ダッタンソバ
ダッタンソバ(韃靼蕎麦、学名:Fagopyrum tataricum)は、タデ科ソバ属の一年草。製粉・製麺して、蕎麦のように食用とされる。独特な強い苦みがあるため苦蕎麦(にがそば)とも呼ばれる[1]。「ダッタン」は漢字で「韃靼」と書き、モンゴルに住む遊牧民族の古い呼び名のひとつであるタタール人のことである。ダッタンソバの食品名は、彼らが好んだことにちなんで名づけられたとされる[2]。
ダッタンソバ | |||||||||||||||||||||
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ダッタンソバ
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分類 | |||||||||||||||||||||
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学名 | |||||||||||||||||||||
Fagopyrum tataricum (L.) Gaertn. | |||||||||||||||||||||
和名 | |||||||||||||||||||||
ダッタンソバ、ニガソバ | |||||||||||||||||||||
英名 | |||||||||||||||||||||
Tartary Buckwheat, Bitter buckwheat |
野生種
編集ダッタンソバ(栽培品種)に近縁な野生種に、多年草の虫媒植物のシャクチリソバがある。これはパキスタン、インド、中華人民共和国の南西部、タイと、ソバ属のなかでも広範囲の分布域を持っている。シャクチリソバの遺伝子やアロザイム変異を解析した結果からチベット地方に二倍体の野生種が発見され、約70万年前から150万年前頃に四倍体に分化したと考えられている[3]。なお、一般的に食用とする混同しやすいソバ(蕎麦)とは異なる種と判明している。
性質・分布
編集日本で主流のソバ(Fagopyrum esculentum)と同属であるが、ソバが他殖性であるのに対し、ダッタンソバは自家受粉する自殖性植物で、山岳地帯を中心に広くアジアに分布している[2]。寒冷に強く、ソバが育たない気象条件や、農地に適さないような土壌条件の厳しい土地でも比較的よく育成し、主に標高が高い高山地域で食用や飼料用として栽培・利用されてきた[2]。このような特性を生かして、通常は畑作に向かない寒冷な土地での生産性向上を目的に、品種改良や活用が国内で着目されている[4]。
生産地
編集ロシア、モンゴル国、ネパール、中華人民共和国の内モンゴル自治区・雲南省・四川省などの1,500〜2,700m程度の標高がある亜高山帯で主に生産されている[4]
日本
編集日本における初の本格的な栽培は岩手県軽米町で昭和60年(1985年)頃、岩手大学の教授が持ち込んだ16粒の種子から始まったとされる[5]。
栽培面積は2011年(平成23年度)では全国でおよそ325ha(ヘクタール)、その内250ha以上が北海道であり生産の中心となっている[6]。また、機能性物質ルチン含有量が多いことが注目され、ダッタンそば茶等の消費量が増加し、国産需要もあり栽培面積も増加傾向にある[7]。北海道は「北海道の外来種リスト」において、北海道に定着しているとは言えない植物としてダッタンソバを挙げている[8]。
- 国内の主な生産地
成分及び利用
編集- 種子
種子の形状がソバと違い、表面のくぼみからカビが発生しやすいため、水分を低くして管理するか早期に消費する必要がある[6]。また、ダッタンソバがソバと混入すると、蕎麦製品としての見た目や味の違いからの品質低下が指摘されており、混入に規格を設けて対応することが望まれている[6]。
- 成分
種子の成分は普通ソバとほとんど違いがみられないが、ルチン含有量はソバの50〜100倍で非常に多い。ルチンはフラボノイドの一種で、毛細血管強化作用を持ち、血圧低下に関係するとされる機能性成分である。しかしダッタンソバ子実にはルチン分解酵素も多く、粉への加水で急速に分解して苦み成分のクェルセチンが生成する。この独特の苦みのためにニガソバとも呼ばれている。クェルセチンは、エームズ試験によりフラボノイド中最も変異原性の高い物質といわれているが、クェルセチンに分解する前のルチンには変異原性がないと言われている[9]。ソバ同様に実を原料にして、ルチンを豊富に含む健康食品のダッタンソバ茶や麺類として加工、販売されている。
