怪物 (2023年の映画)
『怪物』(かいぶつ)は、2023年の日本映画。監督は是枝裕和、脚本は坂元裕二[4]。主演は安藤サクラ、永山瑛太、黒川想矢、柊木陽太[5]。第76回カンヌ国際映画祭において、脚本賞[6]、クィア・パルム賞[7]を受賞した。
怪物 | |
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Monster | |
監督 | 是枝裕和 |
脚本 | 坂元裕二 |
製作 |
川村元気 山田兼司 伴瀬萌 伊藤太一 田口聖 |
製作総指揮 | 臼井央 |
出演者 |
安藤サクラ 永山瑛太 黒川想矢 柊木陽太 高畑充希 角田晃広 中村獅童 野呂佳代 黒田大輔 田中裕子 |
音楽 | 坂本龍一 |
撮影 | 近藤龍人 |
制作会社 | AOI Pro. |
製作会社 | 「怪物」製作委員会 |
配給 |
東宝 ギャガ |
公開 | |
上映時間 | 126分 |
製作国 | 日本 |
言語 | 日本語 |
興行収入 | 21.5億円[3] |
公開3週目である6月18日(日)の時点で190以上の国や地域でも展開されることが決定した[8]。
あらすじ
大きな湖の岸辺の町で起きた雑居ビル火災に始まり、物語は3人の視点で描かれる。
シングルマザーの麦野沙織は、小学5年の息子・湊(みなと)と一緒に消火活動を自宅から眺めている。湊が将来健康なまま成長することだけを生き甲斐に働き、子育てする沙織。だが湊は学校で怪我をしたり落ち込んだりと様子がおかしかった。問い詰める沙織に、「自分の脳は豚の脳と入れ替わっている。担任の保利(ほり)道敏にそう言われた」と話す湊。
担任と話そうと小学校に向かう沙織。だが、校長や教頭たちは頭を下げるばかりで事を荒立てようとしたがらなかった。何度も学校に押しかける沙織に、湊が同級生の星川依里(より)という少年をいじめていると話す保利。しかし依里はいじめられていない、保利が湊に暴力を振るったと証言した。保護者会で謝罪させられ、退職に追い込まれる保利。
雑居ビル火災の夜、恋人にプロポーズする保利。教師である彼は教室で暴れる湊を止めようとして肘が湊の鼻に当たり、鼻血を出させてしまった。母親の沙織が学校に来たと聞いて説明しようとするが、校長や教頭たちはトラブルを嫌い、保利に謝罪しか許さなかった。
星川依里は友達がおらず、宇宙人と呼ばれて同級生たちの標的になっている少年だった。湊にいじめられた確証を得ようと星川家を訪ねる保利。依里のシングルファーザーの父親は息子を化け物と呼び、頭に豚の脳が入っているから人間に戻そうとしていると平然と保利に語った。
週刊誌に暴力教師と書かれ、恋人も離れて行き、精神的に追い詰められる保利。退職し、引っ越しの準備中に無意識に依里の作文の添削を始めた保利はあることに気づき、姿を消した湊と依里を沙織と共に探しに行く保利。
雑居ビル火災の夜。ライターを持って出歩き、翌朝の登校時に湊に、深夜2時まで起きていたと話す依里。湊と依里はすでに友達になっていたが、湊はいじめに合う事を恐れ、人前では話さないと依里に約束させていた。湊が教室で暴れ、保利の腕が当たって鼻血を出した時、湊はいじめられる依里から同級生たちの注意を逸らそうとしていた。
依里が見つけたという、廃トンネルの先にある捨てられた鉄道車両を秘密基地にして、二人きりで仲良く過ごす湊たち。湊にとって、母親の願いはストレスでしかなく、依里は自身を嫌悪する父親から折檻を受けていた。依里は「ビッグランチ(ビッグクランチの誤用)」が起こると宇宙が収縮を始め、時間が逆行するので、生まれ直す事が出来ると湊に話した。生まれ直す日を迎える準備を始める湊と依里。
