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商人魂

 ベルとランゴがドラゴンとアーマードリザードの素材について取らぬ狸の皮算用会議を開始していると、ちょっと落ち着いてきた他の商人達がこちらに来る。


「いや、話には聞いていましたが、まさかこんな村があるとは……! まさに宝の山ですな!」


「ランゴの報告を聞いた時は半信半疑でしたが、本当に驚きました。いや、来てよかった。是非とも、素材は全てメアリ商会に」


「素晴らしい素材です。これは、商会長に話をして本格的にこの村に出店も視野に入れることになるかもしれません。メアリ商会は王国最大級の商会ですから、必ずやこの村の発展に貢献するでしょう」


 と、挨拶もそこそこにマシンガンのように捲し立ててくる商人達。


 僕は、あえて八歳児らしく首を傾げる。


「でも、ここは辺境で人も少ないけど、お店出せるの?」


 尋ねると、商人の一人が笑みを深めて何度も頷いた。


「商人は売るだけでなく、買取も重要なのです。それに、メアリ商会なら間違いなく、最も高価な価格で素材を引き取りますからね」


「へぇ。じゃあ、あのドラゴンは幾らで売れそう?」


「そうですね……白金貨八十枚といったところでしょうか」


 と、商人達は僕の質問に答えた。僕は腕を組み、鼻から息を吐く。


「白金貨八十枚で買ったドラゴンが、幾らで売れるの?」


「最低でも百枚にはなるでしょう。ただ、こちらから様々な費用が引かれます。ですので、ランゴから聞いていたアーマードリザードに関しては、少々控えめにお値段をおつけしてよろしいでしょうか? ああ、勿論、今後この村には定期的に隊商が行き来しますから、その際には他の村や町よりも優遇する措置を約束しましょう」


 踏み込んだ質問に、商人は饒舌に語った。他の商人達も笑顔で頷いていることから、話を合わせていたのだろう。


 これは、あれだな。


 このドラゴン討伐という戦果を特別なものと見て、その後の付き合いを深く考えていないな。


 もし、貴重な魔獣の素材を今後も仕入れることが出来ると思ってくれたなら。


 もし、村が今後大きく発展するかもしれないと思ってくれたなら。


 この商人達はもっと自分達の利益を減らしてでも、高くドラゴンやアーマードリザードの素材を買って帰っただろう。


 だが、恐らく、商人達はこんな辺境の村に関心が無い。この取引でどれだけ利益を出すかしか考えていないのだろう。


 だから、僕は笑顔で頷いた。


「良いお話をありがとう。考えてみるね」


 そう言って片手を振り、僕はベルとランゴの方へ向かう。


「あ、ちょ、ちょっとお待ちを……! あの二人はまだ商人としては若輩者でして、ドラゴンなどというA級の素材を扱える者達ではありません。我々なら適正な……」


 慌てる商人達を放置し、ベルとランゴに話しかける。


「ドラゴン、思ったより高く売れないかも。白金貨八十枚が適正な価格だって」


 そう告げると、ベルは眉根を寄せ、ランゴは慌ててドラゴンを振り返る。


「どう見ても最上の状態の素材ですよ? それが、白金貨八十枚? 九十枚から百枚の間違いじゃないんですか?」


 ランゴが困惑した様子で僕の後ろにいる商人達を振り返ると、商人達は血相を変えて二人の側に駆け寄った。


「この馬鹿者! 百枚などで買い取れるわけがないだろうが!」


「オークションに出して、もし想定より安くなったらどうする!?」


「場合によっては、王都に着く前に盗賊団に襲われることもあるんだぞ!? 最高の結果ばかり考えて行動する商人がいるか! 最悪どうなるか考えて決めろ!」


 一斉に罵声を浴びたランゴは体を小さくして萎縮してしまった。だが、そこにベルが口を出す。


「ちょっと待ってください。商人として、ここは正当な査定をすべきです。大体、経費として相応の警備をして運搬しても十分に利益は出ますし、オークションは最低落札価格を決めて出品可能なんですから、ダメなら次回に持ち越すことが出来ます。それに、運搬中に盗賊に襲われないようにルートや護衛を吟味するのは商人の腕の見せ所です。常識でしょう」


