ベニタケ科
ベニタケ科(学名 Russulaceae)はキノコの分類の一つである。
ベニタケ科 | ||||||||||||||||||
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ドクベニタケ
Russula emetica (Schaeff.:Fr.) Gray | ||||||||||||||||||
分類 | ||||||||||||||||||
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下位分類(属) | ||||||||||||||||||
形態
編集傘は若いとき半球型。古いものは中央が窪むものが多い。傘の縁は破れたり、反り返ったりするものがある。胞子紋は白色が多いが、黄土色のものもある。柄は中心性で下部が細くなっている。柄の内部は中空、髄質のものが多いが、中実のものもある。つぼやつばはない。ひだは離生、又は垂生。肉は繊維状の菌糸ではなく、球状の細胞から成るためぼそぼそで、ちぎりやすい。いわゆる「縦に裂くことのできないキノコ」とはこうした組織構造をもつベニタケ科のキノコのことである。もちろん、縦に裂くことができないものは毒キノコであるという説は迷信であり、ベニタケ科には食用になるキノコと毒キノコの両方が含まれる。胞子は球状かやや楕円回転型で表面に模様がある。
子実体の形態は様々である。
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ハラタケ型(agaricoid) Russula crustos
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セコティオイド型(secotioid)Arcangeliella crassa
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Gasteroid: Zelleromyces cinnabarinus
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ヒラタケ型(pleurotoid)Lactifluus sp.
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コウヤクタケ型(corticioid) Pseudoxenasma verrucisporum
生態
編集ベニタケ科のうち、カラハツタケ属(Lactarius)、ベニタケ属(Russula)、チチタケ属に属する菌類の多くの種は樹木の根と共生し、菌根を形成することで生活していると考えられている。樹木にとっては菌類の作り出す有機酸や抗生物質による土壌中の栄養分の吸収促進や病原微生物の駆除、菌類にとっては樹木が光合成で得られた栄養分の一部を受け取っている相利共生の関係がある。土壌中には菌根から菌糸を介して同種の樹木同士や他種植物に繋がる広大なネットワークが存在すると考えられている[1][2][3][4][5][6]。ツツジ科植物の中には本科と共生というより寄生に近い関係を結ぶものがあり、土壌中の本科を含む菌類の菌糸から一方的に栄養を奪い取っていると考えられている。このような植物を腐生植物や菌従属栄養植物と呼ぶ[7]。
土壌中の菌糸だけでなく、子実体にもしばしば寄生される。ヤグラタケ(Asterophora lycoperdoides)やヒポミケス属(Hypomyces)といった菌類はしばしばベニタケ科菌に寄生することで知られる[8][9]。コウヤクタケ型の子実体を作る3属については菌根菌ではなく木材腐朽菌である。
人間との関係
編集食用
編集全体的にボソボソした触感と評されることの多いグループであるが食用種も多く知られている。特にカラハツタケ属やチチタケ属を中心にハツタケ、チチタケおよびその近縁種が世界各地で親しまれている。この2属の子実体は傷つけると乳液を大量に分泌したり、乳液が時間の経過とともに特定の色に変色するなどの視覚的にわかりやすい特徴を持つ種類も多く、致命的な猛毒種もあまり知られていないこともあってキノコ狩りの対象としても人気が高い。
ベニタケ属にも食用種が含まれるが、食材としての利用は前記2属に比べて少ない。また、同属のニセクロハツは致命的な毒キノコとして知られ、しばしば中毒事故を起こしている。毒成分は2-シクロプロペンカルボン酸[10]で摂取すると筋肉を融解し、その分解物が腎臓等に損傷を与えることで致命的になる。
分類
編集
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ベニタケ科の系統樹。点線の属は位置が不確定なもの |
従来のベニタケ科はベニタケ属(Russla)とチチタケ属(Lactarius)の2属とされ、それぞれいくつかの節(section)に分けることが多かったが、近年の研究成果により節から属単位に格上げされるものもあり細分化されている。また、この際に和名チチタケ属に新たにLactifluusという学名を与えられ、従来のLactariusはカラハツタケ属という和名になった。以下に下位分類として所属する属および特徴を挙げる。研究者によって多少の差異がある。
上位分類についても従来はハラタケ目とすることが多かったが、マイタケに形態の似た木材腐朽菌であるミヤマトンビマイ科等とともにベニタケ目(Russulales)とする説が提唱されている。
カラハツタケ属 Lactarius
編集子実体はハラタケ型(agaricoid)もしくはヒラタケ型(pleurotoid)で傷を付けると乳液を分泌する。傘(cap)の表面にはしばしば環状の模様(zonate)が現れる。
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環状の模様が現れるLactarius torminosus
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Lactarius quietusの環状の模様と乳液
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変色性のある乳液を持つ種もあるハツタケ(Lactarius hatsutake)
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Lactarius alnicolaの胞子
Multifuruca
編集2008年に提唱された新しいグループ、従来のベニタケ属とチチタケ属に含まれていた一部種を合わせて形成された和名未定の属である。子実体はハラタケ型で傘表面には環状の模様が現れる。乳液は多くの種で分泌が見られない。
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Multifuruca sp.
