動物寓意譚(どうぶつぐういたん、英語 : Bestiary, フランス語 : Bestiaire, ラテン語 : Bestiarum vocabulum)は、12 - 13世紀イングランドフランスを中心にヨーロッパで広く流布していた動物寓意集(ベスティアリ、Bestiary)の総称である。様々な動物植物鉱物の特徴や習性とキリスト教的教訓とを結びつけ、そこに寓意や諷刺を込めた内容となっている。そこに出て来るのは、実存の生き物だけではなく、ドラゴンユニコーンモノセロス)、バシリスクマンティコラセイレンヒッポカンポスなどの怪物も含まれる。図版を豊富に含んでおり、キリスト教徒の道徳的教化、布教に大きな役割を果たした。内容の原典は、2世紀頃アレクサンドリアギリシア語で出版された『フィシオロゴス』、プリニウス22 / 23 - 79)の『博物誌』(77年頃)、アリストテレス前384 - 322)の『動物誌』(前343年頃)にまで遡るとされている。

『アシュモル動物寓意譚』第21葉より、「モノセロスユニコーン)」と「クマ」、1210年頃、イングランドピーターバラ?、ボドリーアン図書館蔵、オックスフォード

動物寓意譚に引用されている著書

編集
 
「地上の楽園(トゥールの象牙彫刻)」、9世紀、象牙彫刻、ルーヴル美術館パリ

ラテン語の動物寓意譚

編集

フランス語の動物寓意譚

編集

フィリップ・ド・タオン

編集

ノルマンディーのギヨーム・ル・クレール

編集
  • ノルマンディーのギヨーム・ル・クレール(Guillaume le Clerc de Normandie, 13世紀
    • 神聖動物寓意譚』(Bestiaire divin, 1210年
      • 第1章 ライオン(Lion
      • 第2章 アンテロープ(Aptalops
      • 第3章 火打石(Dous peres
      • 第4章 セラ[注釈 4]Serre
      • 第5章 カラドリウス[注釈 7]Caladrius
      • 第6章 ペリカン(Pellican
      • 第7章 ゴイサギ、ミミズク(Nicticorace, freseie
      • 第8章 ワシ(Aigle
      • 第9章 フェニックス(Fenis
      • 第10章 ヤツガシラ(Hupe
      • 第11章 アリ(Formi
      • 第12章 セイレーン(Sereine
      • 第13章 ハリネズミ(Heriçon
      • 第14章 トキ(Ybex
      • 第15章 キツネ(Gupil
      • 第16章 一角獣(ユニコーン)(Unicorne
      • 第17章 ビーバー(Bevre
      • 第18章 ハイエナ(Hyaine
      • 第19章 ヒュドルス[注釈 2]、ワニ(Idrus, Cocadrille
      • 第20章 牡ヤギ牝ヤギ(Buc, chevre
      • 第21章 オナガー[注釈 5]Asne salvage
      • 第22章 サル(Singe
      • 第23章 オオバン(Fulica
      • 第24章 パンサー、ドラゴン(Pantere, Dragon
      • 第25章 ケートゥス[注釈 6]Cetus
      • 第26章 ヤマウズラ(Perdriz
      • 第27章 イタチ、アスピス[注釈 3]Belette, Aspis
      • 第28章 ダチョウ(Ostrice
      • 第29章 キジバト(Turtre
      • 第30章 シカ(Cerf
      • 第31章 サラマンダー(Salamandre
      • 第32章 ハト、両手利きの樹[注釈 8]Colom, Paradixion
      • 第33章 ゾウ(Olifant
      • 第34章 マンドラゴラ[注釈 11]Mandragoire
      • 第35章 ダイヤモンド(Aimant