依里が転校することになり、別れに怯える湊。大型の台風が接近する中、父親に折檻されて朦朧としている依里を助けた湊は、「ビッグランチが来る」と言って二人で廃電車の秘密基地に向かった。土砂崩れで横倒しになる廃電車。這い出した湊と依里は、「生まれ変わった?」「元のままだよ」と、楽しそうに光の中に走って行った。
キャスト
- 麦野早織(むぎの さおり)
- 演 - 安藤サクラ[10]
- シングルマザー。
- 保利道敏(ほり みちとし)
- 演 - 永山瑛太[10]
- 湊、依里の担任教師。
- 麦野湊(むぎの みなと)
- 演 - 黒川想矢[10](幼少期・黒川晏慈)
- 早織の息子。小学5年生。
- 星川依里(ほしかわ より)
- 演 - 柊木陽太[10]
- 湊の同級生。小学5年生。
- 品川友行
- 演 - 黒田大輔[11]
- 小学校の学年主任。
- 神崎信次
- 演 - 森岡龍[12]
- 湊が2年生の時の担任教師。
- 八島万里子
- 演 - 北浦愛[13]
- 保利の同僚の教師。
- 蒲田大翔
- 演 - 小林空叶[14]
- 湊、依里の同級生。
- 広橋岳
- 演 - 柳下晃河[15]
- 湊、依里の同級生。
- 浜口悠生
- 演 - 金光泰市[16]
- 湊、依里の同級生。
- 木田美青
- 演 - 飯田晴音[17]
- 湊、依里の同級生。
- ミスカズオ
- 演 - ぺえ[18]
- 女装タレント。
- 広橋理美
- 演 - 野呂佳代[19]
- 岳の母親。
- 伏見の夫
- 演 - 中村シユン[20]
- 伏見校長の夫。現在、収監中。
- 鈴村広奈
- 演 - 高畑充希[10]
- 保利の恋人。
- 正田文昭
- 演 - 角田晃広[10]
- 湊、依里が通う小学校の教頭。
- 星川清高
- 演 - 中村獅童[10]
- 依里の父でシングルファーザー。
- 伏見真木子
- 演 - 田中裕子[10]
- 小学校の校長。
- 黒田莉沙
- 演 - 小畑葵[21]
- 湊、依里の同級生。
- 藤森日和
- 演 - 石橋実都[22]
- 湊、依里の同級生。
- 小松瑛多
- 演 - 志村瑛多[23]
- 湊、依里の同級生。
- 前坂恭子
- 演 - 片山萌美[24]
- 雑誌の記者。
- 消防隊員
- 演 - 松浦慎一郎[25]
- 保健室の先生
- 演 - 大田路[26]
- タレント
- 演 - ゆってぃ[27]
- テレビ番組に登場するタレント。
スタッフ
- 監督:是枝裕和
- 脚本:坂元裕二
- 音楽:坂本龍一[10]
- 製作:市川南、依田巽、大多亮、潮田一、是枝裕和
- エグゼクティブプロデューサー:臼井央
- 企画・プロデュース:川村元気、山田兼司[4]
- プロデューサー:伴瀬萌、伊藤太一、田口聖
- ラインプロデューサー:渡辺栄二
- 撮影:近藤龍人
- 照明:尾下栄治
- 録音:冨田和彦
- 音響効果:岡瀬晶彦
- 編集:是枝裕和[1]
- 美術:三ツ松けいこ
- セットデザイン:徐賢先
- 装飾:佐原敦史、山本信毅
- 衣装デザイン:黒澤和子
- 衣装:伊藤美恵子
- ヘアメイク:酒井夢月
- キャスティング:田端利江
- スクリプター:押田智子
- 助監督:森本晶一
- 制作担当:後藤一郎
- 配給:東宝、ギャガ[4]
- 制作プロダクション:AOI Pro.
