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【別視点】行商人として

二話連続投稿です。

後半は十時ごろ投稿予定!

 街道を進みながら、御者席にいる私は弟のランゴと馬車の中を振り返って話をする。


「今回は参ったな……最後に端村に行って調味料とか日用品売っても大した額にはならないからなぁ」


 端村とは、あの辺境にある名もない村のことだ。端にある村だから、我々は端村と呼んでいた。


「端村から持って帰るものも無いんだよな。今回は大赤字だ」


 ランゴも同調するように愚痴を返してくる。


 いつもなら、そこそこの黒字は出る。


 第一都市から第二都市へ商品を売りに行き、町一つと村二つを回り、最後に第二都市へ戻ってから第一都市へと帰る。これがいつもの経路だ。


 第一都市の高級品を第二都市に持っていくのは堅い商いであり、第二都市で買った衣類や調味料、宝石などは次の町でそこそこ売れる。そして、その町で出来るだけ安い調味料を大量に仕入れ、最安値の日用品を大雑把に買い、村二つを回る。


 これを一ヶ月一周といった感じだ。


 端村で何か買って帰るとしたら木材や魔獣の皮などだが、残念ながら金にならないし、運ぶのも大変なので毎回断っていた。


 一ヶ月掛けてこれで金貨五、六枚程度の純利益だから、他の行商人達は嫌がる。


 なにせ、収入は商会に半分とられる。そして、金貨三枚を受け取った商会はそこからまた侯爵家に税を納めないといけない。


 つまり、私達兄弟の手元には金貨二、三枚程度しか残らないのだ。


 多少自分達の為に金を使えば、残りは金貨二枚以下。これを元手にして、次はもっと高く、利益を上げるために良い品を買い求めたり、馬車を修理したり、馬の世話の費用に充てたりと出費がある。


 だいたい、一ヶ月で金貨一枚貯蓄出来れば良いくらいか。


 だが、今回は途中で馬車が破損し、修理代と一週間余分に滞在費や護衛費用が掛かった。挙句、馬車が横向きに倒れたため、多数の商品が破損したり売り物にならなくなってしまったのだ。


 これだけでもう大赤字だ。


 だから、もう後はどうせ赤字なのだからと気にせず、思いきった仕入れを行った。


 調味料や酒、日用品を馬車二台分買ったのだ。


 これをいつもの販路で売り、売れなければ隣の伯爵領の村に挑戦してやろうくらいの気持ちである。


 そんな自暴自棄な気持ちで最後の端村に来た時、いつもと違う景色を見て戸惑った。


「おい、あれがその端村とやらか? どう見ても村って規模じゃないぞ」


 冒険者のエアにそう言われ、私は曖昧に頷く。


「ああ……私もそう思う」


 そう返事をすると、エアが不審そうにこちらを見た。


 だが、それ以上なんと言えというのか。


 なにせ、他のどの村と比べても貧相な小屋しか無い村だったのだ。似たような辺境の村からして、あの地の果ての村などと揶揄される貧乏な村だったのだ。


 それが、何故か村のあった場所には高い石造りの城壁が建ち、左右には三階建てはありそうな櫓が建てられている。素材は分からないが、間違いなく木でも石でもないだろう。


 そして、その櫓や壁の上には大型の設置式弓矢が幾つも並び、挙句跳ね橋が壁側に上げられているのだ。


 つまり、壁の前には堀まであるということだ。


「道、間違えてないよな?」


 ランゴにそう聞かれるが、私は答えられなかった。道は間違えていないと断言出来るが、あの村がコレだとは断言出来ない。


 呆然とした気持ちのまま、馬車は進んでいき、街道の端にまで来た。


 やはり堀がある。それもかなり深い。城壁も新しそうだが、とても堅牢そうだ。小さな城塞都市といった雰囲気である。壁の上からは見たことある雰囲気の村人達が大型の弓矢を構えている。


