固有顔
固有顔(英: Eigenface)とは、顔認識システムというコンピュータビジョンの応用で使われる固有ベクトルの集合である。固有顔を利用した顔認識は1987年、Matthew Turk と Alex Pentland が開発した。
固有顔生成
編集固有顔集合を生成するには、人間の顔のデジタル化された画像(同じ照明条件でなければならない)を多数集積し、目と鼻の位置を合わせる。そして、解像度を合わせるために再標本化する。このようなデータから主成分分析 (PCA) と呼ばれる手段で固有顔を抽出する。顔画像を固有顔に変換する過程は以下の通りである。
- 訓練例集合を用意する。訓練例集合 T を構成する顔画像群は既に用意されているものとする。
- 平均を減算する。平均行列 A を計算して T にあるオリジナルから減算する。結果を変数 S に格納する。
- 共分散行列を計算する。
- 共分散行列から、固有ベクトルと固有値を計算する。
- 主成分を選ぶ。
5番目のステップ以前に多数の固有顔が生成されるが、実際に必要とされるのはごく一部である。それらの中から最も固有値の高いものを選ぶ。例えば、100×100の画像を使っている場合、1万の固有ベクトルが生成される。ほとんどの個人は100から150のデータベースで特定できるので、1万のうちのほとんどは捨てられ、最も重要なものだけが残される。
固有顔には、様々な明暗のパターンがある。このパターンは顔の様々な特徴がどのように選ばれ、評価されるかを示している。対称性を評価するパターン、生え際を評価するパターン、鼻や口の大きさを評価するパターンなどがある。他にも単純には特定できないパターンを持つ固有顔があり、そのような固有顔の画像は一見して顔には見えない。
固有顔の作成技術やそれを使った顔認識技術は、顔認識以外にも応用されている。例えば、筆跡鑑定、読唇術、話者認識、医用画像処理などである。そのため、固有顔とは呼ばずに「固有画像(eigenimage)」と呼ぶこともある。
基本的に固有顔は、多数の顔画像の統計解析から得られる「標準化された顔の要素」の集合である。人の顔は、そのような標準の顔の組合せと見なすことができる。例えば、ある人の顔は、固有顔1から10%、固有顔2から55%、固有顔3からは-3%を合成したものとなるかもしれない。ある個人の顔と固有顔との関係を表す値は100%から-100%まであり、値が高いほどその固有顔と似ていることを意味する。驚いたことに、平均的な顔を得るのにそれほど多数の固有顔は必要としない。また、個々の顔は一連の数値で表されるため、個々の顔のデジタル写真をデータベースに保持する必要が無く、必要な記憶領域は劇的に削減される。
顔認識における利用
編集顔認識は、固有顔が生成される動機であった。固有顔を使った顔認識システムは性能や効率の面で優れている。非常に高速なので、短時間に多数の顔画像を処理できる。欠点としては、照明や角度の違いに弱い点が挙げられる。システムがうまく機能するには、似たような照明で真正面から撮影する必要がある。固有顔を使った顔認識システムは精度が高いことが示されている。ある評価結果によると、照明を変化させた場合で96%、角度を変化させた場合で85%、大きさを変化させた場合で64%の正答率であった(参考文献の Truk & Pentland 1991 の p.590)。
固有顔を補う別の手法として eigenfeatures と呼ばれるものも開発された。競合する手法としては fisherface がある。fisherface は固有顔に比較して、照明や角度の違いに影響されにくいという特徴がある。
手話の認識にこの技術を応用する研究もなされている。詳しくはこちらにある。
関連項目
編集参考文献
編集- D. Pissarenko (2003年). Eigenface-based facial recognition
- P. Belhumeur, J. Hespanha, and D. Kriegman (1997年7月). “Eigenfaces vs. Fisherfaces: Recognition Using Class Specific Linear Projection”. IEEE Transactions on pattern analysis and machine intelligence 19 (7). doi:10.1109/34.598228.
- L. Sirovich and M. Kirby (1987年). “Low-dimensional procedure for the characterization of human faces”. Journal of the Optical Society of America A 4: 519–524.
- M. Kirby and L. Sirovich (1990年). “Application of the Karhunen-Loeve procedure for the characterization of human faces”. IEEE Transactions on Pattern analysis and Machine Intelligence 12 (1): 103–108. doi:10.1109/34.41390.
- M. Turk and A. Pentland (1991年). "Face recognition using eigenfaces" (PDF). Proc. IEEE Conference on Computer Vision and Pattern Recognition. pp. 586–591.
- M. Turk and A. Pentland (1991年). “Eigenfaces for recognition”. Journal of Cognitive Neuroscience 3 (1): 71–86 .
- A. Pentland, B. Moghaddam, T. Starner, O. Oliyide, and M. Turk. (1993). "View-based and modular Eigenspaces for face recognition". Technical Report 245, M.I.T Media Lab.
外部リンク
編集- Eigenfaces - スカラーペディア百科事典「固有顔」の項目。
- Developing Intelligence Eigenfaces and the Fusiform Face Area
- Matlab example code for eigenfaces
- 固有顔による顔画像の認識 主成分分析