第66話:飛翔する夢
その日、パレッティア王国はこれまでの歴史の中で最も賑わいを見せたと語り継がれる。
事前にお触れを出していたユフィリア・マゼンタ公爵令嬢の王室への養子入り。名を改め、ユフィリア・フェズ・パレッティア第二王女とし、王位継承権を授ける祭りの開催が周知された。
国を挙げての祝祭とすべく、国全体が活気に満ちていた。その活気を助けたのはアニスフィアから国防省に、そして各騎士団に委ねられた飛行魔道具だった。
今までの試作品から得た教訓、そこに平民の技術者をも巻き込んで正式に量産が決められた飛行魔道具は、アニスフィアの前世の記憶で言う所の“バイク”に近づいていた。
量産の為に素材から工賃まで考え、あくまで一人が乗る事しか想定していない。それでもバイク型の飛行魔道具は各地の声を今までよりも早く届けられるようになった。
尚、名称もアニスフィアの呟きから拾った“エアバイク”という名前がつけられ、騎士団には諸手を挙げて歓迎される事となる。
各地の結びつきが強くなる中、魔法省でも魔学の思想を取り入れた新たな思想が根付きつつあった。それは既存の教育を一新するのではないかと囁かれる程の革新的なものとなっていた。
後に“魔法学”と呼ばれる事になる学問は、第二王女となったユフィリアが主導して既存の魔法を見直し、より鮮明に魔法に対しての理解を深めて行く機会となった。
その傍らにはある子爵家の令嬢が付き添っていたとされる。彼女が歴史の表舞台に立つのは、もう少し先の話である。
国防省による魔道具の普及が広がる中、その歩みに合わせて魔法省が魔道具の共同研究を始めた事も多くの驚きを集める事となる。
今まで“魔法を使えなかった”アニスフィアが作っていた魔道具は、魔法使いが積極的な開発に協力した結果、更なる変革を迎えていた。
こうしてアニスフィアが望み、夢見た世界。その一端がこの日、開かれようとしていたのだった。
* * *
城下町では活気に満ちた声が溢れていた。
賑やかな飾り付けが施された城下町には無数の屋台が並び、訪れた人達を驚かせていた。
何せ、屋台には生活を助ける魔道具が支給されていたのだから。例えば火の精霊石を用いて、火を出さずに水を温めるポット。逆に水や風の精霊石を用いて氷を生み出す魔道具など、目を引くものばかりだった。
「これは火もいらずに魔力だけでお湯が沸かせるよ! 普段の日常から旅の助けにまで!」
「こっちは暑い時でも氷が生み出せるようになる魔道具だ! もっと寄って見てくれ!」
魔道具の普及の為の祝祭を開くに当たって、アニスフィアは城下町の住人に協力を求めた。つまりは店頭宣伝である。実際に魔道具を使って貰って、その利便性をアピールする為だ。アニスフィアに親しみがあった城下町の住人は快く引き受けてくれた。
魔道具を利用して屋台を出す者達は、元々あった商品をより洗練させたものから、アニスフィアから着想を得た新しい商品など、遠方から来た者達の興味を集めていた。
余談ではあるが、アニスフィアは設営を終えた城下町を見て、まるで縁日みたいだと思っていたりする。
「おぉ、本当に火もいらずにお湯が出てくるぞ! こりゃいい!」
「えぇ、氷ですって!? 貴族様に頼まないと出して貰えないものよ? これが家に置けるなんて、夢のような話だわ!」
「なにこれ、食べた事ない! ふわふわの雲みたい!」
「はっはっはっ! それはアニスフィア王女が考案した飴の雲さ! どうだ、旨いだろう!」
「これ、飴なのー!? すっげーっ! お母さん、見て、これ飴なんだってー!」
誰もが驚きや喜びを見せている。アニスフィアがこの魔道具を国に普及させたいと知れば、誰もがこの便利な魔道具が自由に使える将来に期待を寄せるのであった。
