多連装ロケット砲
多連装ロケット砲(たれんそうロケットほう)は、複数のロケット弾を一斉発射することを目的としたロケット砲である。多連装ロケットランチャーや多連装ロケット弾発射機、放射砲[1]などとも表現される。英語では multiple rocket launcher(マルチプルロケットランチャー), MRL あるいは multiple launch rocket system(マルチプルランチロケットシステム)[注 1]、MLRSなどと表現される。
個々の命中精度が通常の大砲に比べて低くなる傾向にある[2][3]ロケット弾を、同時に多数発射することで効果的に運用しようという思想の兵器である。
歴史
編集歴史上、最初の多連装発射兵器が使用されたのは中国の宋の時代である。これは複数の火矢を一斉発射する装置であった。李氏朝鮮時代の朝鮮においても同様の兵器が文禄・慶長の役の幸州山城の戦いにおいて効果をあげたとされる[4]。
第二次世界大戦において実用化された、最初の(そして最も著名な)現代的な多連装ロケット砲はカチューシャである。これは当時のソ連赤軍によって開発された、軍用トラックの後部に発射レールを並べたシンプルな構造のもので、友好国への輸出も行われた。
アメリカ軍ではT34 カリオペが開発された。これはM4中戦車の砲塔上にパイプ状のロケット弾発射機を複数配置したもので、発射機の角度変更は主砲の俯仰角に連動する構造となっていた。
ドイツ国防軍ではネーベルヴェルファーと呼ばれる多連装ロケット砲を開発した。これは6本あるいは5本のパイプ状の発射機を持ち、37mmPak36対戦車砲と同等の牽引用架台に載せられた比較的コンパクトなものであった。後に、10本のパイプ状発射機を車載型とした自走砲型のパンツァーヴェルファーも開発された。
現代においても多連装ロケット砲は、すでに混乱しているもしくは統率の取れていない敵部隊の士気を劇的に低下させる効果のある兵器として、評価されている。また、敵に対してより強固な掩体壕や防護陣地を敷設する負担を掛けさせることもできるほか、発射するロケット弾に誘導装置などを搭載し、精密射撃(地対地、地対艦など)を行う装備もある。
最も多くの種類を開発しているのは大戦でカチューシャを活用したロシアであり、同国では火力支援用として河川哨戒艇にも搭載されている。また、本質的に簡便な構造の兵器であることから世界各国の軍で運用され、特に中国製の63式107mmロケット砲は世界で最も拡散している多連装ロケット砲の1つとされる[5]。紛争地帯などでは民兵が武装車両(テクニカル)に搭載している例も見られる[6]。
多連装ロケット砲の例
編集第二次世界大戦
編集ソ連
編集- BM-8/BM-13 "カチューシャ" シリーズ
- BM-8 - 8連装、16連装、24連装、36連装、48連装 など
- BM-13 - 16連装、24連装 など
- BM-31 - 8連装、12連装 など
ドイツ
編集- ネーベルヴェルファー
- 15cm ネーベルヴェルファー41型 - 6連装
- 28/32cm ネーベルヴェルファー41型 - 6連装
- 21cm ネーベルヴェルファー42型 - 5連装
- 30cm ネーベルヴェルファー42型 - 6連装
- パンツァーヴェルファー - 10連装
- ヴルフラーメン40 - 4連装、6連装
アメリカ
編集- M8 4.5インチロケット弾用
- T27 多連装発射機 - 8連装
- T34 カリオペ 多連装発射機 - 60連装
- T44 多連装発射機 - 120連装
- T45 多連装発射機 - 28連装
- スコーピオン 多連装発射機 - 144連装
- M16 4.5インチロケット弾用
- T66 多連装発射機 - 24連装
- 7.2インチロケット弾用
- M17 多連装発射機 - 20連装
- T40/M17 多連装発射機 M4シャーマン搭載型 - 20連装
イギリス
編集- 2インチ 対空ロケット発射機 MK.2 - 10連装
- 3インチ 対空ロケット発射器
- 3インチ 対空ロケット発射器 No.2 Mark.1 - 4連装
- 3インチ 対空ロケット発射器 No.4 Mark.1 / Mark.2 - 9連装
- 3インチ 対空ロケット発射器 No.6 Mark.1 - 20連装
- ランドマットレス - 32連装
日本
編集- 試製十五糎多連装噴進砲 - 20連装
- 十二糎二八連装噴進砲 - 28連装
戦後・現用
編集アメリカ
編集- M270 MLRS - 12連装
- M142 HIMARS - 6連装
- GMARS - 8連装(予定)
ロシア
編集- BM-14 - 16連装、17連装
- BM-21 - 40連装