ティルベリーのゲルウァシウス

編集
  • ティルベリーのゲルウァシウス(Gervais(e) de Tilbury, 1155頃 - 1234
    • 動物寓意譚』(Bestiaire, 13世紀
      • 第1章 ライオン(Lion
      • 第2章 ヒョウ(Panthere
      • 第3章 一角獣(Unicorne
      • 第4章 ヒュドルス[注釈 2]とワニ(Idres et Cocadrile
      • 第5章 セイレーン(Sereine
      • 第6章 ケンタウルスCentaurus
      • 第7章 ハイエナ(Hyene
      • 第8章 サル(Singe
      • 第9章 ゾウ(Elephant
      • 第10章 アンテロープ(Antule
      • 第11章 ヘビ(とヴイーヴル)(Serpent (et Vuivre)
      • 第12章 ワタリガラス(Corbeau
      • 第13章 キツネ(Vurpil
      • 第14章 ビーバー(Castor
      • 第15章 ハリネズミ(Eriçon
      • 第16章 アリ(Formi
      • 第17章 ワシ(Aille
      • 第18章 カラドリウス[注釈 7]Caradrius
      • 第19章 ペリカン(Pellicanus
      • 第20章 ヤマウズラ(Perdriz
      • 第21章 シャモア(Chamoi
      • 第22章 ヤツガシラ(Hupe
      • 第23章 フェニックス(Phenix
      • 第24章 シカ(Cerf
      • 第25章 キジバト(Tortre
      • 第26章 セラ[注釈 4]Sarce
      • 第27章 イタチ(Belete
      • 第28章 アスピス[注釈 3]Aspis
      • 第29章 トキ(Ibis

ピエール・ド・ボーヴェ(ピエール・ル・ピカール)

編集
  • ピエール・ド・ボーヴェ(ピエール・ル・ピカール)(Pierre de Beauvais, Pierre le Picard, 13世紀
    • 『動物寓意譚』(Bestiaire, 1218年以前)
      • 短編版
        • 第1章 ライオン(Du lyon
        • 第2章 アンテロープ(Del antula
        • 第3章 火打石(De ii pierrez ardanz
        • 第4章 セラ[注釈 4]De la serre
        • 第5章 カラドリウス[注釈 7]Del caladre
        • 第6章 ペリカン(Du pelican
        • 第7章 ゴイサギ(Du niticorax
        • 第8章 ワシ(De l’aigle
        • 第9章 フェニックス(Del fenis
        • 第10章 ヤツガシラ(De la hupe
        • 第11章 アリ(Du formi
        • 第12章 セイレーン(De la seraine
        • 第13章 ハリネズミ(Du hérisson
        • 第14章 トキ(Del ybex
        • 第15章 キツネ(Du gourpil
        • 第16章 一角獣(Del unicorne
        • 第17章 ビーバー(Del castre
        • 第18章 ハイエナ(Del hyene
        • 第19章 ヒュドルス[注釈 2]とワニ(Del ydre
        • 第20章 ヤギ(De la chievre
        • 第21章 オナガー[注釈 5]De l’asne sauvage
        • 第22章 サル(Du singe
        • 第23章 オオバン(Del felica
        • 第24章 パンサー(De la penthere
        • 第25章 アスピドケローネ[注釈 12]De la coine (lacovie)
        • 第26章 ヤマウズラ(De la pertris
        • 第27章 イタチ(De la mosellan
        • 第28章 ダチョウ(De l’asida
        • 第29章 キジバト(De la tortre
        • 第30章 シカ(Du cerf
        • 第31章 サラマンダー(De la salamandre
        • 第32章 ハト、ハトの色(De la tanrine coulor
        • 第33章 ハト(と両手利きの樹[注釈 8])(Du coulon
        • 第34章 ゾウ(Del olifant
        • 第35章 野生のヤギと預言者アモスDe la chievre sauvage (Amos)
        • 第36章 磁石Del aimant
        • 第37章 オオカミ(Du leu
        • 第38章 イヌ(Du chien
      • 長編版
        • 第1章 ライオン(Du lyon premier
        • 第2章 アンテロープ(De l’autula
        • 第3章 セラ[注釈 4]De la sarre
        • 第4章 火打石(Du turobolem
        • 第5章 カラドリウス[注釈 7]Du caladres
        • 第6章 ヴイーヴル(De la guivre
        • 第7章 ペリカン](Du pelican
        • 第8章 トラ(Du tigre
        • 第9章 ツル(De la grue
        • 第10章 ?(Du voultre
        • 第11章 ツバメ(De l’aronde
        • 第12章 ハゲワシ(Du voltours
        • 第13章 アスピス[注釈 3]De l’asepic
        • 第14章 バッタあるいはコオロギ(Du crinon ou gresillon
        • 第15章 ワタリガラス(Du corbiau
        • 第16章 ハーピーDe l’arpie
        • 第17章 サヨナキドリ(Du rosignol
        • 第18章 クジャク(Du paon
        • 第19章 キツツキ(De l’espec
        • 第20章 アレリオン[注釈 13]De l’alerion
        • 第21章 ワシ(De l’aisgle
        • 第22章 ゴイサギ(Du niticoraux
        • 第23章 セイレーン(De la seraine
        • 第24章 ヤツガシラ(De la huppe
        • 第25章 牝ウシ(De la vasche
        • 第26章 フェニックス(Du fenis
        • 第27章 オウム(Du papegay
        • 第28章 アリ(Des fourmis
        • 第29章 ダチョウ(De l’ostruche
        • 第30章 ハリネズミ(Du herison
        • 第31章 トキ(Du ybeux
        • 第32章 キツネ(Du goupil
        • 第33章 クモ(De l’aringne
        • 第34章 カオジロガン(Des annes de la mer
        • 第35章 バシリスクDu baselicoc
        • 第36章 ?(Du teris
        • 第37章 一角獣(De unicornes
        • 第38章 グリフォンDu grifon
        • 第39章 ビーバー(Du castoire
        • 第40章 ハイエナ(De la hienne
        • 第41章 オオバン(De ulica
        • 第42章 ワニとヒュドルス[注釈 2]Du cocadrille et de hydre
        • 第43章 ドルカス[注釈 1]Du dorcon
        • 第44章 センティコアDu centicore
        • 第45章 オナガー[注釈 5]De l’asne sauvage
        • 第46章 サル(Du singe
        • 第47章 ハクチョウ(Du signe
        • 第48章 フクロウ(Du huhan
        • 第49章 パンサー(Du pantere
        • 第50章 ヤマウズラ(De la pertris
        • 第51章 アスピドケローネ[注釈 12]De la covie
        • 第52章 ダチョウ(Du asida
        • 第53章 キジバト(De la torte
        • 第54章 シジュウカラ(De la mesenge
        • 第55章 シカ(Du serf
        • 第56章 サラマンダー(De la salamandre
        • 第57章 モグラ(De la taupe
        • 第58章 ハト(Du coulon
        • 第59章 両手利きの樹[注釈 8]とハト(De l'arbre des coulons
        • 第60章 ゾウ(De l'olifant
        • 第61章 野生のヤギと預言者アモス(Des chievres (Amon li prophetes)
        • 第62章 磁石De l'aimant
        • 第63章 オオカミ(Du lou
        • 第64章 エケネイス[注釈 14]D'ung poisson qui est appelés esynus
        • 第65章 イヌ(Des chiens
        • 第66章 ワイルド・マン(De l'omme sauvage
        • 第67章 クロウタドリ(De la merle
        • 第68章 トビ(De l'escoufle
        • 第69章 ムスカリエト[注釈 15]Du muscaliet
        • 第70章 四大元素Des quatre elemens
        • 第71章 オルファン[注釈 16]De l'orphanay

