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{{Otheruses|英語でいう悪役の[[ヴィラン]]|[[ディズニー作品]]の悪役|ディズニー・ヴィランズ|[[アメリカンコミック]]の悪役|スーパーヴィラン}} |
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[[ファイル:Villainc.svg|thumb|230px|[[漫画]]などで描かれる悪役の[[ステレオタイプ]]]] |
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[[ファイル:Toshusai Sharaku- Otani Oniji, 1794.jpg|thumb|230px|[[歌舞伎]]の有名な敵役(悪形)、江戸兵衛({{small|えどべえ}})/画像は、[[東洲斎写楽]]の[[役者絵|役者]][[大首絵]]『三代目大谷鬼次の奴江戸兵衛』で、[[主人公]]から大金を奪い盗ろうとにじり寄る悪人・江戸兵衛を演じる[[歌舞伎役者]]・三代目[[大谷鬼次]](二代目[[中村仲蔵]])を描いたもの。<ref group="*">本図のために取材された演目『恋女房染分手綱』は[[寛政]]6年([[1794年]])上演で、本図も同年に刊行されている。</ref>]] |
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'''悪役'''(あくやく、Villain・ヴィラン)とは、[[映画]]・[[テレビドラマ]]・舞台演劇・[[小説]]などに登場する悪人の役。'''憎まれ役'''(にくまれやく)とも呼ばれる。また、そこから転じて[[マスメディア]]に[[バッシング]]されている人物、組織内で人に憎まれている人物を指すことも多い。日常会話でも「~に回る」、「~に徹する」と使われる。 |
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'''悪役'''(あくやく)は、第一義には[[物語]]性のある[[芝居]]やその他の作品全般において悪人を演じる[[役]]、また、その演者をいう<ref name="大辞泉">『[[大辞泉]]』</ref><ref name="大辞林">『[[大辞林]]』第3版</ref>。 |
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第二義には、第一義から転じて[[比喩]]的に'''憎まれ役'''(他者から憎まれる役回り)<ref name="大辞林" />を指す。 |
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さらには、人間の織りなす[[歴史]]を物語に譬える[[概念]]の下、特定の[[価値観]]において悪人と見える立ち回りの目立つ人物を「悪役」呼ばわりすることもある。また、[[政治]]的意図をもって悪人もしくは悪役に仕立て上げられる人物がいるのも、歴史である<ref group="*">例えば、[[徳川氏|徳川]]史観での[[石田三成]]。</ref>。 |
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[[歌舞伎]]では、「悪役」の第一義を指して、'''悪人形'''<ref name="大辞泉" /> / '''悪人方'''<ref name="世百典-敵役" /><ref name="大辞林" />(あくにんがた)、'''悪形''' / '''悪方'''(あくがた)<ref name="大辞泉" />、'''悪方'''(いやがた)<ref name="世百典-敵役" />など、様々に呼んでいたが、最終的には「悪役」とはニュアンスの異なる「'''[[敵役]]'''(かたきやく)」という言い回しに落ち着いた<ref name="世百典-敵役">[[平凡社]]『[[世界大百科事典]]』「敵役」</ref><ref group="*">なお、[[勧善懲悪]]と役回りの固定化が様式として特徴的な歌舞伎という[[演劇]]においては、「悪役」と「敵役」が[[同義語]]になり得るが、歌舞伎以外の全般においてはそうとは限らない。</ref>。 |
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== 概要 == |
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この悪人役を演じることの多い俳優は'''悪役俳優'''と呼ばれ、これを専門的に演ずる者もいる。特に粗暴犯や暴力団構成員・ギャング、あるいは権力に結託した悪人の役を指すことが多い。特に時代劇や[[刑事ドラマ|刑事アクションドラマ]]など、悪役が組織で戦闘を繰り広げるものでは、有名無名の悪役俳優たちが入り乱れ、迫真の演技力で主役を引き立てて倒されて行く。また、[[東映]]の[[京都]]撮影所など[[時代劇]]が多く製作される場所では、悪役側の戦闘要員としてクライマックスの大立ち回りにのみ映像に登場し、主人公に斬られる演技を多くこなす、あるいはこの役を専門的に演ずる俳優もいるが、これについては'''斬られ役'''とも言う。 |