賑わっているのは、何も屋台だけではない。城下町の大きな広場、その会場ではまた屋台とは違った催しが行われていた。
「今まで平民には魔法とは縁がなかった! しかし、この魔道具があれば違う! 魔力があれば、このマナ・ブレイドは剣に早変わりする! しかし普段の重量は剣の柄だけ、これなら女や子供でも持ち歩ける! 護身用の武器として使えるぞ!」
「剣と言えば戦う事を連想するものもいると思うが、よく考えて欲しい! この通り、マナ・ブレイドは形状を調整する事が出来る。その用途は様々だ!」
そこでは魔道具の体験が行われていた。主に展示されていたのはマナ・ブレイドである。男性だけではなく、女や子供もマナ・ブレイドを手にして、魔力の刃を生み出して興奮の色を見せている。
それもそうだろう。今まで魔法とは貴族の特権と言えた。それを限定的とはいえ、手に持つだけで魔法のような現象を起こす事が出来るのだから。荒事を生業としていない者達でも、その目新しさに手を伸ばす者も多い。
「おいおい、遂にあのマナ・ブレイドが売りに出されるのかよ!?」
「ずっと欲しかったんだよな、あれ……! 予備の武器として、どれだけ欲しかった事か!」
中でも歓喜の声を挙げていたのは冒険者を生業としている者達だった。
アニスフィアと冒険をする事があった彼等は、アニスフィアの象徴的な武器であるマナ・ブレイドが販売される可能性に期待に胸を膨らませる。
「おい、あっちでマナ・ブレイドの実演をやってるぞ! 実演者は、あのシアン男爵だってよ!」
「マジかよ!? 冒険者時代は“豪腕”で唸らせた、あの!?」
「豪腕に魔道具とか、オーガに棍棒じゃねぇか! 見に行こうぜ!」
衆目を集める中、マナ・ブレイドの性能の実演者として立っているのはシアン男爵だった。アニスフィアからの要望を受け、彼は自らマナ・ブレイドの性能を見せる為にこの役目を請け負っていた。
シアン男爵の前に、人の三倍はありそうな大きな岩が魔法で設置されていく。巨岩が設置されたのを確認し、シアン男爵はマナ・ブレイドを上段に構える。
「……オ、ォォォオオオオオッ!!」
裂帛の気合いを込めた咆哮に合わせてマナ・ブレイドが魔力の刃を生み出していく。かつては名を馳せた冒険者であっても、彼は元は平民だ。その光景は冒険者時代の彼を知る者からすれば興奮を呼び覚ますものであった。
人の身長程もありそうな刃が形成される。その巨大な魔力刃が豪腕の異名に違わぬ太い腕によって振り下ろされる。地を揺るがさんばかりの踏み込みと共に振り下ろされた刃は巨岩に食い込む。
「チェリヤァアアアアアアッ!!」
ぐん、と。巨岩に食い込んだ刃を押し込むようにシアン男爵が力を込める。巨岩は見事に両断され、左右に倒れるように真っ二つにされる。
巨岩が倒れた後、一瞬の静寂の後に歓声が沸き起こる。その歓声に包まれる中、シアン男爵はマナ・ブレイドを掲げて見せる。歓声が更に爆発したように膨れあがった。
それから実際にマナ・ブレイドを使って岩を斬ってみる体験が始まる。皆が恐る恐る、或いは意気揚々とマナ・ブレイドを手に取っていく光景を目にしたシアン男爵は目を細め、王城の方に向けて静かに目礼をした。
* * *
「見事な賑わいね、グランツ坊や」
「えぇ。そうですね、リュミ殿」
王城から賑わう城下町を見下ろしながらリュミエルは呟いた。その傍らにはグランツが控えている。リュミエルは目を細めるように民の賑わいを嬉しそうに見つめている。
その隣に立つグランツは直立不動。表情の変化はなく、ただリュミエルと同じように景色を眺めていた。
「行かなくて良かったの?」
「陛下と王妃様が不在の指揮もありますから」
「……娘の晴れ舞台なのに」
「もう、娘ではありません」