- 製作:「怪物」製作委員会(東宝、ギャガ、フジテレビジョン、AOI Pro.、分福)[10]
主な受賞・選出
- 第76回カンヌ国際映画祭 [38]
- クィア・パルム賞
- カンヌ国際映画祭 脚本賞(坂元裕二)
- 第42回バンクーバー国際映画祭 [39]
- 観客賞
- 韓国芸術映画館協会賞 [40]
- 観客賞
- 作品賞(海外作品)
- 第22回TAMA映画賞[41]
- 最優秀作品賞
第43回ハワイ国際映画祭 [42]
- VanguardAward (安藤サクラ)
- 第24回ニューポート・ビーチ映画祭[43]
- 最優秀作品賞
- 最優秀脚本賞(坂元裕二)
- 最優秀男優賞(永山瑛太)
- 第17回アジア・フィルム・アワード[44]
- 監督賞(是枝裕和)
- 第75回読売文学賞[45]
- 戯曲・シナリオ賞(坂元裕二)
- 2023年度 全国映連賞[46]
- 日本映画ベストテン 第2位
- 第97回キネマ旬報ベスト・テン[47]
- 日本映画ベスト・テン 第7位
- 読者選出日本映画ベストテン 第3位
- Filmarks 2023年度 TOP10[48]
- 邦画部門(実写・アニメーション区別なく劇場で放映された全ての邦画を含む)年間第2位
- ELLE CINEMA AWARDS[49]
- ディレクター賞(是枝裕和)
- 第47回日本アカデミー賞[50]
- 優秀作品賞
- 最優秀主演女優賞(安藤サクラ)
- 新人俳優賞(黒川想矢、柊木陽太)
- 優秀監督賞(是枝裕和)
- 優秀美術賞(三ツ松けいこ、徐 賢先)
- 優秀音楽賞(坂本龍一)
- 優秀撮影賞(近藤龍人)
- 優秀編集賞(是枝裕和)
- 優秀照明賞(尾下栄治)
- 優秀録音賞(冨田和彦)
- おおさかシネマフェスティバル2024 [51]
- 日本映画/作品賞ベストテン 第2位
- 新人賞(黒川想矢、柊木陽太)
- 第66回ブルーリボン賞 [52]
- 新人賞(黒川想矢)
- 英国インディペンデント映画賞 [53]
- 最優秀外国インディペンデント映画 最終リスト選出
- 国際シネフィル協会賞(ICS Awards 2024) [54]
- オリジナル脚本賞 最終リスト選出(坂元裕二)
制作・製作
脚本
是枝裕和にとって『万引き家族』以来5年ぶりの邦画作品である。脚本を手掛ける坂元裕二とは初めてのタッグかつ、監督デビュー作である『幻の光』以来となる自身が脚本執筆をしない一作となった。
2017年5月13日から8月6日にかけて、早稲田大学の演劇博物館で企画展「テレビの見る夢 − 大テレビドラマ博覧会」が開催された[55]。企画展の関連イベントとして、6月28日、早稲田大学大隈記念講堂で元々お互いの作品をよく見ていると公言していた坂元と是枝のトークショーが開かれた[56]。2人はこの時、いつか一緒に作品を作るかもしれないと感じていたと後にそれぞれのインタビューで話している[57][58]。
2018年、東宝の川村元気と山田兼司は、坂元に「映画の開発をしよう」と話を持ちかけた。「45分くらいの尺感で走り切って、それが3本立てになったらどんな映画になるのか」という話になり、監督として是枝の名前を挙げたのは坂元とされる[57]。同年12月18日、川村は是枝に「映画のプロットができたので読んでもらえないか」とメールした[57]。是枝は誰か脚本家と組むならとの質問の際には必ず坂元と即答するほどの大ファンであった。坂元も是枝について「大好きな映画監督。脚本家としての是枝さんも尊敬している」と表現していた。そうした経緯から念願の共同作業が実現した[4][59][60][61]。