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== 古典文学 == |
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この悪役俳優と主役(または主人公側の人物を演じる俳優)は劇中では敵味方であるが、作品出演を通じて役者としての格を超えて、強い仲間意識を持つことも多い。主役級の俳優が物語上重要な悪役などを演ずる時に、役作りの方法や演技での表現技法について、役者としての格は関係なく、本職といえる悪役俳優へと教えを乞いに行くことも珍しくない。逆に主役俳優が自分の名前で舞台興行を行う時に、その演技力や人柄を見込んで、テレビなどでは知名度の低い悪役俳優を指名して起用することも見られる。 |
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古典文学では、悪役のキャラクターは、近代やポストモダンの作品に登場するものとは必ずしも同じではない。というのも、道徳観の境界線が[[曖昧]]な感覚を示すためにぼかされたり、歴史的背景や文化的な考え方に影響されたりすることが多いからである。古典文学においてヒーローとヴィランの定義は、はっきりしないことがよくある<ref>{{cite news |title=The greatest villains in literature |url=https://www.telegraph.co.uk/books/what-to-read/greatest-villains-literature/ |access-date=March 26, 2019 |work=[[The Daily Telegraph]] |date=September 8, 2017}}</ref>。 |
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[[ウィリアム・シェイクスピア]]は、悪役の原型を三次元的な特徴を持つようにモデル化し、現代文学で悪役が見せる複雑な性質に道を開いた。しかし、シェイクスピアが歴史上の人物を描写する際には、チューダー朝の情報源からもたらされるプロパガンダ作品の影響を受けており(彼の作品にはそのような[[偏り]]が見られる)、彼らの評判を落とすことが多かった。例えば、シェイクスピアは[[リチャード3世]]を、腹立ち紛れに一族を滅ぼした醜い怪物として描いたことで有名である<ref>{{cite journal |last1=Blakeney |first1=Katherine |title=Perceptions of Heroes and Villains in European Literature |journal=Inquires Journal |date=2010 |volume=2 |issue=1 |url=http://www.inquiriesjournal.com/articles/119/perceptions-of-heroes-and-villains-in-european-literature |access-date=March 25, 2019}}</ref>。 |
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悪役を演じる俳優は、その役柄とは対照的に、時に主役級の俳優以上に実生活における[[道徳|モラル]]や金銭などに対して高潔であり、自身を厳しく律している人物も多い。ドラマや映画では[[悪人]]役でも実際の家庭では良き父親・夫という例も少なくない。また、良からぬ[[噂|ゴシップ]]は少ない傾向にある。 |
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== 民話や童話 == |
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かつての1950年代~1970年代には[[アクション映画]]や[[時代劇]]が多かったためか、あるいは当時の俳優に戦時下などで苦労した人も多かったせいか、「いかにも悪役らしい」影や憎々しさを自在に強調できる俳優も多かった。しかし1990年代以降にデビューした俳優には、社会の変化などによる勧善懲悪の物語の質的な変化もあったからか、そうした悪役然とした影は弱まり、「こんな優しい顔の敵役を斬ってもいいのか」という俳優も増えている。また、善悪渾然としたキャラクターや善人面をして[[悪事]]を働く[[キャラクター]]も多いなど、従来の悪役像が成り立たなくなっている面もあり、現在では悪役としての表現技法は多様化している。 |
