半ばまで模様を描いてみる。中心には漢字で夜玖剣(やきゅうけん)と刻印した。遊び心だ。


「そ、それは……!?」


 出来た剣を見て一人でにやにやしていると、後ろから驚く声がした。


 あ、さっきドワーフの国がどうとか言ってたっけ。


「……何か?」


 剣を背中に隠して首を傾げたが、誤魔化せなかった。


「今、オリハルコン鉱で剣を作ったように見受けられましたが?」


「ヴァン男爵。我に嘘は吐かぬと申したではないか」


 アペルタ、ディーノ王が血走った眼差しと共にこちらに迫ってくる。


「剣を作れるのだな?」


「今のオリハルコンの鉱石から作ったのでしょう?」


「ちょっと何言ってるのか分かんないですね」


 面倒ごとに巻き込まれたくない思いから、無意識に誤魔化そうとしてしまった。


 すると、ディーノ王がしかめっ面で口を開く。


「……要望があれば聞こう。貴殿が素直になるだけの額も支払うと約束するぞ」


 と、幸運にも国王から最も聞きたい言葉が出た。


 それには頑固なヴァン君も素直にならざるをえない。


「それなら、僕にこの村の永住権を下さい。何があっても、別の地に行けなどとは言わないと約束を……お願いします」


 そう口にすると、ディーノ王とアペルタだけでなく、周りの人も目を瞬かせた。


「……何故だ? 貴殿が王都に来れば、爵位に関係なく様々な点で優遇すると約束するぞ」


 ディーノ王が眉根を寄せてそう言った。


 危ないところだった。危うく王都に呼ばれて扱き使われるところである。僕はこの地を住みやすくして悠々自適に暮らすのだ。


 スローライフ万歳。


 そう思い、ディーノ王の言葉を否定する。


「僕がこの地を離れたら、いったい誰が民を守るのですか。民が衣食住に窮することなく、平和に日々を過ごすことが出来ること。それが領主の使命です。だから、僕はこの地を豊かにする義務があります」


 そう断言すると、ディーノ王は唖然とした顔になったのだった。


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