脚本や撮影現場に関する監修は性的少数者の団体や子供の心のケアに関する専門家とゆっくり話し合い協力し合いながら行われ、2018年から3年かけて最終稿の台本が出来上がっていった[58][62][63]。坂元が書き下ろした初稿の内容は映画にすると前編・後編に分ける必要があるほどの物語の長さだったが、プロデューサーや監督、今作の主人公たちに関わる分野の専門家との話し合いを重ね坂元が余白を作り出す形で最終稿を書き上げた[58]。是枝は脚本を最初に読んだ時、「この少年2人は『銀河鉄道の夜』のジョバンニとカンパネルラだ」と感じたという[64]。坂元は是枝との対談で「世の中には被害者の物語が溢れているが、加害者の物語はどんどんなくなり、むしろ描くことが困難になってきている。そのなかでどうすれば自分が加害者になって、お客さんに加害者の主観を体験してもらうことができるのかをある時から考えていた」と述べ[57]、そのほかのインタビューでは「本作の脚本を書いている時には今の自分の子供や自分が依里や湊と同じ年齢だった頃のこと、ある1人の友人のことをずっと頭の中で思い浮かべていました」「私たちは生きている上で、どうしても他者同士お互いに見えていないものがある。それを理解し合っていかなければならない時に直面した場合どういったことが起こるのか、そしてどうすればいいのか、その複雑さを表現するにはどうすればいいのか、長い間苦しみ悩みながら脚本を書きました」と答えている[65][58]。
本作はタイトルがないまま脚本の最終稿ができあがり、『怪物』という映画のタイトルは川村と是枝から提案されたものである[66][58]。
ラストシーンに関して、最後主人公は無事だったんですか?という質問をされた際には「生きています」と是枝、坂元は断言しており、是枝は「脚本初稿の段階から2人が亡くなるような展開は描かれておらず、現在の社会の現状を決して美化させる形で描いてもいなかった」「最後、フェンスが無くなった線路を主人公2人が駆け出していき、映画を見ている自分達が2人の未来から置き去りにされるイメージで制作したので、その構造から抜け出して置き去りにされるイメージを2人が亡くなったように深読みする人たちもいるのかもしれません」と述べている[66][58]。
撮影
主演を務める4人のうち、黒川想矢と柊木陽太については是枝や坂元も審査に参加したオーディションによって選出された[5]。是枝は黒川と柊木に会うと最初に『銀河鉄道の夜』の話をし、読んでほしい、と言った[64]。
舞台設定は当初、東京都の西側の区域だった。脚本には、町を南北に分ける形で大きな川が流れているというト書きがあった。駅前での火災や、消防車の走行などのシーンの撮影を、東京都が許可しなかったため、千葉県と長野県諏訪地方が候補地に挙がった。ことに長野には「諏訪地方観光連盟 諏訪圏フィルムコミッション」(本部:諏訪市)[67]があり、協力体制が整っていたことから、まずは諏訪に下見に行こうという話になった。2012年にテレビドラマ『ゴーイング マイ ホーム』をロケ撮影を行ったときの信頼感も是枝にはあった。「諏訪圏フィルムコミッション」の宮坂洋介に案内されて行ったのが、2021年3月に廃校となった旧諏訪市立城北小学校だった。是枝は昇降口の吹き抜けや、街と湖が見渡せる教室からの景色を気に入り、撮影地を諏訪に決定した[68][69]。坂元には「大きな川」を「湖」に変えてほしいと依頼した[68]。是枝はメディアの取材に対し、「全体を貫くテーマと湖を重ねてみようと思った」と述べ[62]、「真っ黒い諏訪湖を見たときに『怪物だ』と感じた」と述べている[70]。
2022年3月19日〜5月12日、7月23日〜8月12日に長野県諏訪地方(諏訪市・岡谷市・富士見町・下諏訪町)の約25カ所でロケーション撮影がおこなわれた。地元の小学生ら約700人がエキストラとして参加した[71][72][62][73]。舞台となる旧諏訪市立城北小学校は、校名もそのまま「城北小学校」として映し出された[68]。秘密基地の廃電車は富士見町の旧瀬沢隧道の付近にオープンセットとして設営された。製作には、富士見町の建設会社「今井建設」が協力した。同社は2011年からテレビドラマ、映画、CMなどのセット造成に関わっており、本作品ではセットの資材の運び入れの方法も発案した[74][75]。主な撮影場所は下記のとおり[76]。