リュミエルの問いにグランツは少しだけ表情を崩す。目を細めて、遠くを見つめるように。その口元は薄らと笑みを浮かべている。
「それで良いのです。少なくとも、私達にとっては。現にあの子は大きく羽ばたいた。その姿を見送る事が出来て、これ以上何を望むのか」
「……欲のない男」
「この手に余る程の幸せを、既に頂いておりますから」
ふと、リュミエルが視線を移す。そこにはネルシェルがゆっくりと歩み寄ってきていた。
ネルシェルはそのままリュミエルに一礼をし、グランツの隣に立って己の腕をグランツと絡める。
「見てください。リュミ殿。私達の、そして貴方の血を受け継ぐ者達を」
グランツに促されるようにリュミエルは眼下へと視線を向ける。それは王城の城門から出発した華美な装飾を施された馬車が行く。
先を行く馬車にはオルファンスとシルフィーヌが、そして後に続く馬車にはアニスフィアとユフィリアの姿がある。馬車の歩みに合わせて、騎士団が護衛するように続く。
王族のパレード行進だ。城下町を巡る彼等の姿をリュミエルは見つめ、その視界をぼやけさせた。
「ユフィリア王女様だ!」
「アニスフィア王女様も一緒よ!」
「国王陛下、万歳ー!」
「アニスおねーちゃん、綺麗な格好してるー!」
王族のパレード行進に民達はその姿を目にしようと列を成していた。馬車の上ではアニスフィア達が笑みを浮かべて手を振っている。
誰もが笑い、楽しみ、明日への期待に胸を膨らませていた。子供達の明るい声も、大人達の陽気の声も大きくて、祭りは正に大盛況と言わんばかりだ。
風の精霊を通じて音を拾っていたリュミエルは、不意に空へと視線を向ける。今日は快晴、雲の1つもない良き日だ。眩しいぐらいの太陽の光に目を閉じながらリュミエルは呟く。
「……この光景をどこかでご覧になられているのでしょうか、父上。貴方の願いは、今もここに息づいておりますよ。貴方も、見ているかしら? ねぇ……」
呟きにしては小さな、本当に小さな誰かの名前を呼んで。
リュミエルはその瞳から小さな雫を流した。
* * *
えぇい、思ってたよりも大変じゃない! 貼り付けた笑顔が引き攣って崩れそう!
王族のパレードなんて顔を出すのは初めてだし、ほら、笑顔で手を振ってるだけで良いって言われても、やっぱあれだけ人が多いと尻込みをするっていうか、あと慣れ親しんだ城下町の人に着飾ったドレス姿を見られるのは気恥ずかしいというか……。
途中でユフィが見えない所で手を握ってくれなかったら笑顔が崩れてたかもしれない。なんとか緊張するパレードを終えて、そのままユフィが正式に王家の養子に迎えられ、第二王女となった事を民衆に演説する為の広場で発表された。
その間も私は何も喋らず、ただ笑顔を浮かべてユフィを祝福していた。ユフィが正式に王女になったと、民の前で周知された時の大歓声は鼓膜に酷いダメージを与えて来る。今度は耳栓を用意すべきかもしれないなぁ……。
「今日は皆、大いに楽しんで欲しい! 更にこの後、アニスフィアとユフィリアによる余興もある。どうか今日という良き日を祝ってくれ!!」
おっと、父上が本日の“目玉”について言及してくれた。私はすかさず深々と一礼をして、今度は王城に戻る為のパレード行進が始まる。
王城に戻る間もなんとか笑顔を維持して手を振り続ける。王城に戻るのと同時に、私とユフィは侍女に連れられるようにしてドレスを剥ぎ取られる。
「お召し替えを致します!」
「えぇ、お願い」
私達の大きな仕事は、後はこの後の“目玉”の余興だけだ。けれど、この余興こそが私達にとっての本番とも言えた。
動きにくい王女らしいドレスを脱がされ、化粧を再度施されながらも新しい服に着替えていく。今日、この日の為にユフィと私に仕立てられた装束だ。
