波ダッシュ
波ダッシュ(なみダッシュ、wave dash[注釈 1])とは、日本語表記における約物のひとつで、波線「」(はせん、なみせん)を指している。ダッシュ記号(—)の波形であることからそう呼ばれる[注釈 2]。
日本語における用法の多くはダッシュ記号としての用法と長音符としての用法であり、中国語でも長音符などとして使われることがある。
Windows XP等における日本語環境下では、表示字形が「」ではなく、波形の反転した「」に変わってしまう問題が発生していた[注釈 3]。これに付随して、波ダッシュの代用として音声記号等として用いられる全角チルダが不適切に使われることがあるため、混乱の元となっている[1][注釈 4]。
用途
編集範囲
編集波ダッシュは、範囲を表すために用いられる[注釈 5]。
- 場所に対して: 東京〜大阪
- 時間に対して: 5時〜6時(もしくは5〜6時)
- 数量に対して: 100人〜150人(もしくは100〜150人)
一般に、波ダッシュの前後の語を限界として含む(100人〜150人の場合は、100人および150人を含む)。
日本語では、波ダッシュを「から」と読む。「……から……まで」のように、波ダッシュの後ろの語に「まで」を付けて読むこともある。
説明や副題など
編集本文の前に「〜概要〜」と示すような形で使用される。日本語では、この場合は波ダッシュを発音しない。
- 括弧のように2本の波ダッシュで囲むか、直前に1本だけ置くかのいずれか(ダッシュ記号(—)と同じ用法)。
- 「〜〜答え〜〜」などのように、波ダッシュを複数連続させる場合もある。
発信元など
編集「〜国技館」「フランス〜」などのように、発信元などを示す目的で使用される。日本語では、前に波ダッシュがついている場合も含めて、言葉の後ろに「から」とつけて読む。
任意の内容、もしくは省略
編集「〜する」「〜からの」のように前に記載されている言葉を省略する場合や、「寿限無寿限無〜」のように後ろが長いために省略する場合、「いつもいつも〜」などと同じ言葉が続く場合などで使用される。これらの用途はリーダーやダッシュでの用途とほぼ同じである。日本語で読む場合には前に付けて使用する場合は「なになに」や「ほにゃらら」、後ろにつけて使用する場合は「うんぬん」や「なんたらかんたら」、「なんとかかんとか」と読む[注釈 6]。
長音符として
編集長音符(ー)の代わりに用い、滑稽さや口語調であることを表す。また、一般の長音符よりも長いことを示す。(例: ですよね〜)日本語では、長音符を表記した場合と同じ発音になる。「あ〜〜〜」と複数連続で記述することにより、長さを表現することがある。
日本語以外でも日本語の長音に当たる表記を波ダッシュを用いて用いる。また、欧米言語での、日本語の翻訳物において長音を表現する手段として「マクロン」や「サーカムフレックス」を使用する代わりに波ダッシュを利用することがある。
また、これと同じようなものに「〰」などがあり、『阿Q正伝』の原文などにも使われているが別物である。
音楽が流れていることを示す
編集テレビなどの字幕放送などでは、「♬〜」と、BGMや音楽が流れていることを示す目的で使用される。たとえば、テレビ番組においてラジカセの電源を入れて音楽が流れたシーンにおいて使用される場合や、見えるラジオでラジオの番組上では音楽をかけているときに使用される場合がある。
罫線として
編集「〜〜〜〜〜」のような形で、罫線としての波線の代わりに、罫線素片のような使用法で用いられる。「〜・〜・〜・〜」のような一点鎖線のような例もある。
Unicodeに関連する問題
編集U+301C 波ダッシュ |
U+FF5E 全角チルダ | |
---|---|---|
JIS X 0208 | 1-33 |
|
JIS X 0213 | 1-1-33 |
˜ 1-2-18 |
JIS X 0221-1995 | [注釈 7] | |
現Unicode仕様書 | ||
Windows Vista以降、 Mac、Unixなど |
||
旧Unicode仕様書 (7.0以前) |
||
旧Windows環境 (Windows XP以前) |
Unicode 7.0以前の仕様書では“下がって上がる” 形「 」)で印刷されていた[3][注釈 8][注釈 9]。
日本では下記に述べる事情により、やむを得ないとはいえ、波ダッシュ (U+301C, WAVE DASH) を使うべきところに全角チルダ (U+FF5E, FULLWIDTH TILDE) を使ってしまう事例が多い。
また、波ダッシュ (U+301C, WAVE DASH) が環境によっては、「 」や「?」などへ文字化けを起こす機種依存文字となってしまっている[注釈 5]。
Unicode 8.0での訂正
編集2014年8月の提案書[4]にもとづきこの問題はUnicode 8.0にて訂正され[5][6][7]、最新仕様書では、U+301C WAVE DASH(波ダッシュ)に、JIS X 0208の波ダッシュの例示字形と同じ正しい形(“上がって下がる” 形「 」)が記載されている[8]。
Windowsにおいて起きる問題
編集Microsoft Windowsでは、Unicode 7.0以前の仕様書をそのまま踏襲したため問題が生じている。
符号位置
編集記号 | Unicode | JIS X 0213 | 文字参照 | 名称 |
---|---|---|---|---|
〜 | U+301C |
1-1-33 |
〜 〜 |
