毎年の家庭訪問を楽しみにしていました。担任教師が自宅を訪問してくる話ではなく、生徒が担任教師の自宅を訪問するイベントを意味しています。いい時代だったのか、有志で毎年それを実現させていました。
わけても、中学一年のときの担任だった葉子先生(仮名)が思い出深いです。まだ大学を卒業されたばかりの若い国語の先生でしたが、「いいわよ、おいで」と男子6名での訪問を受け入れてくれました。相田翔子さんを少し痩せさせたような美人の先生で、蒼めの軽いシャドウが入った眼鏡をかけていました。
自分でいうのは何ですが、さすがに、まだ性的なことを意識するような年齢ではなく、普通に友達の部屋に入るのと同じ感覚でした。先生は、お母様と古い一軒家で2人暮らしをしていました。
あのときの驚きは、今でもよく覚えています。部屋には、ゴダイゴのポスターが何枚も貼ってありました。
葉子先生が少女時代のアルバムを見せて頂き、こんな女子がクラスにいたらいいのになあ、と思っていました。
「葉子先生、ゴダイゴの誰が一番好きなの?」
「授業中よりも積極的じゃない。それ、とってもいい質問ね。浅野孝已さんの大ファンなの」
「葉子先生、コンサート行ったことあるの?」
すると、葉子先生は、「当たり前のこと訊かないでよね」と笑いながら立ち上がり、机から宝石箱のようなケースを取り出してきました。
「遊びにきてくれたお礼に、特別に見せてあげる」
葉子先生を取り囲むような陣形で、全員の視点が一点に注がれていました。
目の前に現れたのは、三角形の名札のような樹脂でした。
「浅野さんが本番の演奏で使ってたピック。コンサートのときに会場に投げたのが私のところへ飛んできたの。すごいでしょう」
全員が「わあ、すごい」と声をそろえるなか、私は、先生の違うところがすごいことにドキドキしていました。気まずくなった自分をどうすることもできず、空気を変えることを試みました。
「葉子先生、ゴダイゴ聴きたいな」
すると、先生は大喜びし、ゴダイゴをかけてくれました。
最初は、デビュー曲でカネボウ化粧品のテーマソングになった「僕のサラダガール」でした。清潔、新鮮、さらには自然体なおしゃれで、僕がこうあって欲しいと願うすべてを持っている女の子なんだということを歌いあげた曲です。
日頃の威厳は霧消し、もう素で大はしゃぎでしたので、本当にゴダイゴが好きなんだなあ、とこちらまでハッピーな気分になりました。
目の前の葉子先生が、リアルに僕のサラダガールになっていました。
Posted at 2023/09/28 07:06:35 | |
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