奴隷達の仕事
奴隷達にパッパッと仕事を割り振っていき、結局四則演算や商売の経験がある者以外は全て僕が買った。
大金貨八枚の出費である。
「利益一割くらいだけど、良いの? 王都からここまで連れてくるのに経費とか掛かったんじゃない?」
そう聞くが、ベルとランゴは笑顔で首肯する。
「それを分かっていただけるだけで充分です。それに、護衛は冒険者達に合わせて金貨五枚ですから、利益は出てますよ」
ふむ。旅費に飲食代とか宿代とかかかってるだろうに。
まぁ、二人が良いというなら良いか。
「ありがとう。じゃあ、奴隷の人達の割り振りは大丈夫だね。でも、ベルランゴ商会で雇う奴隷の人達は十人以上いるから、早めにお店作ろうか?」
「そうですね。とりあえず、行商人の経験がある者が二人いましたから、馬車を分けて三組で販路を拡大させます。護衛で雇った冒険者の一組が王都に戻るようなので、今度は私が王都に向かいます」
「成る程。ランゴさんは今回は店番か」
「私は奴隷の教育と村の中での商売ですね」
ふむふむ。ベルランゴ商会が順調に稼働し始めたね。やっぱり、資金と人手が大事だな。
活気が出てきたベルとランゴを見て頷き、僕は自分が買った奴隷の人達の様子を見に行くことにする。
「それじゃ、セアト村騎士団を作ってくるねー」
「あ、分かりました。また後で店舗や住居についてお話をさせてください」
「分かったー」
そう言って、僕はティルやカムシン、アルテを連れて領主の館を出て、村の中を歩く。
魔術適性のある者はエスパーダの下へ送り込んだし、騎士や傭兵、冒険者だった者はディーの下へ送り込んだ。
後は面白そうだから吟遊詩人、踊り子、楽器の演奏をしていた者達は村の入り口近くに作る予定の酒場兼劇場のスタッフの予定とし、農業経験のある者は一部を村の農地のお手伝いに回している。
ちなみに十歳以下の子らは皆隣村出身の村人の家に預けた。お手伝いと教育をお願いしている。
そして、その中で残った約五十人。この人達にはヴァン男爵の神聖セアト騎士団で最初の超最強連射式機械弓部隊として教育するのだ。
ふははははー。
僕は高笑いしながら村の入り口に集まっている奴隷達の下へ足を運んだのだった。
奴隷の人達は僕の姿に気がつき、慌てて姿勢を正して向き直る。
「お待たせー。さぁ、聞いての通り、皆さんはセアト騎士団の弓兵部隊要員です。まずは、基本装備である城壁のバリスタの使用方法を学びます。何か、質問がある人ー?」
そう声を掛けると、一人二人と手が挙がった。
「はい、そちらの女性の方ー」
僕は野生的な女性を指名する。すると、女性は気の強そうな顔で一歩前に出てきた。露出した二の腕が細身ながら筋肉質で逞しい赤毛の女性である。陸上女子みたいで格好良い。
「私は弓の経験がありますが、弓に触ったことのない人も多くいます。選別の理由はなんでしょうか?」
「えっと、貴女は元狩人のボーラさんだね。良い質問です。選考基準は第一に経験者、第二に目が良い人、第三に剣と鎧で戦うには厳しい小柄な人、です。なので、ボーラさんや村の狩人のインカさん達を、この部隊の隊長にしたいと思っています」
そう告げると、ボーラは難しい顔で唸る。
「……正直、弓も見た目以上に力が必要です。見るからに細い子もいるけど、力の無い子は厳しいかもしれません」
おぉ、しっかり意見を言える人だ。それに、言っていることは正しい。良い人材を見つけたね。
僕はボーラの言葉に頷き、一個持ってきていた連射式機械弓を胸の前に持ち上げた。
「確かにその通り。なので、この中で一番力が無さそうな十一歳の村娘、ポルテちゃん。試しにやってみよう」
そう言って一際小柄な赤毛の少女、ポルテを指名すると、恐る恐る前に出てきた。
そばかすのある赤い髪のポルテは、何故か僕の前で跪いて機械弓を受け取る。
大袈裟な態度と凄い緊張感に笑い、僕はポルテの隣に立って手を添えた。