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=== ロシアの童話 === |
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ロシアの[[童話]]を分析した[[ウラジーミル・プロップ]]は、大部分の物語には8つの「{{仮リンク|ドラマチス・ペルソナ|en|dramatis personae}}」しかなく、そのうちの1つは悪役であると結論づけている<ref name="Propp">{{cite book |author1=Vladimir Propp |author-link1=Vladimir Propp |title=Morphology of the Folk Tale |date=1968 |publisher=University of Texas Press |isbn=0292783760 |edition=2nd |url-access=registration |url=https://archive.org/details/morphologyoffolk00prop|access-date=September 5, 2019}}</ref>{{rp|79}}。この分析は、ロシア以外の物語にも広く適用できると考えられている。悪役の領域に該当する行為は以下の通りである。 |
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* 物語の発端となる悪事や悪行で、悪役が主人公やその家族に[[危害]]を加えるもの |
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* 主人公と悪役の間の対立、また、戦いやその他の競い合い |
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* 主人公が戦いに勝利したり、悪役から何かを得ることに成功した後に、主人公を追いかける。 |
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これらの特徴を持つキャラクターは、必ずしも童話というジャンルに特有の比喩的な存在ではないが、特定の行為を行う者が悪役であることを意味している。そのため、悪役は、物語の冒頭で登場する場合と、主人公が探し求める人物として登場する場合と、1つの物語の中で2回登場し、一定の役割を果たすことになる<ref name="Propp"/>{{rp|84}}。 |
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なお、現代は表現・価値観の多様化やインターネットの普及を背景に、いわゆる「大部屋俳優」などとも言われる無名の悪役俳優たちにも従来より多くの注目を集める者が現れてきている。その代表例としては、毎週の如く時代劇で斬られていたことでベテランの域に達してから「あれは何者か?」という話題と注目を集め、[[ハリウッド]]映画にまで出演した[[福本清三]]が知られている。 |
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ウラジーミル・プロップの分析と一致する行動や特徴を持ったキャラクターは、純粋な悪役として認識されることになる。民話やおとぎ話の悪役は、物語に影響を与えたり、進めたりする無数の役割を果たすこともある。童話では、悪役が影響力のある役割を果たすことがある。例えば、主人公と戦って逃げた[[魔女]]を主人公が追いかけるのは、魔女が「導き手」の役割を果たしていることにもなり、結果的に手助けする者としての役割を果たしていることになる<ref name="Propp"/>{{rp|81}}。 |
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また、プロップは、物語の中での悪役の役割について、より一般的な意味で悪党っぽく描くことを可能にする別の2つの{{仮リンク|アーキタイプ|label=原型|en|Archetype|preserve=1}}を提示した。一つ目は、「{{仮リンク|偽りの主人公|en|false hero}}」である。このキャラクターは常に極悪であり、[[ハッピーエンド]]のために主人公は打破されなければならないという誤った主張を提示する<ref name="Propp"/>{{rp|60}}。この特徴を示し、物語の主人公の成功を妨害するキャラクターの例としては、靴に合わせるために足の一部を切り落とした『[[シンデレラ]]』の醜い義姉たちが挙げられる<ref>{{cite book |author1=Maria Tatar |author-link1=Maria Tatar |title=The Annotated Brothers Grimm |date=2004 |publisher=[[W. W. Norton & Company|W.W. Norton]] |isbn=0393058484 |page=136 |edition=1st}}</ref>。 |
