ボタン (服飾)
ボタン(ポルトガル語: botão、英語: button、釦、鈕)とは、衣服、鞄、靴などに止め具として使用される服飾物[1]。縫製副資材の一種である[2]。語源はポルトガル語 botão が最も有力な説とされる。多くは実用性と装飾を兼ねるが、もっぱら装飾目的の「飾りボタン」もある[1]。
歴史
編集ボタンの起源はよくわかっていない[3]。ただし、古代エジプトには留め具を付けた被服がみられる[3]。
発掘品としては最も古いものとして5000年前のモヘンジョダロ遺跡で湾曲した貝から作られたボタンが見つかっている[4][5]。
ボタンが普及するようになったのは13世紀といわれている[3]。16‐17世紀には大量生産されるようになりフランスでは特に発達した[3]。婦人服に現代のようなボタンが使われるようになったのは19世紀になってからである[3]。
日本では江戸時代の末期になってに牛骨や金属の留め具が作られるようになったが足袋の小鉤(こはぜ)に近いもので、本格的なボタンは明治になってから製造されるようになった[3]。
1860年代、オーストラリア北東部(トレス海峡諸島など)ではボタンの材料となる真珠貝の採取が盛んになり、日本人の海人も労働者として訪れるようになった。これがオーストラリアに日本人が進出する契機となった[6]。
語源
編集語源は、古ラテン語の “bottare” もしくは古ゲルマン語で「蕾」を意味する “boton” と言われている。後者の方の由来は、鋳造、または、打ち出しで作られた金属製のそれが、シワが付いているために蕾のように見えることから、とか、昔は本当に花の蕾を使っていたから、という説がある。
日本で「ボタン」という名が用いられたのは、江戸時代中期だと言われている。故実家・伊勢貞丈(1717 - 1784年)の『安斎随筆』に「和蘭国にてはコノブと言ふ、ポルトガル国にてはブタンと言ふ、それを言ひたがえて日本にてボタンと言ふなり」と記されている。
素材
編集ボタンの素材には天然素材、半合成樹脂、合成樹脂、金属素材、その他の素材(ガラス製、陶製、編組など)が使われる[2]。なお、粗悪品は破損しなくても、変色・色落ちする場合がある[7]。
これらの素材を複数組み合わせて製作されるボタンもある。高級な素材を使っているからだけでなく、芸術性の高いデザインやアンティーク的な価値から高額で販売されるボタンもある[7]。
形状
編集基本型
編集ボタンの基本型には丸型、角型、角丸型、山高型、天丸型、皿型、たらい型、平型、お椀型、変型などがある[2]。
- 丸
- 四角
- 花
- 平型、ドーム型(金属ボタンやブレザーに多い)
- 変り種:キャラクターもの、動物もの、ほか
- くるみボタン(金属を芯にして革や布でくるんだ足つきボタン。自宅で手軽に作れるくるみボタンの製作キットも販売されている)
穴
編集ボタンの穴には 2つ穴、4つ穴、タヌキ穴、変型穴、トンネル穴などがある[2]。穴なしには足つき(裏足)と足なしがある。
最初は紐で引っ掛けて固定したが、のちに南仏でボタンホールが考案され、布と布を直接固定できるようになった。
寸法
編集ボタンには様々な大きさや厚みの製品があるが、以下の様に用いられることが多い。
- ボタンダウンの衿先には9ミリメートル。
- 前身頃及び手口には10ミリメートル。
- 打ち掛けボタンは8 - 10ミリメートル。
- 力ボタンは8 - 10ミリメートル。
- カフス、カフリンクス、スタッドボタンには11.5ミリメートル。
- 開衿シャツ(オープンシャツ)やイタリアンカラーシャツの前身頃には11.5ミリメートル。
- 既製品には同じサイズで統一されることもある。
- 背広の前面のボタンは20ミリメートル、袖や内ポケットのボタンは15ミリメートル。
- 外套の前面のボタンは男性用は23 - 25ミリメートル、女性用は28 - 30ミリメートル。
- ズボンのボタンは18ミリメートルや20ミリメートル。
- スラックスのサスペンダーのボタンは15 - 18ミリメートル。
- ボタンの厚さは2 - 4ミリメートル程。
付け方
編集- 平行縫い
- 真っ直ぐにボタンを縫う方法。
- クロス縫い
- 糸を重ねてボタンを縫う方法。ボタンが落ちにくい。
- 鳥足縫い(鳥足がけ)
- 鳥の足のように縫う方法。ボタンが落ちにくい。
女性の場合は使用人が着せるため、右利きの使用人のためにボタンが左側に、男性は自分で着用するためボタンが右側となる[8]。
洋装とボタン
編集洋服デザイン
編集洋服のデザインの中で、ボタンの数や配置は重要である(下記参照)。オリジナルボタンの製作や好みのボタンへの付け替えを請け負う店もある[7]。
各種のボタン
編集- フロントボタン - ズボンやジャケット、シャツの正面にあるボタン。
- スタッドボタン - ワイシャツの第2・3・4ボタンに取り付ける装飾用のボタン。
