ジャーマン・スープレックス
ジャーマン・スープレックス(German Suplex)は、プロレス技の一種である。日本名は原爆固め(げんばくがため)。
かけ方
相手の背後に回り込んで相手の腰を両手で抱え込み、自身の両手を相手の、へそのあたりでクラッチして体をブリッジさせる勢いで相手を後方へと反り投げて肩口から叩きつけてブリッジを崩さずにフォールを奪う。
ブリッジした際に、かかとを上げて爪先立ちになるレスラーとベタ足になるレスラーが存在する。かかとを上げるのはフォール時のブリッジによる相手の首の圧迫を狙ったもの(落差ではなく後方へと反り投げる角度に関係する)。その分、ベタ足より、ブリッジとしての安定感は減少する。
日本名は原爆固め(げんばくがため)。ホールドしないで投げ捨てた場合は原爆投げ(げんばくなげ)と呼ばれる。また、技を仕掛けた形が華麗なアーチを描くことから、人間橋(にんげんきょう)という別名も付けられている。
創始者
ジャーマン・スープレックスの原型はレスリングでスープレックス(相手の背後に回り込んで後方へと反り投げる)と呼ばれたものを、レスリング出身のカール・ゴッチがプロレスに取り入れたことが始まりである。日本では1961年4月の公開練習で初披露され、5月1日に日本プロレスの東京都体育館大会で行われた対吉村道明戦が試合での初公開となった[1]。
名手
ヒロ・マツダはカール・ゴッチから直接伝授され、日本人レスラーで最初に使用しており、名手として知られた。以後、マツダが国際プロレスに所属していたことから、サンダー杉山とグレート草津に引き継がれた。その後、寺西勇、マイティ井上、剛竜馬が使い手となる。
新日本プロレスではゴッチが同団体に協力していた関係で、アントニオ猪木をはじめ、木戸修、藤波辰爾、藤原喜明、ドン荒川、長州力、初代タイガーマスク、前田日明、ジョージ高野、ヒロ斎藤、谷津嘉章、高田延彦、山崎一夫、後藤達俊らが使い手となる。
全日本プロレスではジャンボ鶴田がアメリカ修行から凱旋後に使い始めたことがきっかけとなり、大仁田厚、渕正信、天龍源一郎、石川孝志、越中詩郎、三沢光晴らが使い手となる。その後、鶴田はバックドロップとバックドロップ・ホールドを使用してからは封印しており、理由は「威力がありすぎる上に調節が難しい」等諸説ある。大仁田は膝の故障以後は封印した。その後、三沢、川田利明、小橋建太、田上明による投げっ放し式(ホイップ式)を使用した攻防が過熱して四天王プロレスと言われる独自のスタイルを確立していく。
女子レスラーでは長与千種、立野記代、ブル中野が使用していた。
外国人レスラーではチャボ・ゲレロ、カネック、アイアン・シーク、スティーブ・カーン、ボブ・バックランド、ジョー・マレンコ、オーエン・ハート、ゲーリー・オブライト、投げっ放し式の第一人者であるリック・スタイナーが使用していた。
かつては圧倒的な威力を誇り、芸術的な美しさを持つ技であったことからプロレス技の王と称されてきたが、改良を加えた派生技の発展と受身の技術の向上に伴い、中盤の痛め技として使用されていることが多くなっていた。しかし、近年では高山善廣を筆頭に中西学、本田多聞、福田雅一、関本大介ら多くのレスラーが磨き上げることでフィニッシュ・ホールドとして使用している。
派生技
- 投げっ放し式
- ホイップ式とも呼ばれる。相手の背後に回り込んで相手の腰を両手で抱え込み、自身の両手を相手の、へそのあたりでクラッチして体をブリッジさせる際に相手の体を抱えていた両手のクラッチを切って相手を後方へと反り投げて肩口から叩きつける。主な使用者はリック・スタイナー、スコット・スタイナー、ゲーリー・オブライト、ビッグバン・ベイダー、カート・アングル、ブロック・レスナー、クリス・ベノワ、マイケル・エルガン、三沢光晴、諏訪魔、石井慧介、竹下幸之介、彩羽匠。
- ぶっこ抜き式