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悪役のもう一つの役割は、主人公を[[クエスト (物語)|クエスト]]に送り出す「派遣者」である。物語の最初の段階では、彼らの依頼は善意や無邪気なものに見えるかもしれないが、派遣者の本当の意図は、彼らを排除することを望んで主人公を旅に送ることかもしれない<ref name="Propp"/>{{rp|77}}。 |
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また、悪役が物語に与える役割や影響は、他のキャラクターに引き継がれることもあり、他のキャラクターを通して物語の中でその役割を継続させることができる。悪役の遺産はしばしば[[血統]]のもの(家族)や献身的な支持者によって引き継がれることが多い。例えば、[[ドラゴン]]が悪役を演じていたが主人公に殺されてしまった場合、別のキャラクター(ドラゴンの妹など)が前の悪役の遺産を受け継ぎ、復讐のために主人公を追いかけるかもしれない<ref name="Propp"/>{{rp|81}}。 |
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=== 悪役のアーキタイプ === |
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おとぎ話のジャンルでは、物語を推し進め、主人公の旅に影響を与える重要な要素として悪役が登場する。これらは、他の文学作品に登場するような洗練されたものではないが、[[アーキタイプ]]として知られている。アーキタイプの悪役は、このジャンルではよく登場し、主人公や物語に異なる影響を与える様々なカテゴリーに分類される。 |
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==== 偽のドナー(贈与者)==== |
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'''偽のドナー'''とは、目的を達成するために[[トリックスター|策略]]を用いる悪役である。多くの場合、偽のドナーは善意の人物を装い、主人公(またはその関係者)に影響を与え、取引を持ちかける。その取引は、それを受け入れた者に短期的な解決策や利益を提示し、その代わりに長期的には悪役に利益をもたらす。物語のクライマックスでは、主人公は悪役を倒すために、あるいはハッピーエンドを達成するために、お互いの合意を修正する方法を見つけなければならないことが多い。 |
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同様に、[[悪魔]]のアーキタイプもまた、主人公(またはその関係者)に申し出をして、そのニーズや欲望に訴えかけるものである。しかし、悪魔はその意図を主人公に隠すことはない。その後のストーリーでは、被害が拡大する前に合意を破棄/取り消ししようとする主人公の旅が描かれることが多い。 |
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==== ビースト(野獣)==== |
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'''ビースト'''とは、自らの目的を達成するために、[[本能]]や破壊を引き起こす能力に頼るキャラクターのことである。彼らの行動の悪意は、他者(または他者の[[幸福]])への配慮や繊細さを欠いた行動であるため、容易に識別できることが多い。暴れまわる悪役は、非常に強力な個人や暴れまわる獣の形態をしているが、破壊との親和性のため、より危険な悪役の典型の一つとなっている。 |
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==== オーソリティ・フィギュア ==== |
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'''オーソリティ・フィギュア'''とは、すでに一定の地位と権力を獲得しているが、常にそれ以上のものを求めている人物である。彼らは、[[富|物質的な豊かさ]]や著名な地位、強大な権力への欲求に駆られ、[[君主]]や[[コーポレーション]]のトップ、その他の権力者として登場することがよくある。彼らの最終的な目標は、神秘的な手段や政治的工作によって、企業、国家、または世界を完全に支配することである。多くの場合、この悪役は自分の欲やプライド、傲慢さによって倒されることになる。 |