 ベルがはっきりとそう告げると、商人達は一瞬こちらを見て、すぐにベルに掴みかかった。


「こ、こ、この馬鹿が! なんなんだ、お前らは!? 頭がおかしいのか!」


「……こんな辺境に素材買取に来る商人など、向こう一年は来ないんだ。我々が白金貨八十枚で提示したところで、売るしかないだろう」


「いいか、今は黙って我々の言うことを聞け。貴様らには多めに手数料を払ってやる。白金貨八十枚で商談をまとめたら、一人白金貨一枚は利益が増すんだ」


 と、こそこそ話し出したが、それなりに聞こえている。まぁ、白金貨一枚一億円としたら、やっぱり揺れちゃうよな。人間だもの。


 そう思って見ていると、ランゴが眉間に皺を作りベルに視線を向けた。その視線を受けて頷き、ベルは商人達に対して大きな声で告げる。


「私達兄弟は、そんなせこい真似をして白金貨一枚を得ようなどとは思いません。商人は信用が全てです。何処の誰だろうと、どんな商談だろうと、誠実な売買をしたいと思います。それが、将来最も大きな利益を生むと……」


 ベルの言葉を、商人の一人がカバンを地面に叩きつけ、遮った。


「……貴様ら、この商機が分からんとは……これが商会長に知れたら、我がメアリ商会から除籍されることも有り得ると思えよ」


 低い声でそう呟くと、商人達は揃って何処かへと歩いていった。


 いやいや、顧客に聞こえたぞーい。僕に聞こえたらメアリ商会のイメージ最悪じゃないか。一応、曲がりなりにも侯爵家の実子だぞ。


 まぁ、辺境に追いやられた将来性の無い子供と侮っているならそれはそれで間違いじゃないが、もしかしたらお得意様になるかもしれないのだから愛想は良くしときなさいよ。


 そんなことをぼんやり考えながら、ベルとランゴのもとに行く。


「良いのかな? 白金貨一枚分の儲けを失ったかもしれないよ?」


 尋ねると、二人とも鼻息荒く頷いた。


「良いのです。知った顔の者達でしたが、あれほど分からず屋だと思いませんでした。守銭奴は商人の本質とはいえ、がめついだけでは無意味ですよ。もう、王国最大の商会所属という看板にも未練はありません。大変だとは思いますが、私達は独立して商人を続けていきます」


「護衛を雇って、俺が直接王都にドラゴンの素材を運びましょう。ただ、オークションへの出品はギルドに登録しないといけないのですが……」


 ランゴの表情が曇った。


 そして、二人はこちらに目を向ける。


「商会を設立するには、三つの条件があります。大金貨一枚のギルド入会金。実店舗の所有。そして、爵位を持つ者の推薦」


 と、ベルが語る。ほうほう。今回の利益を考えれば、前項二つは全く問題無い。だが、最後の爵位を持つ者の推薦がみそだな。


 貴族社会ならではのルールだ。貴族が『権利を与える』という権利を持っている。つまり、商会を設立する程の財力を持つ者は、最後に貴族に相応の謝礼を払わねばならないのだ。貴族は何もせずとも、莫大な利益を上げることが出来る。


「なるほど。一般的に、貴族に払う礼金はどれくらいが相場かな? それとも、毎回利益の一割とか?」


 そう聞くと、二人は目を瞬かせる。


「お、お分かりになりますか。やはり貴族には常識なのですね。仰る通り、ピンキリですが礼金が必要になります。大まかですが、各爵位に合わせて礼金の相場は違いますね」


 と、ベルは口にした。どうやら、その礼金がかなりハードルが高いようだ。


「ちなみに、メアリ商会は何処の貴族の推薦かな?」


 確認すると、二人の顔が少し引き攣った。


「……ベルリネート王家です」


「そりゃマズイねぇ」


 思わず即答すると、二人は泣きそうな顔になったのだった。


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