子実体はハラタケ型もしくはヒラタケ型。乳液の分泌は見られない。傘はしばしば明るい色になり、環状の模様(zonate)は見られない。
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Russula emetica
子実体はハラタケ型もしくはヒラタケ型。乳液の分泌が見られる。傘の表面に環状の模様は見られない。
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傘に環状の模様がなく、乳液の分泌と変色が見られるチチタケ属
Boidinia
編集子実体はコウヤクタケ型。木材腐朽菌である。
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Boidinia furfuracea
Gloeopeniophorella
編集子実体はコウヤクタケ型。
Pseudoxenasma
編集子実体はコウヤクタケ型
種類
編集- ベニタケ属(Russula(Pers.:Fr)Gray)
- ツギハギハツ節(Sect. Pelliculariae)
- シロハツモドキ節(Sect. Delicoarchaeae)
- シロハツ節(Sect. Plorantes)
- アカカバイロタケ節(Sect. Crassotunicatae)
- クロハツ節(Sect. Compactae)
- カレバハツ節(Sect. Pachycystides)
- ススケベニタケ節(Sect. Decolorantes)
- クサハツ節(Sect. Ingratae)
- ヤブレベニタケ節(Sect. Rigidae)
- ドクベニタケ節(Sect. Russula)
- チチタケ属(Lactarius(DC.)Gray)
- ヒメシロチチタケ節(Sect. Panuoidei)
- チチタケ節(Sect. Dulces)
- クロチチタケ節(Sect. Plinthogali)
- ツチカブリ節(Sect. Albati)
- ヒメチチタケ節(Sect. Russulares)
- カラハツタケ節(Sect. Lactarius)
- ハツタケ節(Sect. Dapetes)
脚注
編集- ^ 谷口武士 (2011) 菌根菌との相互作用が作り出す森林の種多様性(<特集>菌類・植食者との相互作用が作り出す森林の種多様性). 日本生態学会誌61(3), p311-318. doi:10.18960/seitai.61.3_311
- ^ 深澤遊・九石太樹・清和研二 (2013) 境界の地下はどうなっているのか : 菌根菌群集と実生更新との関係(<特集>森林の"境目"の生態的プロセスを探る). 日本生態学会誌63(2), p239-249. doi:10.18960/seitai.63.2_239
- ^ 岡部宏秋,(1994) 外生菌根菌の生活様式(共生土壌菌類と植物の生育). 土と微生物24, p15-24.doi:10.18946/jssm.44.0_15
- ^ 菊地淳一 (1999) 森林生態系における外生菌根の生態と応用 (<特集>生態系における菌根共生). 日本生態学会誌49(2), p133-138. doi:10.18960/seitai.49.2_133
- ^ 宝月岱造 (2010)外生菌根菌ネットワークの構造と機能(特別講演). 土と微生物64(2), p57-63. doi:10.18946/jssm.64.2_57
- ^ 東樹宏和. (2015) 土壌真菌群集と植物のネットワーク解析 : 土壌管理への展望. 土と微生物69(1), p7-9. doi:10.18946/jssm.69.1_7
- ^ 末次健司, (2015) 菌従属栄養植物の不思議な生活を探る(第14回日本植物分類学会奨励賞受賞記念論文). 分類15(2), p99-108. doi:10.18942/bunrui.KJ00010115015
- ^ 常盤俊之・広瀬大・野中健一 (2019) 日本産ベニタケ科寄生性子嚢菌Hypomyces属菌について. 日本菌学会会報60(1), p1-6 doi:10.18962/jjom.jjom.H31-01
- ^ 橋岡良夫 (1974) 菌につく菌. 化学と生物12(11), p731-739. doi:10.1271/kagakutoseibutsu1962.12.731
- ^ 橋本貴美子ら(2009) 致死性毒きのこ,ニセクロハツの毒成分 横紋筋融解をひき起こす原因物質を解明, 化学と生物47(9) p.600-602, doi:10.1271/kagakutoseibutsu.47.600
参考文献
編集- 池田良幸『北陸のきのこ図鑑』ISBN 4893790927