- BM-21B - 36連装
- BM-21V - 12連装
- BM-24 - 12連装
- BM-25 - 6連装
- BM-27 ウラガン - 16連装
- BM-30 スメーチ - 12連装
- TOS-1 - 24連装、30連装
- タルナード
- 9A52-4 タルナード - 6連装
- 9A53-G タルナード - 30連装、40連装
- 9A53-U タルナード - 12連装、16連装
- 9A53-S タルナード - 8連装、12連装
- TOS-2 - 18連装
イスラエル
編集韓国
編集北朝鮮
編集- KN-09-8連装
- M1991 240mm自走ロケット砲 - 22連装のかなり大型の240mmロケット砲を搭載。
- M1993 122mm自走ロケット砲-不明
- M1985 240mm自走ロケット砲-不明
- M1985 122mm自走ロケット砲-不明
- KN-25 - 5連装または4連装.。装軌式は6連装発射機を搭載している。
- 300mm多連装ロケット砲- 12連装
- KN-15 - KN-09の改良型。-8連装
- 新型240mm多連装ロケット砲 - 22連装
中国
編集- 63式107mmロケット砲 - 12連装
- 70式130mm自走ロケット砲 - 19連装
- 81式122mm自走ロケット砲 - 40連装
- 90式多連装ロケット砲 - 40連装
- 96式300mm多連装自走ロケット砲 - 10連装
- 03式300mm自走ロケット砲 - 12連装
- 11式122mm自走ロケット砲 - 40連装
- WM-80 273mm多連装ロケットシステム - 8連装
ドイツ
編集- LARS自走ロケット弾発射機 - 36連装
日本
編集- 67式30型ロケット弾発射機 - 2連装
- 75式130mm自走多連装ロケット弾発射機 - 30連装
台灣
編集- Kung Feng 4(工蜂4型)-40連装
- Kung Feng 6(工蜂6型)-45連装
- Thunderbolt-2000(雷霆2000)
- MK-15モジュール- 60連装
- 口径:117mm
- 長さ:1.9m
- 重量:42kg
- 最大射程:15km
- 弾頭:6.4mm 子弾×6400個
- MK-15モジュール- 60連装
- MK-30モジュール- 27連装
- 口径:182mm
- 長さ:3.9m
- 重量:186kg
- 最大射程:30km
- 弾頭:8mm 子弾×18300個またM77 DPICM 子弾×267個
- MK-30モジュール- 27連装
- MK-45モジュール- 12連装
- 口径:230mm
- 長さ:4.21m
- 重量:305kg
- 最大射程:45km
- 弾頭:8mm 子弾×25000個またM77 DPICM 子弾×518個
- MK-45モジュール- 12連装
- Zhen hai(鎮海火箭彈系統)- 42連装(艦載)
- 口径:70mm (ハイドラ70ロケット弾)
- 射程:5000-10000m
チェコスロバキア
編集- RM-70 - 40連装
ブラジル
編集- ASTROS - 4連装、16連装、32連装
南アフリカ
編集- ヴァルキリー 自走ロケット弾発射機 - 12連装、24連装、40連装
ウクライナ
編集- バスティオン-03 - 16連装
脚注
編集注釈
編集出典
編集- ^ “北朝鮮、放射砲発射か 韓国軍”. 時事通信. (2022年6月12日) 2022年6月12日閲覧。
- ^ “研究紹介 2001.2 No.239”. www.isas.jaxa.jp. 2022年10月27日閲覧。
- ^ “「カチューシャ」から「HIMARS」へ 当たらぬゆえ多連装だったはずのロケット砲の系譜(乗りものニュース)”. Yahoo!ニュース. 2022年10月27日閲覧。
- ^ Time-Life Books, ed (1998-10-01) (英語). In the Land of the Dragon: Imperial China Ad 960-1368 (What Life Was Like) (First ed.). Time Life Education. ISBN 978-0783554587
- ^ “Type 63” (英語). Weaponsystems.net. 2021年2月21日閲覧。
- ^ “Improvised Employment of S-5 Air-to-Surface Rockets in Land Warfare: A brief history and technical appraisal” (PDF) (英語). ARES (2014年). 2021年2月21日閲覧。