- カフスボタン - ワイシャツやブラウスの袖口に取り付けるボタン。
- タックボタン - ジーンズに用いる鋲のボタン、フロントボタンとして用いる。
- リベットボタン - ジーンズに用いる鋲のボタン、鉄、真鍮、銅、洋白銅などの金属が多い。
- トグルボタン - ダッフルコートの特徴的な円柱のボタン。木製が多い。
- 打ち掛けボタン - ズボンの前面(フロント)に付いている、ジッパーに飛び出し防止のボタン。
- 重ねボタン(キッスボタン) - カフ・ボタンを重ね合わせたボタン。本切羽とは同時に出来ない。
- 前ボタン - 前面に付属している第一ボタン。
- 第一ボタン - ワイシャツやポロシャツに付属している、台襟で補強されている部分のボタン。
- 拝みボタン(鼓ボタン、キスボタン、合わせボタン、つがいボタン、リンクボタン) - 背広やジャケットの第1・2ボタンの何れかに取り付ける両面、表向きのボタン。
- カフ・ボタン - 袖口にあるボタン。
- コンチョボタン - ネイティブインディアンのシルバーアクセサリーをモチーフにしたボタン。
- スナップボタン
- ボタンカバー - ボタンに被せて使用する装飾用のボタン。
- チェンジボタン(裏ボタン)
- 力ボタン(ちからボタン) - 布地を傷めないように、ボタンとは反対側の面(裏地側)に用いる補強用のボタン。背広や外套に用いられることが多い。
ボタンにまつわる日本の文化
編集- 11月22日が「ボタンの日」として日本記念日協会により登録されている。同協会ホームページによると、1870年(明治3年)のこの日、日本海軍が欧州風のネイビールックを制服に採用し、金地桜花のボタンとその数(前面は2行各9個、後面は2行各3個)を定めたことに由来し、日本釦協会が申請した。
ギャラリー
編集-
シャンク(脚付き)ボタン
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スナップボタン(スナップファスナー)
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外したスナップボタン
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分解したスナップボタン
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ボタンカバー
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スタッドボタン
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トグルボタン
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リベットボタン
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くるみボタンリング
出典
編集- ^ a b 意匠分類定義カード(B9)特許庁
- ^ a b c d 繊維製品消費科学編集委員会, ボタン『繊維製品消費科学』 1975年 16巻 5号 p.161-164, doi:10.11419/senshoshi1960.16.161, 2020年11月26日閲覧。
- ^ a b c d e f 猪子忠徳, 中山邦彦, ボタンについて『繊維製品消費科学』 1980年 21巻 3号 p.86-91, doi:10.11419/senshoshi1960.21.86, 2020年11月26日閲覧。
- ^ “ボタン”. 渋谷ファッション&アート専門学校. 2023年8月6日閲覧。
- ^ McNeil, Ian (1990). An Encyclopaedia of the History of Technology. Taylor & Francis. p. 852. ISBN 978-0-415-01306-2
- ^ 鈴木 清史 (2010年). “オーストラリアの戸惑い : 2つの巨大貿易国のはざまで (日本とアジアの相互の照射 トレス” (PDF). 静岡大学人文学部アジア研究センター. 2020年12月17日閲覧。
- ^ a b c d e 「職業 ボタンニスト/個性やアイデア 生み出す小宇宙」『日本経済新聞』朝刊2019年6月16日12面(NIKKEI The STYLE / Fashion)。
- ^ “そうだったのか! 「ボタン」のかけ方が男女逆である理由”. オトナンサー (2017年8月30日). 2023年11月12日閲覧。
- ^ 保護者向けコラム「卒業式に学生服の第二ボタンを贈るのはなぜ?」菅公学生服(2018年3月2日)2019年7月7日閲覧。
- ^ ウィクショナリーには、ボタンの掛け違いの項目があります。
- ^ ウィクショナリーには、ボタンを掛け違えるの項目があります。