- 諏訪市 - 旧諏訪市立城北小学校、立石公園、JR上諏訪駅前、諏訪赤十字病院、諏訪市立城南小学校
- 岡谷市 - 釜口水門、童画館通り、市営岡谷球場、イルフプラザ、丸山橋交差点
- 富士見町 - 旧瀬沢隧道、旧立場川橋梁跡
- 下諏訪町 - クリーニングモモセ
音楽
坂本龍一が音楽を担当した経緯について、是枝は「撮影場所が諏訪に決まって描かれる脚本に風景が明快になった時、夜の湖に坂本龍一さんの曲の響きが重なった」と述べている[77]。映画の編集をしながら坂本の音楽を仮当てし、それに手紙を添えて坂本に作曲の依頼をした。坂本はすぐに是枝へ「全部を引き受ける体力はもう残ってないけど、(仮当てした映画を)観させて頂いたらとても面白くて、音楽のイメージが何曲か浮かんでいるので形にします。気に入ったら使って下さい」と手紙を送り、その後2曲の新曲と一緒に「すでに私が発表している楽曲から自由に使って頂いて構いません」というメッセージを映画の制作・製作陣へ送った[78]。
最終的に完成した映画には計7曲が使用された。内訳は新曲が2曲、1998年発売のアルバム『BTTB』から「aqua」、2009年発売のアルバム『アウト・オブ・ノイズ』から「hibari」と「hwit」、2023年1月発売のアルバム『12』から2曲。
2023年3月28日、坂本は東京都内の病院で死去した[9]。全国公開直前の5月31日、全7曲入りのアルバム『サウンドトラック「怪物」』が発売された。
公開・展開
2023年5月16日、第76回カンヌ国際映画祭が開幕。『怪物』は5月17日に同映画祭で上映された[1]。5月18日、『怪物』の記者会見がカンヌで開かれ、是枝、坂元、安藤サクラ、永山瑛太、黒川想矢、柊木陽太が参加した。英国のメディアが、日本映画にみる性的マイノリティ表象の少なさについて質問すると、是枝は「確かにそんなに多く今までは作られてこなかったのかなと思います。だだ、この作品をどういうふうに捉えるのかも含めて、僕もプロットを読んだ時に、この少年たちが抱える感情というものを、ある種の紋切り型に捉えていくのではなく、成長過程に起きる、誰もが感じるであろう内的な葛藤、自分の中に自分でも捉えきれない、言葉にしにくい感情を抱えてしまったときの少年たちの話であると僕自身は捉えました」「また、その制作のプロセスで、そういった不安をかかえた子供たちのケアをされている専門家の方に相談して、レクチャーをしていただいたり、そのようなアプローチをプロデューサー陣と相談しながら出来る限りした上で撮影には挑みましたが、そのことに特化した作品というふうには自分では捉えていませんでした。誰の心の中にも芽生えるであろう、それが時には他人に暴力的に向いてしまう、もしくは自分の中で自分自身を食い潰してしまうような、そういう存在と出会ったときに、どういうふうにそれを乗り越えていこうとするのか、そういう物語だと捉えました」と答えた[79]。さらに是枝は同日、ロイターの取材に応じ、「これらの子供たちの年齢はおそらく、自分たちの性的アイデンティティが十分に形成されていない年齢です。私はそのことにあまり焦点を合わせたくはなかったし、それを特別な種類の関係として考えたくなかった」と述べた[80]。