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==== トレイター(裏切り者)==== |
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'''トレイター'''は、目的を達成するために、策略、裏工作、欺瞞の特性を強調する悪役である。その目的は、多くの場合、自らの自由や安全と引き換えに主人公の敵対者に情報を提供し、彼らの旅を止めることにある。トレイターの目的は必ずしも悪ではないが、その目的を達成するために行う行動は本質的に悪であると考えられている。 |
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== 脚注 == |
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=== 注釈 === |
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=== 出典 === |
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2024年8月12日 (月) 02:13時点における最新版
悪役(あくやく)は、第一義には物語性のある芝居やその他の作品全般において悪人を演じる役、また、その演者をいう[1][2]。 第二義には、第一義から転じて比喩的に憎まれ役(他者から憎まれる役回り)[2]を指す。 さらには、人間の織りなす歴史を物語に譬える概念の下、特定の価値観において悪人と見える立ち回りの目立つ人物を「悪役」呼ばわりすることもある。また、政治的意図をもって悪人もしくは悪役に仕立て上げられる人物がいるのも、歴史である[* 2]。
歌舞伎では、「悪役」の第一義を指して、悪人形[1] / 悪人方[3][2](あくにんがた)、悪形 / 悪方(あくがた)[1]、悪方(いやがた)[3]など、様々に呼んでいたが、最終的には「悪役」とはニュアンスの異なる「敵役(かたきやく)」という言い回しに落ち着いた[3][* 3]。
概要
[編集]悪役は特に勧善懲悪などの要素を含む物語では必要不可欠の要素である。悪役がふてぶてしく立ち回ることにより主人公の存在感をより鮮明にし、また主人公やその仲間に倒されることで、見る者にカタルシス(浄化作用)を与える。基本的には物語の根底を彩り、主役たちを引き立たせる重要な存在である。したがって、悪役が魅力的であればあるほど物語の完成度は高くなる。
古典文学
[編集]古典文学では、悪役のキャラクターは、近代やポストモダンの作品に登場するものとは必ずしも同じではない。というのも、道徳観の境界線が曖昧な感覚を示すためにぼかされたり、歴史的背景や文化的な考え方に影響されたりすることが多いからである。古典文学においてヒーローとヴィランの定義は、はっきりしないことがよくある[4]。
ウィリアム・シェイクスピアは、悪役の原型を三次元的な特徴を持つようにモデル化し、現代文学で悪役が見せる複雑な性質に道を開いた。しかし、シェイクスピアが歴史上の人物を描写する際には、チューダー朝の情報源からもたらされるプロパガンダ作品の影響を受けており(彼の作品にはそのような偏りが見られる)、彼らの評判を落とすことが多かった。例えば、シェイクスピアはリチャード3世を、腹立ち紛れに一族を滅ぼした醜い怪物として描いたことで有名である[5]。
民話や童話
[編集]ロシアの童話
[編集]ロシアの童話を分析したウラジーミル・プロップは、大部分の物語には8つの「ドラマチス・ペルソナ」しかなく、そのうちの1つは悪役であると結論づけている[6]:79。この分析は、ロシア以外の物語にも広く適用できると考えられている。悪役の領域に該当する行為は以下の通りである。
- 物語の発端となる悪事や悪行で、悪役が主人公やその家族に危害を加えるもの
- 主人公と悪役の間の対立、また、戦いやその他の競い合い
- 主人公が戦いに勝利したり、悪役から何かを得ることに成功した後に、主人公を追いかける。
これらの特徴を持つキャラクターは、必ずしも童話というジャンルに特有の比喩的な存在ではないが、特定の行為を行う者が悪役であることを意味している。そのため、悪役は、物語の冒頭で登場する場合と、主人公が探し求める人物として登場する場合と、1つの物語の中で2回登場し、一定の役割を果たすことになる[6]:84。
ウラジーミル・プロップの分析と一致する行動や特徴を持ったキャラクターは、純粋な悪役として認識されることになる。民話やおとぎ話の悪役は、物語に影響を与えたり、進めたりする無数の役割を果たすこともある。童話では、悪役が影響力のある役割を果たすことがある。例えば、主人公と戦って逃げた魔女を主人公が追いかけるのは、魔女が「導き手」の役割を果たしていることにもなり、結果的に手助けする者としての役割を果たしていることになる[6]:81。
