酵母エキス(こうぼエキス、Yeast extract) とは、酵母の利用形態のひとつで体自体を化学的に分解抽出した成分のことである。主成分としてアミノ酸核酸関連物質、ミネラル、ビタミン類を含み「調味料」[1]「微生物培養の培地」「家畜飼料」「健康補助食品」などに用いられる[2]。発酵機能や発酵産物(代謝物)を利用したパンや、アルコール飲料と並び多岐に利用されている[3]が主に加工食品の副原料として使用されるため一般消費者が酵母エキスを単体で見る事はほとんど無い。また、原料として利用される酵母は、出芽酵母( Saccharomyces cerevisiae )だけでは無く様々な酵母が利用されている[3]

酵母エキス加工食品のベジマイト

原料

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様々な発酵副産物と酵母がエキス原料として利用されている[2]。製紙産業の副産物を利用したトルラ酵母( Cyberlindnera jadinii ) [4][5]、水産食品加工工場[2]日本酒ワインビール工場でアルコール飲料の発酵タンクの底に沈んだなど原料とするならば出芽酵母( Saccharomyces cerevisiae )が原料となるが、水産物の加工工場由来の物質を原料とするならば、酵母原料にはen:Debaryomyces hanseniiの他にカンジダ( Candida albicans )、トリコスポロン属( Trichosporon ) などが含まれることもある[2]。なお、エキスとして加工されない場合、家畜飼料の原料[6]や他の食品残さと共にメタン発酵を経てバイオガス原料とされることもある[7]

原料の酵母

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例えば出芽酵母の場合、環境中から自家採捕した野良酵母(野生酵母)ではパンやアルコール類の製造において、大量生産時に安定した発酵特性を得ることが困難なため、最終目的製品の要求品質に合わせ選抜され純粋培養された菌株が使用されている。この手法はヨーグルトなどでも普通に利用されている技術である[8]が、後述の評論家は培養酵母を使うこと自体を批判している[9]

製造方法

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酵母エキスの製造法には、酵母菌体内に本来あるタンパク質分解酵素などを利用して菌体成分を可溶化してエキス分を得る自己消化法、微生物や植物などから得られる酵素製剤を添加して菌体成分を可溶化する酵素分解法、カツオや昆布の出汁を取る方法と同様に水を加熱して抽出する熱水抽出法、酸やアルカリにより可溶化する加水分解法や、これらを組み合わせた各種方法が知られている。

様々な製造方法があるが代表的なものは、

  1. 自己消化(酵素分解法):酵母自体が持っているプロテアーゼ核酸分解酵素あるいは微生物や植物などから得られる酵素製剤などで菌体あるいは菌体内の成分を分解する方法。酵母の自己消化物はイギリス帝国傘下のオーストラリアベジマイトを始めとして、マーマイト、プロマイト(Promite)、OxoCenovisなどの加工食品に用いられている。
  2. 熱水抽出法:酵母が持つ様々なうま味成分などの有効成分を取り出すために、カツオや昆布の出汁のように、酵母を煮詰めて取り出す方法。
  3. 加水分解(酸・アルカリ分解法):酸やアルカリで分解し有効成分を得る方法。なお、塩酸を用いて抽出した場合、この工程中でクロロプロパノール類等のが副産物として生成され最終製品残留する場合がある[10][11]事から、危険性を指摘する評論家もいる[9]

得られた液体は最終用途に向け、更に分離精製、濃縮、粉末化加工される。

用途例

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食品、健康補助食品、医薬品、化粧品、微生物培養培地などに利用される[5][12]。現在の食品と食品添加物との分類では、酵母エキスは食品添加物ではなく、醤油や昆布エキスなどと同様に食品に分類されている。

農業

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菌床栽培キノコ培地や野菜などの栽培に栄養剤として添加される事がある[7]

醸造添加物

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酢酸醸造や酒類、醤油の醸造の際に副原料として添加される事もある[13]

加工食品

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食品加工業界では、精製した化学調味料よりも高価ではあるが複雑な味が出しやすいため[14]、カップ麺など多く加工食品に使われている[9]

評論家の指摘

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美術大学出身の評論家沢木みずほは原料の酵母及び酵母エキスと使用食品に対し幾つかの指摘を行っている。

