皇帝のものは皇帝に
「皇帝のものは皇帝に」(こうていのものはこうていに、新共同訳聖書訳、欽定訳聖書訳:英語: Render unto Caesar)あるいは「カエサルのものはカエサルに」(新改訳聖書訳2017)[1]とは、新約聖書の三共観福音書に共通に書かれているイエス・キリストの逸話のひとつ。
概要
[編集]「皇帝のものは皇帝に、神のものは神に返しなさい」(新共同訳聖書)あるいは「カエサルのものはカエサルに、神のものは神に返しなさい」(新改訳聖書)とは新約聖書の三共観福音書(「マタイによる福音書」22章15節~22節、「マルコによる福音書」12章13節~17節、「ルカによる福音書」20章20節~26節)に共通に書かれているイエスに関する言動を描いた逸話のひとつである。「マタイによる福音書」によれば、
イエスを敵視するファリサイ派の人々が手下たちを派遣して、イエスの言葉じりを捉えて彼を陥れようとして「皇帝に税金を納めることは、律法にかなっていることでしょうか。」と尋ねさせた。イエスは「税金に納めるお金を持ってきなさい。」といって、持ってきたデナリオン銀貨にローマ皇帝の肖像が刻印されているのを見せて、「皇帝のものは皇帝に、神のものは神に返しなさい。」と教えた。(概略)
この逸話は一般に、日常の社会生活と信仰の問題をイエスが明らかにしたものと解釈されているが、様々な解釈や意見がある[2][3]。
なお、当時為政者の肖像をコインに刻む行為はよく行われていたが、ユダヤ人は偶像崇拝をタブーとしていたのでユダヤの君主はハスモン朝の王たちやヘロデ大王は自分の肖像をコインに入れずに名前と在位年を記す程度[4]で、イエスが活動していた当時のガリラヤ地方の領主ヘロデ(アンティパス)もコインに肖像を入れていなかった(兄弟のフィリッポスはユダヤ人の少ない地域を治めていたのでローマ皇帝の肖像入りの銅貨を鋳造していた)[5]。
ただし、こうしたローマの同盟領主は銅貨の鋳造は独自の判断で行えたものの、銀貨以上は原則認められなかった(考古学的にもヘロデ一族の君主が作った硬貨は銅貨しか見つかっていない)ので、銀貨を使う場合ユダヤ人たちもローマ帝国自らが発行している皇帝の肖像入りの銀貨を使用するしかなかった[6]。
絵画
[編集]この逸話を画題にした様々な絵画も描かれている。
脚注
[編集]- ^ 2017以前の訳では「カイザル」表記もある。“どのように変わる?改定内容の一例”. いのちのことば社. 2017年10月23日閲覧。
- ^ “カイザルのものはカイザルに: キリスト教用語辞典”. 2017年10月23日閲覧。
- ^ “『神のものは神に』 マタイ22:15~22”. 守谷聖書教会. 2017年10月23日閲覧。
- ^ (シューラー2012) p.21
- ^ (シューラー2012) p.69・83
- ^ (シューラー2012) p.25
参考文献
[編集]- E・シューラー 著、小河陽 訳『イエス・キリスト時代のユダヤ民族史 II』株式会社教文館、2012年。ISBN 978-4-7642-7352-8。
参照項目
[編集]- イエス・キリストのたとえ話
- 貢の銭
- ビザンティン・ハーモニー
- カエサル (称号) - ガイウス・ユリウス・カエサル(ジュリアス・シーザー) - ブルータス、お前もか