リシャール・ド・フルニヴァル

編集
 
狩人処女ユニコーン。処女はユニコーンを誘惑して捕らえるための囮である。『ロチェスター動物寓意譚』第10葉裏より、「ユニコーン」、1230年頃、イングランド大英図書館蔵、ロンドン
  • リシャール・ド・フルニヴァル(Richard de Fournival, 120160
    • 愛の動物寓意集』(Bestiaire d'Amour, 1252年) : 架空の語り手が登場し、自らの崇める貴婦人に、何ゆえ彼女が彼の言葉を傾けなければならないのかということを証明するため、様々な動物の特性を引き合いに出すという構成になっている。
      • 雄鶏(Li cocs
      • オナガー[注釈 5]Li asnes salvages
      • オオカミ(Li leus
      • コオロギ(Li crisnon
      • ハクチョウ(Li cisnes
      • イヌ(Li chiens
      • ヴイーヴル(La vvivre
      • 雄サル(Li singes chauciés
      • ワタリガラス(Li corbiaus
      • ライオン(Li lions
      • イタチ(La mostoile
      • カラドリウス[注釈 7]La kalandre
      • セイレーン(La seraine
      • アスピス[注釈 3]Li serpens aspis
      • クロウタドリ(La merle
      • モグラ(La taupe
      • トラ(Le tygre
      • ユニコーン(Li unicornes
      • ヒョウ(La panthère
      • ツル(La grue
      • クジャク(Li paons
      • セイラン(Li argus
      • ツバメ(L’aronde
      • ペリカン(Li pellicans
      • ビーバー(Li castors
      • キツツキ(Li espics
      • ハリネズミ(Li hyreçons
      • ワニ(Le cocodrille
      • ヒュドルス[注釈 2]L’ydre
      • 雌ザル(La singesse
      • セラ[注釈 4]La serre
      • キジバト(La torterele
      • ヤマウズラ(La pertrix
      • ダチョウ(L’ostrisse
      • コウノトリ(La chuigne
      • ヤツガシラ(La huppe
      • ワシ(Li aigles
      • ゾウ(Li olifans
      • ドラゴン(Le dragon
      • ハト(Les coulons
      • クジラ(La balaine
      • キツネ(Li gourpius
      • ハゲタカ(Li voutoirs