「はい、肩の力を抜いてー。街道の傍に見える森を狙ってみましょう。そうそう。ここを握って。あ、軽くで良いよ。それで、この箱みたいなやつの横にある棒を引いて、うん、セットしたね」
皆に注目されているからか、ポルテは真っ赤になりながら機械弓のセットを完了する。
僕はポルテの肩に手を置き、肘を下から支えて狙いをつける手助けをした。
「それじゃ、下の棒の出っ張ってるところを握ってみようか。引きしぼるようにギュッと……」
ポルテがグリップのトリガー部分を握り、機械弓が金属と木のぶつかり合うような音を立て、矢が射出された。
矢は見事に狙い通り発射され、風を切る音は森に向かっていく。
「ばっちりだね! 上手だったよ、ポルテ」
そう声を掛けると、ポルテは真っ赤な顔のまま僕を見て「は、はい!」と返事をした。
機械弓を恭しく僕に返して、また元の位置に戻っていく。
その様子を半ば呆然と見ていたボーラに僕は機械弓を差し出してみた。
「最新式の機械弓。射ってみるかい?」
そう言って口の端をあげると、ボーラはふらふらとこちらに歩いてきたのだった。
「あ、あはは! あははは! 凄い! これは凄いよ!」
機械弓を渡して操作を教えて一分。ボーラはちょっとヤバい人かと思うくらい興奮していた。
瞬く間に森に向けて残りの九本を連射し、その性能の素晴らしさに驚嘆している。
「ヴァン様、これなら大型の魔獣とも戦えますよ」
目を輝かせて迫ってくるボーラに、僕は若干引きながら頷く。
「そうだね。でも、大型の魔獣にはバリスタがあるから大丈夫だよ」
「そ、そうですか! そのバリスタというのも……!」
「う、うん。見に行こうか。そこから上がれるからね」
そう言って先導すると、すぐ後ろからは鼻息の荒いボーラの気配と、少し離れて付いてくる他の人たちの足音が聞こえた。
誰かボーラを止めてよ。襲われちゃうよ。
内心怯えながらも、城壁の上まで上がり、バリスタの隣に立って振り返る。
「さて、これが二連式バリスタで……」
振り向いた瞬間、目の前に目を爛々と輝かせたボーラがいて、思わず固まってしまう。
すると、見かねたのかボーラをカムシンやティルが後ろから取り押さえた。鎖に繋がれた猛獣のようなボーラを横目に見ながら、僕はバリスタの紹介に戻る。
「……さて、これが二連式バリスタです。これで緑森竜も仕留めました」
「ど、ドラゴンを!?」
「大きいとはいえ、弓で……?」
「さすがに冗談じゃ……」
ざわざわとそんな声が聞こえてくる。
それに笑いながら、僕は小柄な少女を探す。
「お、いた。ポルテちゃん。こっちへおいで」
「は、はい!」
呼ぶと、とてとてと小走りに向かってきた。
「今回はさっきより少し重いからね。まず、この棒を引いて。体重を掛けたら引けるようになってるから、しがみ付く感じで良いよ」
「は、はい! う〜ん……!」
可愛く唸るポルテちゃん。ガチャンと音がしてセットは完了した。
「それじゃ、一発目だからこっちの金属の矢を使っちゃおうか」
そう言って矢のセットをさせてみる。
「矢を置く時に絶対に他の人は触らないようにね。ポルテちゃんが飛んでいっちゃうから」
そう注意を促すと、当のポルテが慌てて矢をセットし、戻ってきた。
「はい。それでは、最後に狙いをつけて、この棒を倒します」
ポルテが僕の指示に合わせて森に狙いをつけ、棒を引く。
空気が振動し、同時に凄い風切り音が鳴り響いた。
一瞬遅れて、森に矢が到達。こちらまで聞こえてくるような着弾音を響かせて太い木々が三本か四本ほど薙ぎ倒される。
うむ。バリスタと矢を強化しておいて良かった。
初見の人は皆、完全に固まってしまっている。
「う、う、うぉおおっ!!」
が、ボーラだけはテンションがメーターを振り切って歓声を上げていた。
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