騎士服を元に、王女として申し分ない程に華美な刺繍などが施された装束。ドレスと騎士服の良い所を織り交ぜた礼服である。似たような普段着は私も個人で仕立ててあるけど、今着せ替えられているのはこれの礼服版と言え、とても豪華だ。
「苦しくはありませんか?」
「ん、大丈夫だよ」
私の着替えを主導してくれていたイリアが確認を取ってくれる。何度か跳ねるように飛んでみたり、体を動かしてみるけれど動きづらいという事はない。
衣装が問題ないとなれば、今度は化粧の仕上げだ。髪型もきっちり整えられて鏡に見せられた私は見事に磨き上げられていた。今日はいつにも増して気合いが入ってる気がする。二回も着替えてるから、彼女達も十分忙しい筈なのに。
「アニス」
声をかけられて振り返る。そこにはレイニとハルフィスを伴ったユフィがいた。
最近はすっかりユフィの専属になりつつあるレイニと、ユフィの秘書として召し上げられたハルフィスだ。侍女の仕事もこなしたいという事で今日もこの場に控えている。
ユフィの格好は、私とは色違いのお揃いの装束だ。こう言ってはなんだけど、ちょっと見惚れてしまうのは惚れてしまった欲目なのか。ちょっとドキドキしてしまった。
「ユフィ、似合ってるよ」
「アニスも。可愛いですよ」
「……そこはちょっと格好良いって言って欲しかった。ユフィが格好良いんだし」
「アニス様は可愛いですから」
「……フォローしてる? それフォローしてるの、レイニ?」
「あははは……」
困ったようにハルフィスが笑っているので、とりあえず追及の矛は収める事にした。ちょっと時間も押している所だ。今日は忙しいのだから、無駄に出来る時間はない。
「それじゃあ移動しようか。トマス達の準備は?」
「問題ないそうです。最終調整はお二人が揃ってから現地で!」
私の問いかけに答えたのはハルフィスだ。私はその返答を聞いて頷いて見せる。
「わかった。ユフィ、行こう」
「はい、アニス」
侍女達を引き連れて、私達は王城を移動する。私達が向かった場所では貴族達が慌ただしく動き回っていた。そこにいたトマスを見つけて、私は挨拶を交わす。
「……来たか、……ごほん。お疲れ様でございます、アニスフィア王女、ユフィリア王女」
「堅苦しいのは無しで、ガナ主任!」
きっちりと身ぎれいにしたトマスはまだ畏まった態度が苦手なのか、どこかしどろもどろに言葉を選んでいる。
トマスの不慣れな様子に笑っていると、トマスの眉がこれでもかと言うぐらいに寄せられた。
「……勘弁してください。それよりも、時間が押してるので準備を」
「わかった。トマス、お願いね」
「あぁ、任せろ」
トマスが頷いて答えて見せる。そして、トマスが私に差し出したのは礼服の上に羽織るのを想定したコートだ。裾が長く、羽織った際に勢いで靡くように揺れている。
このコートの特徴は、裾や背中に精霊石が縫い付けられていることである。このコートが今回の“目玉”における集大成でもある。
「最終確認だ、魔力の通りはどうだ?」
「……うん、問題ないよ。流路はばっちり」
「そうか。……ユフィリア様も大丈夫か?」
「えぇ、私も問題なく」
ユフィリアも私とはやや形状が異なったコートを礼服の上に羽織っている。私のコートに比べれば装飾品の数が少なめだ。けれど美しい紋様のように刺繍が施されていて、装飾品が過多とも言える私と比べても見劣りする事はない派手さだ。
「……緊張、しますね」
「そう? 私は楽しみだよ」
「私はちょっとしたトラウマがあるんですよ」
「……それについては、ほら、ごめん」
呟きを零したユフィに笑って見せると、心当たりのある自分のやらかしを思い出させられて苦笑に変わってしまう。
そんな私にユフィは手を差し出してくれた。私はユフィの手に自分の手を重ねて、指を絡めた。
