グルコスルホンナトリウム
IUPAC命名法による物質名 | |
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臨床データ | |
販売名 | プロミン |
データベースID | |
PubChem | CID: 3481 |
化学的データ | |
化学式 | C24H36N2O18S3 |
分子量 | 736.7402 g/mol |
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グルコスルホンナトリウム (glucosulfone sodium)、商品名プロミン (promin) はスルホン系の医薬品であり、マラリア[1]、結核[2]、ハンセン病[3]の治療のため開発された。体内でダプソン(4,4'-ジアミノジフェニルスルホン)へと分解して作用する[4]。
歴史
[編集]プロミンを最初に合成したのは、パーク・デイビス社のエドワード・ティリットソン (Edward Tillitson) とB・F・テュラー (B. F. Tuller) で、1937年8月のことだとされている[5][6]。しかし、パーク・デイビスがこの化合物を合成したことは事実であるものの、実際にはこれが最初ではなかった。
すなわち、1908年にJ・ウィットマン (J. Wittman) とエミール・フロム (Emil Fromm) が種々のスルホン化合物を合成し、その中にはプロミンなどダプソンの誘導体も含まれていた。フロムとウィットマンは、化学的性質などにしか興味を持たなかったため、医薬品としての効果を調べる者は数十年後まで現れなかった[6]。
スルホン系の化合物が医薬品として注目を浴びたのは、サルファ剤(スルホンアミド)が細菌による感染症の治療に、著しい効果を持つことが知られるようになってからである。調査は当初思わしい結果を出さなかったが、じきにプロミンやダプソンが、マイコバクテリア感染症に有効なことが明らかになった。これらの薬剤は、マイコバクテリア感染症に対する、初めての確実な治療薬であった[7]。
プロミンは、ダプソンよりも安全性の点で優れているとみられたため、メイヨー・クリニックにおいて、モルモットを使った結核治療について、さらなる研究が行われた[8]。またハンセン病と結核は、伴にマイコバクテリウム属の細菌(それぞれらい菌と結核菌)によって引き起こされることが既に知られていたことから、アメリカ合衆国ルイジアナ州カーヴィルにあった、国立ハンセン病療養所のガイ・ヘンリー・ファジェットは、パーク・デイビスにプロミンの情報を求めた。彼らはこれに答えて、セントルイス・ワシントン大学医学部のエドマンド・カウドリー (Edmund Cowdry) による、ラットでのハンセン病の研究結果をファジェットに知らせた。
カウドリーが1941年に発表した結果は、成功裏に終わるものであったため、ファジェットはプロミンとアボット・ラボラトリーズによる類似の薬「スルホキソンナトリウム」について、ヒトでの治験開始を決意した。最初の試験は6人の志願者に対して行われ、のちに場所と被験者を増やして繰り返された。副作用が強かったため最初の試験は一時的に停止されたが、プロミンは治療に有効であることが示された[8][9]。
この結果は、画期的なものとして世界中に知らされ、ハンセン病につきまとっていた汚辱的な印象(スティグマ)を緩和し、その時代「収容者」として公共の場所から遠ざけられていた、ハンセン病患者の扱いを向上させた[10]。
日本では、1948年7月、吉富製薬がプロトミンの商品名で発売している[11]。
薬理
[編集]プロミンは水溶性であり、熱に強いため加熱殺菌が可能である[12]。静脈注射により投与することができ[12]、アンプルの形で供給される[13]。
のちに、構造がより単純で、経口投与出来る錠剤の形で投与できるダプソンと比べ、溶解性以外の利点が実質的にないことが明らかにされた。ダプソンに耐性が生じた場合、これはスルホン剤に共通するものであるため、プロミンなど類似の薬剤で代替することはできない[14] 。
現在では、ハンセン病の治療に使われるのは主に、ダプソンのほかリファンピシンやクロファジミンである[15]。
出典
[編集]- ^ Slater, Leo B. (2009). War and Disease: Biomedical Research on Malaria in the Twentieth Century. New Brunswick, NJ: Rutgers University Press. p. 102. ISBN 0-8135-4438-6
- ^ Lilienfeld, David; Schneider, Dona (2011). Public Health: The Development of a Discipline, Volume 2, Twentieth-Century Challenges, vol. 2. New Brunswick, NJ: Rutgers University Press. p. 351. ISBN 0-8135-5009-2
- ^ Faget, G. H.; Pogge, R. C.; Johansen, F. A.; Dinan, J. F.; Prejean, B. M.; Eccles, C. G. (1943). “The Promin Treatment of Leprosy”. Public Health Reports 58: 1729–1741 . Reprint (1966) International Journal of Leprosy 34(3): 298–310.
- ^ McDougall, A. C. (1979). “Dapsone”. Clinical and Experimental Dermatology 4 (2): 139–142. PMID 498567.
- ^ Johansen, E. A. (1947). “Current Data on Promin Therapy”. The Star . Reprinted in The Star October-December 2003.
- ^ a b Wozel, Gottfried (1989). “The Story of Sulfones in Tropical Medicine and Dermatology”. International Journal of Dermatology 28 (1): 17–21. doi:10.1111/j.1365-4362.1989.tb01301.x. PMID 2645226.
- ^ Desikan, K. V. (2003). “Multi-drug Regimen in Leprosy and its impact on Prevalence of the Disease”. Medical Journal Armed Forces India 59: 2–4. doi:10.1016/S0377-1237(03)80092-8.
- ^ a b Sneader, Walter (2005). Drug Discovery: a History. New York: Wiley. pp. 389–390. ISBN 0-471-89979-8
- ^ Tayman, John (2006). The Colony: The Harrowing True Story of the Exiles of Molokai. New York: Simon and Schuster. p. 252. ISBN 9780743233002
- ^ “Hope for Lepers”. Time. (1946年12月30日) 2011年7月22日閲覧。
- ^ 岩波書店編集部 編『近代日本総合年表 第四版』岩波書店、2001年11月26日、366頁。ISBN 4-00-022512-X。
- ^ a b Singh, Rajbir (2002). Synthetic Drugs. New Delhi: Mittal Publications. p. 291. ISBN 978-81-7099-831-0
- ^ Sehgal, Virendra N. (2004). Clinical Leprosy (4th ed.). New Delhi: Jaypee Brothers Medical Publishers. p. 186. ISBN 81-8061-283-X
- ^ Seth, N. D.; Seth, Vimlesh (2008). Textbook of Pharmacology (3rd ed.). Noida, UP, India: Reed Elsevier India. pp. X-87. ISBN 978-81-312-1158-8
- ^ Raviña, Enrique (2011). The Evolution of Drug Discovery: From Traditional Medicines to Modern Drugs. Weiheim: Wiley-VCH. p. 80. ISBN 978-3-527-32669-3