- デッドリフト式とも呼ばれる。うつ伏せに倒れた相手の足側に移動して相手の腰を両手で抱え込み、自身の両手を相手の、へそのあたりでクラッチして投げられまいと踏ん張る相手の体を無理やり宙に抱えて強引に体をブリッジさせる勢いで相手を後方へと反り投げて肩口から叩きつけてブリッジを崩さずにフォールを奪う。主な使用者はゲーリー・オブライト、マイケル・エルガン、関本大介、高橋裕二郎、マイバッハ谷口。
- 滞空式
- 2段式とも呼ばれる。相手の背後に回り込んで相手の腰を両手で抱え込み、自身の両手を相手の、へそのあたりでクラッチして相手の体を軽く宙に持ち上げて一旦静止してタメを作ってから体をブリッジさせる勢いで相手を後方へと反り投げて肩口から叩きつけてブリッジを崩さずにフォールを奪う。主な使用者は佐藤耕平。
- 低空式
- 相手の背後に回り込んで相手の腰を両手で抱え込み、自身の両手を相手の、へそのあたりでクラッチして相手を高く持ち上げないで素早く体をブリッジさせる勢いで相手を後方へと反り投げて肩口から叩きつけてブリッジを崩さずにフォールを奪う。主な使用者はヒロ斎藤。
- ハイアングル式
- 相手の背後に回り込んで相手の腰を両手で抱え込み、自身の両手を相手の、へそのあたりでクラッチして相手を高く持ち上げて角度をつけながら体をブリッジさせる勢いで相手を後方へと反り投げて肩口から叩きつけてブリッジを崩さずにフォールを奪う。主な使用者はボブ・バックランド、ゲーリー・オブライト、チャーリー・ハース、アレックス・ライト、アントニオ猪木、ジャンボ鶴田、前田日明、ジョージ高野、谷津嘉章、高山善廣(エベレスト・ジャーマン・スープレックスの名称で使用)、中西学、福田雅一、佐藤耕平、中邑真輔、オカダ・カズチカ、諏訪魔、竹下幸之介。
- ハイクラッチ式
- 相手の背後に回り込んで相手の背中を両手で抱え込み、自身の両手を相手の、みぞおちあたりでクラッチして体をブリッジさせる勢いで相手を後方へと反り投げて肩口から叩きつけてブリッジを崩さずにフォールを奪う。主な使用者は杉浦貴。
- ダルマ式
- 相手の背後に回り込んで相手の右腕の外側に右腕を左腕の外側に左腕を回し、相手の両腕と胴体を抱きかかえるように自身の両手をクラッチして体をブリッジさせる勢いで相手を後方へと反り投げて肩口から叩きつけてブリッジを崩さずにフォールを奪う。主な使用者は高山善廣(ダルマ式エベレスト・ジャーマン・スープレックスの名称で使用)、棚橋弘至、飯伏幸太、みなみ鈴香、風間ルミ、中島安里紗、紫雷イオ。
- ロコモーション式
- 連続式、起き上がり小法師式とも呼ばれる。ジャーマン・スープレックスを仕掛けたあと相手を両腕でクラッチしたまま横に寝転がって仰向けから、うつ伏せに移って立ち上がりながら相手を起き上がらせてもう1度、ジャーマン・スープレックスを仕掛けてフォールを奪う。主な使用者はゲーリー・オブライト、クリス・ベノワ、マイケル・エルガン、菊地毅、茂木正淑、マイバッハ谷口、日向あずみ、紫雷イオ。
- ローリング式
- ジャーマン・スープレックスを仕掛けたあと両足でマットを蹴って自身の下半身を上方向へと跳ね上げてエビ固め風に丸まった相手にもう1度、ジャーマン・スープレックスを仕掛けてフォールを奪う。主な使用者はキャンディー奥津。
- マヤ式
- ジャーマン・スープレックスを仕掛けたあと両足でマットを蹴って自身の下半身を上方向へと跳ね上げてエビ固め風に丸まった相手の両腿の裏の上に跨る格好で着地して相手の体から腕を離しながら体をブリッジさせる勢いで相手を後方へと反り投げて肩口から叩きつけてブリッジを崩さずにフォールを奪う。主な使用者はウルティモ・ドラゴン、スペル・デルフィン(デルフィン・スペシャル1号の名称で使用)。
- クロスアーム・スープレックス