「冗談ですよ。……さぁ、行きましょう」
「うん。行こうか」
私達は王城の屋上へと向かう。そこにはグランツ公やネルシェル夫人、リュミエルの顔などが見受けられた。
他にも多くの人が、そして王城の下や、そこから続く城下町の広場にも人が集まっている。注目が集まっているのは時間通り。余興が始まると呼びかけをするのも予定通り。
緊張していた。きっと、今まで生きて来た中で一番緊張している。でも、それと同じぐらい、いや、上回るぐらいに私は期待に胸を躍らせていた。
「時間です! アニスフィア王女、ユフィリア王女! お願いします!」
ハルフィスが期待に満ちた声を張り上げる。私はユフィと繋いでいた指を離して、屋上の縁へと足をかける。
「……改めて、今日ここまで協力してくれた全ての人達に感謝を」
一人で積み上げてきた時間が、誰かに手を取って貰えた幸運が私をここまで連れてきてくれた。
だから見せたい。私が望んだ夢を、皆に。その為に貰った“翼”がここにある。
腰に下げていたセレスティアルを抜き、それを正面に構えて目を閉じる。意識を集中させて魔力を通していく。
セレスティアルを中心に、羽織っていたコートにも魔力が流れていく。全身を流れる魔力がコートを自分の一部のように認識していく。
コートの各部に埋め込まれた精霊石が私の魔力に反応して励起していく。その中心、コートの背部の装飾が私の魔力を吸い上げていく。
(魔力充填、完了。魔力流路、安定)
この背中の装飾と共に埋め込まれた精霊石はただの精霊石じゃない。魔法省が精霊石の研究を進める事で生まれた産物で、同質の精霊石と連動して繋がりを持つという特性を得た。
但し、使う為には使用者の魔力を登録しなければならない一点物で、しかも恐ろしくコストがかかるという贅沢品だ。
更にこのコートも糸の段階から、その特殊な精霊石を細かく削って繊維に混ぜてある。だからこそコートに肉体の延長線上のように魔力を通す事が出来る。
ずっと夢があった。私には、魔法に憧れた最初の夢があった。
誰かを笑顔にする為の魔法、そんな私が憧れた“最初の魔法”。
空いた手を伸ばす。翳すように空に手を広げて、空を掴むように握りしめる。
「……いっくよーっ!!」
気合いを入れ直すようにして、私は屋上の縁にかけていた足に力を込めて、そのまま宙へと身を投げ出した。
「“飛べ”ぇぇええ――ッ!!」
私の声に反応して、コートに秘められていた“魔法”が展開された。
* * *
“翼”が開いた。
王城の屋上から宙に身を投げたアニスフィアの背中には、空を思わせるような色の光の羽が広がる。それが落下していくアニスフィアの体に浮力を与え、空へと押し上げた。
間近で見ていた者達は一瞬、悲鳴をあげかけ、しかし空へと舞い上がったアニスフィアに呆気に取られるように視線を奪われる。
不思議な魔道具で空を飛ぶ光景は何度か目にした者もいるが、それでも目を奪われていた。自由に空を舞う姿は一言で言えば、美しかったからだ。
空中でくるりと身を回すようにアニスフィアが振り返る。振り返ったアニスフィアが見たのは、追いかけるようにして飛翔する“彼女”の姿である。
「ユフィ!」
「アニス!」
アニスフィアの空色の翼に対して、ユフィリアの背中に広がるのは虹色の羽だ。その羽をアニスフィアは前世の記憶から、“妖精”みたいだと思っている。
空色の翼と、虹色の羽で風を捉えた二人は空中で踊るようにハイタッチのように手を交わす。そのまま互いに笑みを浮かべ合ってから、城下町の上空を掠めるように飛翔していく。
「行こうか!」
「えぇ、どこまでも」
さぁ、“余興”を始めようか。
私達の夢の結晶である、魔法で空を飛びながら魅せる空中円舞を。