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「髄鞘」の版間の差分

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2012年6月12日 (火) 12:31時点における版

髄鞘をもつ末梢ニューロンの模式図。軸索シュワン細胞が幾重にも巻き付くことによって髄鞘が形成されている。

神経科学において髄鞘 (ずいしょう、myelin sheath) は、脊椎動物の多くのニューロン軸索の周りに存在する絶縁性のリン脂質の層を指す。 ミエリン鞘とも言う。コレステロールの豊富な絶縁性の髄鞘で軸索が覆われる[1]ことにより神経パルスの電導を高速にする機能がある。

髄鞘はグリア細胞の一種であるシュワン細胞オリゴデンドロサイト (乏突起または稀突起グリア細胞、en:oligodendrocyte) からなっている。 シュワン細胞は末梢神経系の神経に髄鞘を形成し、一方オリゴデンドロサイトは中枢神経系の神経での髄鞘を形成している。 大脳では大脳皮質の内側に髄鞘化された神経細胞の軸索の繊維が集まっており、髄鞘によって見た目が相対的に白く見えるので、白質と呼ばれている。

神経細胞の構造図 en:Dendrites=樹状突起en:Rough ER (en:Nissl body)=粗面小胞体ニッスル小体)、en:Polyribosomes=ポリリボソームen:Ribosomes=リボソームen:Golgi apparatus=ゴルジ体en:Nucleus=細胞核en:Nucleolus=核小体en:Membrane=en:Microtubule=微小管en:Mitochondrion=ミトコンドリアen:Smooth ER=滑面小胞体en:Synapse (Axodendritic)=シナプス軸索樹状突起en:Synapse=シナプスen:Microtubule en:Neurofibrils=微小管ニューロフィラメントen:Neurotransmitter=神経伝達物質en:Receptor=受容体en:Synaptic vesicles=シナプス小胞、en:Synaptic cleft=シナプス間隙、 en:Axon terminal=軸索末端、en:Node of Ranvier =ランヴィエの絞輪en:Myelin Sheath(en:Schwann cell)=ミエリン鞘シュワン細胞)、en:Axon hillock=軸索小丘en:Nucleus (en:Schwann cell)=細胞核シュワン細胞)、en:Microfilament=マイクロフィラメントen:Axon=軸索

髄鞘の機能

髄鞘は伝導性が低いために、髄鞘化されていることによって神経繊維の内外の抵抗は5000倍に、静電容量は50分の1となる。この絶縁性の高い髄鞘が存在することの主たる機能は、髄鞘化された神経線維(有髄繊維)に沿った神経パルスの伝導速度が速くなることである。繊維は完全に髄鞘に覆われているわけではなく、数十 µm から数 mm おきに存在する間隙を残して髄鞘化されている。この間隙はランヴィエの絞輪と呼ばれている。髄鞘化されていない繊維では神経パルスは連続的に伝わるが、繊維がランヴィエの絞輪を残して髄鞘化され絶縁されることによって、パルスはこれらの間隙の間を跳躍的に伝導する。これを跳躍伝導という。ランヴィエの絞輪にはパルスの伝導にかかわるイオンチャネルが特に多く存在している。髄鞘が傷害される脱髄疾患では神経の伝導速度が低下するため、多様な症状が起こることとなる。

また髄鞘は軸索から電流が漏れ、短絡することを防いでいる。 さらに末梢の神経線維が切断されたときにも、髄鞘は繊維が再生するための経路を確保する。しかし哺乳類中枢神経系では髄鞘化されているかどうかに関わらず繊維は再生しない。

スフィンゴ脂質の一種であるスフィンゴミエリン(Sphingomyelin)(SPH)は、動物の細胞膜中に存在しており、特に神経細胞軸索を膜状に覆うミエリン鞘の構成成分としてよく知られている。

脱髄疾患及び髄鞘形成不全疾患

脱髄は、神経絶縁しているミエリン鞘の崩壊であり、白質ジストロフィen:Leukodystrophy)、シャルコー・マリー・トゥース病のような多発性硬化症急性散在性脳脊髄炎、横断性脊髄炎(en:transverse myelitis)、慢性炎症性脱髄性多発性神経炎ギラン・バレー症候群、中央脳梁ミエリン症(en:central pontine myelinosis)、遺伝性脱髄疾患を含む代表的な神経変性である自己免疫疾患である。悪性貧血を罹患している患者は、迅速に適切な診断がなされなければ、神経損傷をも罹患することになる。悪性貧血に続く亜急性連合性脊髄変性症は、些細な末梢神経障害から会話認識意識などをつかさどる中枢神経に重大な損傷を与えることができる。ミエリンが崩壊すると、神経に沿った信号伝達が障害を受け、失われ、ついには神経が失われてしまう。

腫瘍壊死因子(TNF)[2]インターフェロンの指令を受けたサイトカインの過剰生産により脱髄を生じさせている炎症を含めた疾患が免疫系の関連で脱髄に関係しているかもしれない。


脚注

  1. ^ http://www.jmi.or.jp/qanda/bunrui3/q_042.html コレステロールの体内での働きは?
  2. ^ Ledeen RW, Chakraborty G (March 1998). “Cytokines, Signal Transduction, and Inflammatory Demyelination: Review and Hypothesis”. Neurochem. Res. 23 (3): 277–89. doi:10.1023/A:1022493013904. PMID 9482240. http://www.ingentaconnect.com/content/klu/nere/1998/00000023/00000003/00421003. 

参考文献

  • 『生理心理学』、サイエンス社、岡田隆・廣中直行・宮森孝史 共著