 あ、あの弓矢は前面に盾が付いているのか。だから形状が斬新だったのだ。


「商人の方とお見受け致します。僕は領主のヴァン・ネイ・フェルティオです。商人の方は商会名とお名前を。護衛の方は職業とお名前をお願いします」


 と、城壁に見惚れていた我々に対し、領主を名乗る人物がそう言った。若い声である。男か女か、一瞬分からなかった。


「お、おい、兄貴。いま、ヴァン・ネイ・フェルティオって……」


 後ろからランゴが困惑した声でそう呟き、振り返る。


「まさか、フェルティオ侯爵家の四男か? 今、噂になっている……」


 そう聞き返すと、エア達が揃って頷いた。


「俺らは第一都市を拠点にしてるからな。何度か見た事がある。あの子供がそうだ。よく街を見回ってたらしくてな。街の奴らは結構話したことも多いから有名なんだよ」


 そう言われ、成る程と答える。確かに、そんな話を聞いたことがあった。


 私達兄弟は長くても一週間ほどしか街にいないため、噂の侯爵家の四男を見たことは無かった。


 見れば、本当に十歳にも満たない子供のようである。


 領主ということもあり、侯爵家の話題は事欠かなかった。とりわけ、最も街に顔を出していた四男の話題だ。


 曰く、一を聞いて十も二十も知る天才、だ。


 商人と会話すれば、幾つか質問しただけでどのような商売か理解し、あまつさえ取引の方法や商品などに的確な助言までくれるという。


 町民と会話しても気さくであり、子供とは思えない気遣いをみせる。子供が奴隷に売られそうな時、私財を使って助け出したという話もあったか。


 噂は人を伝う度に大げさになる故に、そんな噂も眉唾だと思っていたが、ヴァン様が街を去られたと聞いて気にはなっていた。


 どうやら、こんな辺境の村の領主に追いやられたらしいが、解せない。


 天才の子が疎まれることは多々あるだろう。しかし、わざわざ辺境に追いやったというのに、この村の状況を見る限り相当な援助を行なっている。


 考えられることは幾つかあるが、ここで色々と推測していてもラチがあかない。


 私は振り返り、口を開いた。


「わ、私はメアリ商会のベルと申します。もう一人は弟のランゴです。護衛は冒険者のエアさん率いるBランクパーティー、銀の槍の皆さんです」


「入村を許可します。ようこそ、我が村へ!」


 僅かな時間で、私達は通行の許可を得た。


 可動橋が滑らかに動いて降り、街道と村が繋がる。大きくなった門が開き、中の景色が見えた。


 橋を渡りながら徐々に広がっていく村の中の景色を見ても、見慣れた光景ではない。


 素材は分からないが、しっかりとした家屋が規則正しく建ち並んでいる。美しい町並みだ。


 まだ地面は土のままだが、それに違和感を覚えるほどの整った町並みである。だが、こちらに向かってくる人々を見て、私はようやく目的の村にたどり着いたのだと認識した。


「待ってたぞ。よくきてくれた」


 村長のロンダが現れ、労ってくれる。途端、村人達がわらわらと集まってきた。


 月に一度程度しか来られないから、私達が来たら村人達はいつも歓迎してくれる。皆が喜んでくれるから、あまり金にならずともこの村に寄って帰ろうと思えるのだ。


 ロンダや村人と話しているとヴァン様がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。


「やぁ、お手間をとらせました。改めてご挨拶を。ヴァンです」


 そう言われ、私は一礼する。


 それから二、三話をし、ヴァンという子供が、貴族としての教育を受けているなどの理由ではなく、純粋に天才であると確信することになった。


 挙句、村人達からも言われたが、この村の変容ぶりは全てヴァン様とその部下達によるものであるとのことだ。


 信じられないが、村人達が私に嘘を言う意味は無いし、そのような雰囲気は一切無かった。


 村人達が言うには、盗賊団に襲われている村を救い、村の防壁を遥かに頑丈に作り直し、家すら建て直した。その上、設計から作成まで全て自ら行い、あのバリスタを作ってしまったという。


 噂は本当だったのだ。


 私は、この子供の事が無性に気になるようになった。


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