wave dash 波ダッシュ |
類似の符号
編集記号 | Unicode | JIS X 0213 | 文字参照 | 名称・補足 |
---|---|---|---|---|
~ | U+007E |
1-2-18 |
~ ~ |
TILDE 半角チルダ |
˜ | U+02DC |
- |
˜ ˜ ˜ |
SMALL TILDE |
῀ | U+1FC0 |
- |
῀ ῀ |
COMBINING GREEK PERISPOMENI (ギリシャ語) |
⁓ | U+2053 |
- |
⁓ ⁓ |
SWUNG DASH |
∼ | U+223C |
- |
∼ ∼ ∼ |
TILDE OPERATOR (数学記号) |
∿ | U+223F |
- |
∿ ∿ |
SINE WAVE |
〰 | U+3030 |
- |
〰 〰 |
WAVY DASH |
~ | U+FF5E |
1-2-18 |
~ ~ |
FULLWIDTH TILDE 全角チルダ |
脚注
編集注釈
編集- ^ Unicodeでは、wave dash(波ダッシュ): (U+301C)。他に、swung dash: ⁓ (U+2053)、fullwidth tilde: ~ (U+FF5E)、tilde operator: ∼ (U+223C)。
- ^ この記号の読み方は一般にあまり知られておらず、上記のほかに、波(なみ)、にょろなどと呼ばれることもある。また俗にミミズ、ナメクジと呼ばれることもある[要出典]。
- ^ 本稿の字形に関連する記述では、画像データを用いることで適切な形を表示させている
- ^ 音声記号としてのチルダは一部の言語において、英字の上に重ねて使用する。これにはプリンタのヘッドを1文字バックさせて英字と重ね印字するしかない。ASCII文字には波ダッシュそのものが無かったためチルダを波ダッシュがわりに使用した。この習慣が後に尾を引いて混乱の元になったと思われる。
- ^ a b 現状の日本語Wikipedia文書内では、波ダッシュ「 」の使用自体を避けることになっている(全角チルダの使用は原則禁止)。したがって、期間・範囲は「5時 - 6時(もしくは5 - 6時)」などと、波ダッシュとは異なる文字「 - 」で代用して表記するルールを用いている。
- ^ 欧米の言語でも、多言語間の辞書では見出し語を参照する目的で使用されることがある。
Tokyo Tokio
〜 Dome Tokyo Dome - ^ 初版 (JIS X 0221-1995) のみ。第2版 (JIS X 0221-1:2001) 以降は当時のUnicode仕様書と同じ「 」形。[2]
- ^ The Unicode Standard、Version 2.0より引用すると「JIS punctuation」(「JIS約物」)という注釈を施しておきながら、このような間違いが発生した理由は、Unicodeの例示字形を検討するグループにいたメンバーの日本語に対する知識が不十分だったために、縦書きの例示字形「 」を90度回転すればいいと誤って判断してしまったためである。[要出典]
- ^ 縦書きの表記においても、未確認少年ゲドーのタイトルに見られるように、逆に表記されている場合もある。
- ^ Windows Vista以降では、字形の問題点については、「メイリオ」フォントにおいてUnicodeの波ダッシュ (U+301C, WAVE DASH) が適切な波ダッシュの形である “上がって下がる” 形「 」になっている他、「MS ゴシック」など従来からのMS書体についても同様に修正されている。
- ^ Windows XPでも、繁体字中国語フォントの「MingLiU」であれば、波ダッシュを “上がって下がる” 形「 」で表示可能。バージョン3.21で確認。
- ^ 一方、Unicodeの全角チルダ (U+FF5E, FULLWIDTH TILDE) は正しく “上がって下がる” 形「 」で表示される。
- ^ Windows OS標準のIMEでは、全角モードで「301c + F5 キー」をキーボード入力すれば、正しい波ダッシュ (U+301C, WAVE DASH) が入力候補に現れる。
出典
編集- ^ 矢野啓介 (2001年3月). “波ダッシュはチルダではない”. 2012年2月12日閲覧。
- ^ 小形克宏 (2015年1月). “四半世紀ぶりにWAVE DASH 例示字形が統一”. 2015年2月23日閲覧。
- ^ “Unicode-3.2 CJK Symbols and Punctuation Range: 3000–303F” (PDF). 2016年5月17日閲覧。
- ^ “Proposal for the modification of the sample character layout of WAVE_DASH (U+301C)” (PDF). 2016年5月17日閲覧。
- ^ “Unicode 8.0.0”. 2015年7月18日閲覧。 Glyph Changesの箇所を参照
- ^ “Unicode 8.0 errata”. 2016年5月17日閲覧。
- ^ 小形克宏 (2015年3月7日). “UnicodeのWAVE DASH例示字形が、25年ぶりに修正された理由”. INTERNET Watch. 2015年3月7日閲覧。
- ^ “CJK Symbol and Punctuation (U+3000)” (PDF). 2016年5月17日閲覧。