ルチン分解酵素が失活していないダッタンソバ粉から製造された乾麺、生麺ではルチンがほとんど含まれていない。麺類からルチンを摂取する場合にはルチン分解酵素を失活させたダッタンソバ粉を用いる必要がある。研究から加水分解により生成されたクェルセチンの機能性が注目されており、ルチンよりむしろクェルセチンを積極的に評価する動きがある[要出典]。
品種
編集品種には道県で栽培が奨励される品種とそうではない品種がある[要出典]。
奨励品種
編集- 北海T8号 - 農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)北海道農業研究センター開発
奨励品種ではない品種
編集- 信永イエロー - 長野県の永田栄一によって育成されたダッタンソバの第一号登録品種。
- 北陸4号 - 北陸地方で主に栽培される。
- 大禅 - 民間育成品種
- 気の力 - タカノ育成品種
- イオンの黄彩 - (独)日本原子力研究開発機構育成品種
- 満天きらり - 農研機構 北海道農業研究センター開発
ダッタンソバブーム
編集ダッタンソバが蕎麦粉製品として日本に紹介されたのは、1997年3月12日付の『日本経済新聞』とされている。しかし、苦味をマイルドにした苦蕎麦という認知ではブームと言うまでには至らず、ルチン(ポリフェノール)の健康効果、抗酸化機能に着目された2001年を境に掲載メディアが急増している[12][13][14]。
このことから、ダッタンソバブームとはルチンあるいはポリフェノールのブームが背景にあったと考えられる。ダッタンソバでないソバを茹で上げた蕎麦湯にもルチンが溶け込んでいるので飲むと健康に良いというような説が流行したのも、ルチンに注目したダッタンソバブーム以降であると考えられる[15][16]。※実際にはルチンは不溶性であり、通常の生そばを茹で上げた蕎麦湯の含有量は期待できない[17]
脚注
編集- ^ デジタル大辞泉(だったんそば) 小学館 2013年10月4日閲覧
- ^ a b c 「消費者の部屋通信 平成21年9月発行 ダッタンソバ(韃靼蕎麦)」 農林水産省 2013年10月8日閲覧 (PDF)
- ^ 山根京子、シャクチリソバ野生集団における倍数体成立と遺伝的分化の分子マーカーによる解明 京都大学 博士論文 農博第1313号, NAID 500000234447 , hdl:2433/148969
- ^ a b 「ダッタンそば粉も、少量パッケージでの供給が… 続・血液サラサラ韃靼蕎麦の謎(2003年8月2日)」 All About グルメ 2013年10月4日閲覧
- ^ 【おらがぐるめ】韃靼そば/岩手軽米 癖になる味/豊富なルチン 苦味が魅力『産経新聞』朝刊2018年6月29日(2018年9月11日閲覧)。
- ^ a b c 「だったんそばの農産物検査規格の設定について 平成24年2月」 農林水産省 2013年10月4日閲覧
- ^ 『そば関係資料』((社)日本蕎麦協会編、2010年3月)
- ^ ダッタンソバ、北海道ブルーリスト2010、2013年3月3日閲覧
- ^ 安田 俊隆、正木 和好、柏木 隆史、「ダッタンそば種子に含まれるルチン分解酵素について」、『日本食品工業学会誌』 Vol. 39 (1992) No. 11 P 994-1000
- ^ 品種紹介パンフレット ダッタンソバ「北海T8号」2008年9月1日 北海道農業研究センター 2013年10月8日閲覧
- ^ a b 「新品種 ダッタンソバ『満天きらり』北海道農研センターが育成(2013-8-16)」 全国農業新聞 2013年10月8日閲覧
- ^ 『不老長寿のダッタン蕎麦』 (小学館) 片山虎之介の仕事- そばログ
- ^ 掲載メディア情報 (株)イナサワ商店
- ^ だったんそばの開発輸入 太洋物産株式会社
- ^ (一例)常陸太田「ソバ(蕎麦)の話」(金丸弘美氏参考資料)4/5 内閣府 第2期・第2回食育推進評価専門委員会
- ^ (一例)おそばの栄養価 「蕎麦文化を知る」芝大門 更科布屋
- ^ 厚生労働省の「健康食品」の素材データベースでは水溶性と記述されているが、これは健康食品に科学的に合成された食品添加物としてα-グリコシル-ルチン(1989年に林原により特許出願)が前提となっていると思われる。