- 右手で相手の左腕を左手で相手の右腕を、それぞれ掴み、掴んだ両腕を相手の胸の前で交差させて体をブリッジさせる勢いで相手を後方へと反り投げて肩口から叩きつけてブリッジを崩さずにフォールを奪う。主な使用者は保永昇男、ウルティモ・ドラゴン(アステカ・スープレックスの名称で使用)、高岩竜一、ツバサ、空牙、大石真翔、大和ヒロシ、竹下幸之介、希月あおい。
- ジャガー・スープレックス
- ジャガー横田のオリジナル技。向かい合った相手の右腕を左手で左腕を右手で掴み、自身の右腕の下を相手に潜らせて相手の背後に回り込み、掴んでいた両腕を交差させて体をブリッジさせる勢いで相手を後方へと反り投げて肩口から叩きつけてブリッジを崩さずにフォールを奪う。
- クラッシュ・スープレックス
- 長与千種のオリジナル技。相手の背後に回り込んで相手の両腕と胴体を抱きかかえるように両肘あたりでクラッチして体をブリッジさせる勢いで相手を後方へと反り投げて肩口から叩きつけてブリッジを崩さずにフォールを奪う。
- あすなろスープレックスII
- 山田恵一のオリジナル技。相手の背後に自身の体を回り込ませて相手の右腕を抱き込むような感じで自身の右腕を相手の胸の方に回し、右手で相手の左手首を掴み、背中の方から相手の左脇に差し込んだ左手で自身の右手首を掴み、体をブリッジさせる勢いで相手を後方へと反り投げて肩口から叩きつけてブリッジを崩さずにフォールを奪う。
- トルネード・ジャーマン・スープレックス
- 中嶋勝彦のオリジナル技。相手の背後に回り込んで相手の腰に左腕を引っ掛けて、外腿の方から相手の右腿の裏に右手を回し、相手の、へそのあたりで自身の両手をクラッチして体をブリッジさせる勢いで相手を後方へと反り投げて肩口から叩きつけてブリッジを崩さずにフォールを奪う。
- クロイツ・ラス
- ケニー・オメガのオリジナル技。相手を肩車の要領で担ぎ上げて相手の両腿を下からブッシュアップして相手の体を軽く宙に浮き上がらせて浮き上がった相手の股の間から自身の頭を引き抜いて落下する相手の胴体を背後から両手で抱え込み、相手の両足がマットに着地する前に体をブリッジさせてジャーマンスープレックスを仕掛けてフォールを奪う。
- カオスセオリー・スープレックス
- ロールスルー・ジャーマン・スープレックスとも呼ばれる。ダグ・ウイリアムスのオリジナル技。相手の背後に回り込んで腰を両手で抱え込み、相手の体をタックルするような感じで後ろから押して相手の体を正面からコーナーに衝突させて相手が跳ね返る反動を利用して相手を抱えたまま自身の体を後転させて自身の両足がマットに着地したところで体をブリッジさせて無理やり引っこ抜いた相手にジャーマン・スープレックスを仕掛けてフォールを奪う。
- ターンバックル・ジャーマン・スープレックス
- ゲーリー・オブライトのオリジナル・ムーブ。相手の背後に回り込んで相手の腰を両手で抱え込み、自身の両手を相手の、へそのあたりでクラッチして体をブリッジさせる際に相手の体を抱えていた両手のクラッチを切って相手を後方へと反り投げて後頭部をターンバックルに打ちつける。主な使用者は杉浦貴、潮崎豪。
- スパイダー・ジャーマン・スープレックス
- 折原昌夫のオリジナル・ムーブ。リングに背を向ける格好で相手をコーナー最上段に座らせて自身もコーナー最上段に登って相手の背後に腰を下ろして相手の腰を両手で抱え込み、自身の両手を相手の、へそのあたりでクラッチして胴体を抱え込み、自身の両足のつま先をセカンドロープに引っ掛けて、相手の体を投げっ放し式ジャーマン・スープレックスでコーナーからリングに放り投げたあと腹筋を使って宙吊りの状態になった自身の体を引き起こす。主な使用者は天龍源一郎、真壁刀義、大和ヒロシ、日向あずみ、沖野小百合。
なお、フロント・スープレックスやダブルアーム・スープレックスなどもあるが、これらをスープレックスと呼ぶのは厳密には正確ではない。また、以下の派生技も同様である。
防御法