同年5月27日、カンヌ映画祭が閉幕。授賞式前に発表される独立賞として、LGBTに関連した映画に与えられるクィア・パルム賞を受賞した[7]。そして本賞の授賞式で脚本賞を受賞した[6]。クィア・パルム審査員長のジョン・キャメロン・ミッチェルは賞の授与に当たり、「世間の期待に適合できない2人の少年が織りなす、この美しく構成された物語は、クィアの人々、馴染むことができない人々、あるいは世界に拒まれている全ての人々に力強い慰めを与え、そしてこの映画は命を救うことになるでしょう」と述べた[81]。同日、フランスの「ル・モンド」はクィア・パルムに言及。「『怪物』は、二人の少年の間に親密な友情がめばえ、それが愛の関係に発展するというプロットを、非常に謙抑的に描いている」と報じた[82]。
同年6月2日、日本で全国公開された[1]。6月5日、全国映画動員ランキングトップ10(6月2日~4日の3日間集計)が発表。『怪物』は初日から3日間で動員23万1000人、興収3億2500万円をあげ、3位で初登場した[83]。6月はプライド月間にあたっていたが、配給に携わる東宝とギャガは性的少数者に言及するパブリシティを行わず、メッセージを発信しなかったことが批評家から指摘された[84]。6月30日、英語字幕付きの上映がTOHOシネマズ日比谷など都内3館で始まった[85]。
韓国における累計観客動員数が約50万人となり、これは是枝監督の韓国で公開された映画作品における観客動員数の最多記録となった[86]。
公開3週目である6月18日(日)の時点で190以上の国や地域でも展開されることが決定した[87]。
備考・エピソード
- 2022年10月12日、ロケをきっかけに、是枝は諏訪市立城南小学校を訪れ、映画制作に取り組む6年1部の児童28人に対し特別授業を行った。児童たちが制作した3本の映画は2013年2月14日、岡谷スカラ座で開かれた試写会で披露された[88][70]。
- 2023年6月2日の公開に合わせて、諏訪圏フィルムコミッションはロケ地マップを作成。諏訪市、岡谷市、富士見町、下諏訪町で撮影された計22か所のロケ地の写真と住所が掲載されている。フィルムコミッション長野県内の劇場などで配布するとともに、特設サイトでも公開した[76][72]。
- 2023年6月9日、諏訪圏フィルムコミッションは岡谷市の商店街「童画館通り」のふれあいホールに「廃電車」のセットの一部を再現。監督、俳優らの120枚を超えるオフショットや小道具を展示した。ホールには、映画公開からわずか1カ月間で、国内外のファン500人以上が訪れた[89][90]。
- 2023年12月27日、バラク・オバマ元米国大統領は、毎年恒例となっている「2023年のお気に入り映画」を公表し、その10本の中に『怪物』も含まれていた[91]。
脚注
出典
- ^ a b c d e 怪物 - IMDb
- ^ “是枝裕和監督『怪物』、トロント国際映画祭で北米プレミア 英語圏ならではの質問で大盛況”. ORICON NEWS (2023年9月12日). 2023年9月13日閲覧。
- ^ “2023年(令和5年)全国映画概況” (pdf). 一般社団法人 日本映画製作者連盟 公式サイト. 日本映画製作者連盟 (2024年1月30日). 2024年2月2日閲覧。
- ^ a b c d “是枝裕和×坂元裕二が初タッグ!映画「怪物」来年公開、「夢が叶ってしまいました」”. 映画ナタリー (ナターシャ). (2022年11月18日) 2022年11月19日閲覧。
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外部リンク
- 映画『怪物』公式サイト
- 映画『怪物』2023年6月2日(金)公開 (@KaibutsuMovie) - X(旧Twitter)
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- 怪物 - allcinema
- 怪物 - KINENOTE
- 怪物 - MOVIE WALKER PRESS
- Kaibutsu - IMDb