  1. 本来なら廃棄処理費用がかかる廃棄物であった使用済み酵母であった[9]
  2. ビール市場では廉価な発泡酒などが増加した結果、酵母の質は低下し栄養不足傾向となっている。そのため現在は酵母エキス用に純粋培養された酵母が使われるようになった[9]
  3. 週刊金曜日」誌上で、「今の酵母エキスの酵母は、天然の酵母菌などから取り出されたものではなく、人工的に作られた酵母から作られるものが増えている」と述べ、業界では天然酵母を使っていない事実を指摘したうえで[9]、「効率よくタンパク質を分解するため、分解に塩酸を用いる塩酸分解法が取られている。塩酸分解法による分解の際、発がん性物質と懸念されるクロロプロパノールなどの副生成物が少量生成される場合があるとの報告がある。食品添加物専門会議では安全性が発表されているが、沢木は健康を懸念する声もある」と指摘している[9]

しかし、評論家の沢木が使用する『天然酵母』との表現に対してはパン業界では、「天然酵母」との言葉に対する統一的な定義は無く、現在の日本では野生酵母を使用して製作した物品に対して使用されている事が多い[15]。また、酵母に天然を接頭語として使用する事で、

  1. 『自然』『安全』『ヘルシー』の優良なイメージ付け
  2. 工場由来の酵母が不健康との誤認を誘う表示

が行われている[15]として使用に関する問題提起がなされている[15]

脚注

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  1. ^ 酵母エキス 富士食品
  2. ^ a b c d 矢口淳一、千種薫、嶺岸令久、食品工場排水処理プロセスから回収した酵母および酵母エキスの有効利用 廃棄物学会論文誌 Vol.6 (1995) No.2 P.57-65, doi:10.3985/jswme.6.57
  3. ^ a b 石田賢吾、食品分野で広く活用される 酵母菌 JAS協会 (PDF)
  4. ^ 鈴木康男、宇田裕、奥井誠一、トルラ酵母脂質成分 (第1報) 中性脂質および燐脂質の分析 YAKUGAKU ZASSHI., Vol.85 (1965) No.1 P.72-76, doi:10.1248/yakushi1947.85.1_72
  5. ^ a b 酵母エキスとは 興人ライフサイエンス株式会社
  6. ^ 酵母発酵飼料 製造事業について 株式会社エスピージーフコク
  7. ^ a b 河村清史、有機性廃棄物の資源化技術 ―嫌気性消化によるメタン回収― 廃棄物学会誌 Vol.11 (2000) No.5 P.344-354, doi:10.3985/wmr.11.344
  8. ^ 佐々木泰子、ヨーグルトを造る乳酸菌共生発酵研究の最近の知見 日本乳酸菌学会誌 Vol.26 (2015) No.2 p.109-117, doi:10.4109/jslab.26.109
  9. ^ a b c d e f g 沢木みずほ(著)、小林和子(編)「新買ってはいけない 231 「から揚げ粉」にだって添加物いっぱい」『週刊金曜日』第25巻第8号、株式会社金曜日、2017年3月3日、58-59頁、2017年6月4日閲覧  第1126号、通巻1146号
  10. ^ 食品中のクロロプロパノール類に関する情報 平成25年4月1日最終更新 農林水産省
  11. ^ 鈴木仁、田端節子、木村圭介 ほか、各種調味料及び漬物中のクロロプロパノール類含有量調査 化学生物総合管理 2008年 4巻 1号 p.17-25, doi:10.11171/chemobio.4.17
  12. ^ リボ核酸RNA|エル・エスコーポレーション
  13. ^ 南場毅、竹内徳男、酵母エキス中の酢酸発酵促進物質の分画 酢酸菌の発酵促進物質に関する研究(第6報) 日本食品工業学会誌 Vol.28 (1981) No.10 P.534-541, doi:10.3136/nskkk1962.28.10_534
  14. ^ 青柳吉紀、新炉修、斉藤晋、高機能酵母エキスの開発と食品への利用 日本食品保蔵科学会誌 Vol.27 (2001) No.2 P.99-106, doi:10.5891/jafps.27.99
  15. ^ a b c 天然酵母表示問題に関する見解 日本パン技術研究所 (PDF)

関連項目

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外部リンク

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