- 肘で相手の頭を打ちつけて脱出する(脱出に成功した場合は素早く相手の背後に回り込んで、ひるんだ相手の背後を取ることが可能であり、相手にジャーマン・スープレックスを仕掛けるチャンスがある)。
- 手で強引に相手の腕のクラッチを解いて脱出する。
- 自身の足を相手の脚の後ろに回してフックする(その後、エルボーなどで脱出する)。
- 投げようとする隙を突き、相手の腕をホールドしたまま前転して丸め込み、ピンフォールに持ち込む。
- 後方へと相手の股間を蹴り上げる(急所攻撃のため一般に反則であるが蹴り上げると同時にレフェリーにすがりついて自身の蹴りを見せないようにする者もいる)。
- 投げられた瞬間、後方へと身体を回転させてバック転の要領で足から着地する(投げっ放し式ジャーマン・スープレックスに対して特に有効である)。
- 投げられた瞬間、意図的に背後に跳んで背中から落ちることで直接首から落とされることによるダメージを軽減する。
- ロープに逃れる(このとき、ロープブレイク判定のため、レフェリーはロープを注視する。前述の「相手の股間の蹴り上げる」のチャンスでもある)。
- ロープに逃れて反動でジャパニーズ・レッグロール・クラッチに持ち込む。
その他
- 「ジャーマン」の由来はカール・ゴッチがドイツ出身とされていたためである。ゴッチは単にスープレックスと呼んでいる。
- アメリカではゴッチのジャーマン・スープレックスはアトミック・スープレックス(Atomic Suplex)と呼ばれている。
- ゴッチがジャーマン・スープレックスをはじめて日本で披露した際に東京スポーツの桜井康雄がインタビューでゴッチに技の名前を聞いて「ジャーマン・スープレックス」と答えたのでデスクに報告したがジャーマン・スープレックスの名称では紙面を飾りにくいと考えたデスクが「日本語じゃなんて言うんだ」と聞いた際に桜井がアメリカではゴッチのジャーマン・スープレックスがアトミック・スープレックスと呼ばれていることを参考に「原爆固めです」と答えたのが命名となったという[2]。
- 週刊プロレスでは原爆の被爆者に配慮して原爆固めの名称を使用していない。
- WWEでは首から落ちない(落とさない)ように掛けられる側がリングを蹴って反動をつけて肩から落ちている。とは言え日本のプロレスでも自身から跳んで叩きつけられるタイミングを捉えてダメージを軽減するのは受身の技術として立派に存在している。
- 総合格闘技の試合でもレスリング出身レスラーが希に使用することがある。UFCでダン・スバーンが連発で使用してファンを歓喜させた。総合格闘技の雑誌や公式サイトでは「ジャーマン」と略称で使用していることが多い。シュートボクシングでは競技の確立の手助けをしてくれたゴッチに敬意を表して「ジャーマン・スープレックス」とプロレスと同じ名称で使用している。
- 1974年3月19日、新日本プロレスの蔵前国技館大会で行われたアントニオ猪木対ストロング小林戦では一進一退の激闘の末に猪木がフィニッシュ・ホールドとして使用して勝利を収めた。日本人レスラー同士の試合という話題性と衝撃的なフィニッシュ・ホールドの結末に観客と視聴者に鮮烈な印象を残した。
- 2007年11月10日放送分のテレビ朝日系列の番組「タモリ倶楽部」でゴッチの追悼企画として「ジャーマン・スープレックス大賞」と題して有名な使い手(主にゴッチの弟子筋レスラー)が試合でジャーマン・スープレックスを仕掛けるシーンを集めて鑑賞するという企画が放送された。番組の中で紹介されたレスラーは登場順にゴッチ、藤波辰爾、初代タイガーマスク、前田日明、高田延彦、山崎一夫、越中詩郎、ヒロ斎藤、馳浩、リック・スタイナー、関本大介。
脚注
- ^ プロレスの神様 カール・ゴッチ その真実と真髄 センタースポーツ
- ^ 『リングの目激者』 都市と生活社 1983年 180Pから181Pより