百科事典

編集
 
ブルネット・ラティーニ 『知識の宝庫』 1266年

脚注

編集

注釈

編集
  1. ^ a b シリアやアフリカに生息するドルカスガゼル(Gazella dorcas)だと言われる[要出典]
  2. ^ a b c d e f 四肢を持つヘビまたは無肢のヘビの怪物。ワニの腹を食い破る[要出典]
  3. ^ a b c d e コブラに似た音楽狂の小型のドラゴン。音楽が聞こえると、片方の耳を地面に押し当て、もう一方の耳には自らのを突っ込んで音楽が聞こえないようにするという[要出典]
  4. ^ a b c d e f 翼を持つ巨大な海の怪物。魚の尾、コウモリまたは鳥の翼、ライオンの頭を持つ[要出典]
  5. ^ a b c d e 野生のロバ[要出典]
  6. ^ a b ギリシア神話ローマ神話に登場する巨大な鯨のような姿をした怪物ポセイドーンネプトゥーヌス)が、エチオピアの王ケーペウスの国を荒廃させ、女王カッシオペイアの娘アンドロメダを殺すために遣わしたと言われる。「くじら座」として星座となった。
  7. ^ a b c d e f 病人生死を見抜く幻鳥。
  8. ^ a b c d インドの木の一つで、ハトを引き寄せ、ドラゴンを嫌がらせる。イチジク科のバニヤン樹だと言われている。
  9. ^ 本来はトキ (ibis) の項目かもしれないが、フィリップの原文には、「この鳥は..コウノトリ cigonie (cigogne) と呼ばれている」と書かれている。また、腐肉食性との記述もあることから、ハゲコウではないかと推察できる。
  10. ^ 赤いジャスパー、サファーヤ等、聖書で触れられる十二の宝石(『出エジプト記』28章の僧侶の装身具や、『黙示録』21章の神の都にちりばめられる)。
  11. ^ 人型の植物で、地面から引き抜かれると凄まじい悲鳴をあげると言われる。
  12. ^ a b または大亀に似た怪物
  13. ^ 神話の鳥
  14. ^ ヨーロッパの旅行者や漁師の間で語り継がれた海の生物。船の船体に吸着し、船を動けなくするという[要出典]
  15. ^ ウサギに似た体、リスに似た尾と足、イタチに似た耳、モグラに似た鼻、ブタに似た毛、イノシシに似た歯を持つ動物[要出典]
  16. ^ クジャクの首、ワシのくちばし、ハクチョウの足、ツルの体を持つ伝説の鳥[要出典]

出典

編集

参考文献

編集
  • 松平俊久『図説ヨーロッパ怪物文化誌事典』蔵持不三也監修、原書房、2005年3月。ISBN 978-4-562-03870-1 
  • 利倉隆『絵画のなかの動物たち - 神話・象徴・寓話 カラー版』美術出版社、2003年3月。ISBN 978-4-568-40066-3 
  • T. H. White, The Bestiary, New York: Capricorn Books, G. P. Putman's Sons, 1960.
  • Ann Payne, Medieval Beasts, New Amsterdam Books, 1990.
  • Richard Barber, Bestiary, Boydell & Brewer Inc, 2006.

関連項目

編集

外部リンク

編集