また、プロップは、物語の中での悪役の役割について、より一般的な意味で悪党っぽく描くことを可能にする別の2つの原型を提示した。一つ目は、「偽りの主人公」である。このキャラクターは常に極悪であり、ハッピーエンドのために主人公は打破されなければならないという誤った主張を提示する[6]:60。この特徴を示し、物語の主人公の成功を妨害するキャラクターの例としては、靴に合わせるために足の一部を切り落とした『シンデレラ』の醜い義姉たちが挙げられる[7]。
悪役のもう一つの役割は、主人公をクエストに送り出す「派遣者」である。物語の最初の段階では、彼らの依頼は善意や無邪気なものに見えるかもしれないが、派遣者の本当の意図は、彼らを排除することを望んで主人公を旅に送ることかもしれない[6]:77。
また、悪役が物語に与える役割や影響は、他のキャラクターに引き継がれることもあり、他のキャラクターを通して物語の中でその役割を継続させることができる。悪役の遺産はしばしば血統のもの(家族)や献身的な支持者によって引き継がれることが多い。例えば、ドラゴンが悪役を演じていたが主人公に殺されてしまった場合、別のキャラクター(ドラゴンの妹など)が前の悪役の遺産を受け継ぎ、復讐のために主人公を追いかけるかもしれない[6]:81。
悪役のアーキタイプ
[編集]おとぎ話のジャンルでは、物語を推し進め、主人公の旅に影響を与える重要な要素として悪役が登場する。これらは、他の文学作品に登場するような洗練されたものではないが、アーキタイプとして知られている。アーキタイプの悪役は、このジャンルではよく登場し、主人公や物語に異なる影響を与える様々なカテゴリーに分類される。
偽のドナー(贈与者)
[編集]偽のドナーとは、目的を達成するために策略を用いる悪役である。多くの場合、偽のドナーは善意の人物を装い、主人公(またはその関係者)に影響を与え、取引を持ちかける。その取引は、それを受け入れた者に短期的な解決策や利益を提示し、その代わりに長期的には悪役に利益をもたらす。物語のクライマックスでは、主人公は悪役を倒すために、あるいはハッピーエンドを達成するために、お互いの合意を修正する方法を見つけなければならないことが多い。
同様に、悪魔のアーキタイプもまた、主人公(またはその関係者)に申し出をして、そのニーズや欲望に訴えかけるものである。しかし、悪魔はその意図を主人公に隠すことはない。その後のストーリーでは、被害が拡大する前に合意を破棄/取り消ししようとする主人公の旅が描かれることが多い。
ビースト(野獣)
[編集]ビーストとは、自らの目的を達成するために、本能や破壊を引き起こす能力に頼るキャラクターのことである。彼らの行動の悪意は、他者(または他者の幸福)への配慮や繊細さを欠いた行動であるため、容易に識別できることが多い。暴れまわる悪役は、非常に強力な個人や暴れまわる獣の形態をしているが、破壊との親和性のため、より危険な悪役の典型の一つとなっている。
オーソリティ・フィギュア
[編集]オーソリティ・フィギュアとは、すでに一定の地位と権力を獲得しているが、常にそれ以上のものを求めている人物である。彼らは、物質的な豊かさや著名な地位、強大な権力への欲求に駆られ、君主やコーポレーションのトップ、その他の権力者として登場することがよくある。彼らの最終的な目標は、神秘的な手段や政治的工作によって、企業、国家、または世界を完全に支配することである。多くの場合、この悪役は自分の欲やプライド、傲慢さによって倒されることになる。
トレイター(裏切り者)
[編集]トレイターは、目的を達成するために、策略、裏工作、欺瞞の特性を強調する悪役である。その目的は、多くの場合、自らの自由や安全と引き換えに主人公の敵対者に情報を提供し、彼らの旅を止めることにある。トレイターの目的は必ずしも悪ではないが、その目的を達成するために行う行動は本質的に悪であると考えられている。
脚注
[編集]注釈
[編集]出典
[編集]- ^ a b c 『大辞泉』
- ^ a b c 『大辞林』第3版
- ^ a b c 平凡社『世界大百科事典』「敵役」
- ^ “The greatest villains in literature”. The Daily Telegraph. (September 8, 2017) March 26, 2019閲覧。
- ^ Blakeney, Katherine (2010). “Perceptions of Heroes and Villains in European Literature”. Inquires Journal 2 (1) March 25, 2019閲覧。.
- ^ a b c d e f Vladimir Propp (1968). Morphology of the Folk Tale (2nd ed.). University of Texas Press. ISBN 0292783760 September 5, 2019閲覧。
- ^ Maria Tatar (2004). The Annotated Brothers Grimm (1st ed.). W.W. Norton. p. 136. ISBN 0393058484